解析学俗論2018授業日誌

関数解析は、線型代数とともに飯の種であるし、気に入ってもいるのだが、 これを授業としてどう取り上げるべきかは、毎回悩むところ。 その基礎部分は良く整備されていることもあり、書いたものを読めば終いなはずのものなので、 板書するのは鬱陶しいし効率的でもないのだが、 一方で、読み解くことが苦手というかできない、あるいはしない人が多くなっているという。
ということで、friendly な授業が歓迎されることになるのであるが、そういうことをいつまでも続けていて、 果たして世界で伍していけるのかというのは、余計な心配であろうか。 日は沈み、再び昇ることはなかった、という時代が来るのであろうか。その前に死にゆく身としては、 どうでもよいことではあるが、されど、しかし。

以上は、昨年度の使い回しである。年寄りは同じことを繰り返すものである。ということで、 今回も「半転授業」を継続することにする。 確認のために書いておくと、鍵となる概念と結果の証明は自主学習に委ね、 授業では、事前学習の際の疑問点、背景の部分、概念相互のつながり、結果の意義と使い方のコツとか、 いわゆる教科書的でない部分を中心に、質疑応答も交えて自主学習部分のサポートを行う、ということである。

必要に応じて必要なことは、自分で何とかする、あるいは何とかできるようになってもらいたい、 関数解析を題材に、そういったことを目論んでいる。 昨年の経験からは、可もなく不可もなくといったところであるが、 もちろん、これは相手があって成り立つことなので、もしかしたらと期待しないでもないこともなかったりする。

授業は、テキストである 関数解析入門2018 の三分の二程を、 進度予定表に沿って行う。 今回は、曜日の関係でニセのquaster制の悪影響を受けなくて済みそうであるが、 教育制度を蝕むこと甚だしく、無責任に臆面もない忖度社会であるか、大学もまた。


完備距離空間など(4/17)

 見上げれば藤の花、路地ひとつにもあらたまりて。

神は細部に宿る、ということもあり、言葉遣いへの思いとか、どうでも良いどうでも良くないこととか、 あちらこちらふらつきながらも乱歩を重ねたいと思う。

今日は、初回ということで特殊な構成でした。 前半の通常は演習を行う時間に、半転の意味とか成績評価のこととかをまず確認。 事前学習(最低でもテキストの流し読み)と事後学習(細部の確認)の重要性、授業本体はそのサポート時間であること。 関数解析というくらいなので関数がふんだんに登場するわけであるが、その変域としてのユークリッド空間について あれこれ。とくに、高次元球面と球体の計量関係について一頻り。ガンマ関数もついでに。 最後に予備知識アンケート。
後半の事前学習に対するサポート時間では、完備距離空間についてあれこれ。 metric space を距離空間と訳すのが慣例であるが、距離は distance の訳であるので、食い違いがおこっている。 誰も気にしないようであるが。metric の訳としては、計量というのがあるので、計量空間と呼ぶべきか。 ともかくも、距離空間の具体例をどれだけ挙げられるか。グラフ(ネットワーク)も距離空間。 位相と言う言葉に反応してみる。topology と phase という別の用語に同じ訳をあててしまった愚か。 似たような例に、lattice と bundle に束をあてるので、同じ石に何度でもつまづいているというか。 流石にこれだけの気もするが、はてさて。二度あることは三度目の愚かさかな。 何はともあれ、距離空間の位相である。連続写像の2つの表現、local と global。
訳語ついでに、complete(全部満たす)と exact(ちょうど) の取り違えも気になるところ、 というか誰も気にしない?
完備性のキーワードは? と聞かれたら、即答えて欲しい、コーシー列。 Cauchy さんがどの程度認識していたのか気になるところではあるが。
本日のメインディッシュは、バナッハの不動点定理 (1920) 。 これの良い所は、簡単である、構成的である、色々使える。 英語圏の人たちはバナックのように言ったりする。真実は、その間にあり、といったところ。
授業での解説を再現してみる。 $f: R^n \to R^n$ が $C^1$ であるとして、 \[ f(y) - f(x) = \int_0^1 \frac{d}{dt} f((1-t)x + ty)\, dt = \int_0^1 f'((1-t)x + ty) (y-x)\, dt \] から \[ |f(x)-f(y)| \leq \| f'\|_\infty |x-y|, \quad \| f'\|_\infty = \sup\{ \| f'(x)\|; x \in R^n\} \] が得られるので、$\| f'\|_\infty < 1$ ならば $f$ は収縮で、  $f(x) = x$ となる $x \in R^n$ がちょうど一つ存在する。  $n=1$ の場合に思いを馳せてみる。
contraction の訳にも噛み付いてみる。縮小写像ということが多いのだが、何と言っても舌を噛みそうな早口言葉。 ということで、縮め改め収縮。 漢字語が、いかに日本語(これも漢字語!)を傷つけてきたかについては、 高島俊男「漢字と日本人」。これに噛みつく日本人がまた沢山いるという根の深さ。 ちなみに、漢字語が氾濫するのは明治以降です。長い歴史があるわけじゃない。 伝統を喧伝する業界の底の浅さよ。

バナッハ空間(4/24)

花の移ろい、藤もツツジももはや、といったところ。気温はおさまって、雨もよう。

今日は、連続関数の作るベクトル空間に一様収束のノルムを導入して、 完備ノルム空間=バナッハ空間の導入としました。
ついで、距離空間をこれに等長に埋め込むことで、完備化の構成としました。 完備化については、一意性が成り立つので、一つ作ってみせたということでもあります。
ここでは、コーシー列を使って、標準的なものを作りましたが、いわゆる普遍性という形での導入もありえます。 どういうことかというと、距離空間 $(X,d)$ の完備化を、完備な距離空間 $(X^*,d^*)$ と等長埋込み $i:X \to X^*$ の組で、$i(X)$ は $X^*$ で密になるものを $(X,d)$ の完備化と呼ぶことにして、 完備化の存在と唯一性を示す、というものです。完備化だけでなく、諸々の数学的操作に広く使えるので、 一度は経験しておくとよいでしょう。一例として、ベクトル空間のテンソル積を挙げておきます。
この普遍性による構成でよく出てくるのが、「自然な同一視」です。 これは、なかなか玄妙なものでもあり、同一視(の整合性)とはなんぞや、ということを考えだすと、 おそらく認識論的な深みにはまって抜け出せなくなりそうな。かといって、すでてを区別しだすと、 こんどは同一視のための全単射が氾濫することになって、こちらも収拾がつかなくなります。 ということで、標準的な構成が可能であれば、それを使うに越したことはない、というのが、 Cantor による完備化のありがたさです。
ちなみに、完備化の本質でもある、有理数から実数の構成では、 Dedekind cut と呼ばれるもう一つの標準的な構成方法があり、 コーシー列のコーシー列みたいな衒学性は避けられるのですが、 こちらは実数というか有理数の特殊な順序性に依存します。

バナッハ空間 $C_b(X)$ に関連して、いつ $C(X) = C_b(X)$ となるかという問を発しました。
$X$ がコンパクトであることが十分条件であることは簡単にわかりますが、その逆はどうかという問です。
$X$ にある種の分離性(連続関数が位相を定める)場合には逆も正しいので、 $X$ が局所コンパクトハウスドルフ空間の場合の反例があるかどうかを問題とします。

ルベーグ空間(5/1)

連休の谷間に穏やかに晴れて木々の薫るほどに。

Banach に近い年代のポーランドの著名人を幾人か:
F.F. Chopin (1810--1849)
Marie Curie (1867--1934)
Stephan Banach (1892--1945)
Banach さんの生きた時代背景とか、定理は cafe から生まれるとか。

演習出席者は10人程度でしょうか。 提出いただいたレポートは、大きな欠点があれば返して復習を促したいと思ってますが、 それ以外は「成績の資料」として、手元においておきますので悪しからず。

数列の場合と関数の場合に分けて、F.Riesz の導入した(らしい)ルベーグ空間について一しきり。
Hoelder 不等式から Minkowski 不等式(三角不等式)という流れ。
$L^p$ の L は、Lebesgue の L か、はたまた Linear の L か。逆質問ということで、これも宿題。
突然ですが、$\R^2$ の場合の $L^p$ の単位球が $p$ とともに変化する様子がわかりますか。
ノルム空間の球体は凸集合になります。

ルベーグ空間の完備性の証明のポイントは、関数列を、階差の和(微分して積分)の形に書いて見るところ。 バナッハの判定法というのは、この証明を見て思いついたんだろうと思う、多分。

ノルム空間の完備化。これは、距離空間の完備化を理解していれば、良い演習問題といったところ。

可分(separable)という用語について。英語だと、可算性がどこにもない。和訳は、「可算分離可能」という 意訳を縮めたものか。過分とか寡聞とかぶるのだが、こういった一般用語は数学では出てこないのでまあいいか。
こういう音を聞いただけでは意味が定まらない言語というのはかなり異常。 忖度の温床というべきか。日本人の脳への影響の有無や如何に。だれか、調べてくれないかなあ。
とにかく、可分な完備距離空間をポーランド空間 (Polish space) という。これは、位相空間としてよりも、 ボレル可測構造に特色があり、なんと、集合の濃度が完全分類を与えるという。 無限な場合は、可算か実数(の濃度)の2種類しか無いという。ユークリッド空間は、次元によらず全てボレル同型になる。
宿題の追加:実数から整数を除いた集合と実数全体の集合がボレル可測構造について同型であることを示せ。
ポーランド学派 (Polish school) の成果としては、 他に Banach-Tarski のパラドックス(という名前の定理)というのが有名。 やんちゃな自由群といったところ。

講義ノートの Riesz-Fisher の定理の主張に大たわけがありました。お詫びして訂正します。 $1 \leq p < \infty$ のとき、ノルムでの収束からほとんどいたるところでの収束は、部分列を取らないと成り立ちません。  有名なところなのですが、Banach 判定法による級数の場合と混線して書いてしまったようです。

たたみ込み(5/8)

奄美が梅雨入りとか、朝はひんやりと午後からは雨の予感。

今日も今日とて、ベクトル空間小史から。ベクトルあれこれというのもあったか。
Hermann Gassmann (1862) Die Ausdehnungslehre
Giuseppe Peano (1888) Calcolo geometrico secondo l'Ausdehnungslehre di H.Grassmann
Stephan Banach (1932) Theories des operations lineaires
John von Neumann (1932) Mathematische Grundlagen der Quanten Mechanik

演習問題の中から一つ取り上げて、$1 \leq p \leq q$ のときの $\ell^p$ と $\ell^q$、 $L^p$ と $L^q$ の包含関係。

新たな概念というのか操作というのか、たたみ込みについてひとしきり。
代数的にはベクトル群の群環ということであるが、それはあからさまには言わず、たたみ込み積。
一方で、確率的解釈をすれば、移動平均。これは次回以降の話になるが、mollifier である。
ということで、関数空間としての性質がたたみ込み積で遺伝する様子を観察する。 その際に、平均操作を担う方は、$L^1$ に取ることに注目する。
ノルム空間の完備化との関連で、dense linear subspace について $\ell^p$ がらみで説明。
これを $L^p$ に変えて、$C_c(\Omega)$ が $L^p(\Omega)$ で dense であるというは基本的な事実。 ただルベーグ積分と関数解析の狭間に埋もれてしまうという、カリキュラム上の悩ましさ。
この近似する性質とも関連する「たたみ込み」とその性質を最後に挙げたところで時間。 このたたみ込みの方法は、簡単かつ強力なものなので、是非復習を。

次回は、いつも通りの演習の後に、1回目の試験(1時間程度)です。

試験1(5/15)

穏やかに晴れて気温も上がり、桑の実も色濃くあざやかに。

演習の問題としては、たたみ込み関係の計算と性質(の証明)がお薦め。

軽く復習の後で 試験1をしました。

今日は講義がなかったので、来週の演習の時間は、今回の試験結果の講評を行う予定です。修士の方もどうぞ。

次回から、教室がA317へ変更します。時間は今までと同じ。

近似デルタ関数(5/22)

さわやかな五月晴れ。しろやしおの群れはいかに。
春は清々しくて、秋は爽やか、という使い分けは何時誰が始めたことやら。 季語なんかは変なこじつけみたいなものがあって、一般人に強制すべきものとも思えず。語感(語源?)的には、 春は爽やかで、秋が清々しいのだが。ぶつぶつ。

試験がやさしすぎるのではないか、というコメントをいただきましたが、どうしてどうして、 この問題とわざとらしい復習にしてなお減点せざるを得ない答案が結構な数に。 3番の問題は、支えの評価式を導て欲しかったのだが、復習が効きすぎたか、それを使って事足れりという 人が大杉栄。まあ、おまけしておきました。ということで、今回の点数に甘く見ていると、 火傷しそう、という老婆心かな。

前回のたたみ込みを受けて、今日は近似デルタ関数でした。 近似単位元とも言います。応用として、Weierstrass の多項式近似定理を取り上げ、 その具体例として、フーリエ級数論における近似定理を再現しました。 と、これは去年そのままだ。コピペだ、文句あるか。

教育実習等で出られない演習については、事前申告の上、後でまとめて出してください。

ヒルベルト空間(5/29)

九州・四国も梅雨に入り、曇天もまた蒸すほどに、桑の実も熟しつつ。

近似デルタ関数であるが、テキストで説明したものの他に次のような「野性的」なものもあって、楽しい。 案外まとめて説明することがないので、ここで取り上げておこう。
以下、一変数の場合を扱う。 出発点は、$\rho(x) = 1/\pi(x^2+1)$ という確率密度(コーシー分布という)に伴う近似デルタ関数列 \[ \delta_n(x) = \frac{n}{\pi} \frac{1}{n^2x^2 + 1} \] である。これを \[ \delta_n(x) = \frac{i}{2\pi} \left( \frac{1}{x + i/n} - \frac{1}{x-i/n} \right) \] と書き直して、 \[ \delta(x) = \frac{i}{2\pi} \left( \frac{1}{x + i0} - \frac{1}{x-i0} \right) \] という表示を得る。これは複素解析でのコーシーの積分公式に関係していて、 \[ f(0) = \frac{1}{2\pi i} \oint \frac{f(z)}{z}\, dz \] で原点の廻りの積分路を実数直線を取り囲む上下二本の線積分に取り替えると、 \[ f(0) = \frac{1}{2\pi i} \int_{-\infty}^\infty \left( \frac{1}{x -i\epsilon} - \frac{1}{x+i\epsilon} \right) f(x)\, dx \] となる。 一方で一次分数式を \[ \delta_n(x) = \frac{1}{2\pi} \left( \int_0^\infty e^{it(x+i/n)}\, dt + \int_{-\infty}^0 e^{it(x -i/n)}\, dt \right) \] と書きなおして極限 $n \to \infty$ を取ると、 \[ \delta(x) = \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^\infty e^{itx}\, dt. \] この積分範囲を $[-n,n]$ に限定することで、 \[ \frac{\sin(nx)}{\pi x} \] もデルタ関数の近似式を与える。こちらは、$x = 0$ 以外で激しく振動する関数になっており、まさに wild と呼ぶのに相応しい。mild と wild を繋ぐと \[ \lim_{n \to \infty} \frac{n}{\pi} \frac{1}{n^2x^2 + 1} = \lim_{n \to \infty} \frac{\sin(nx)}{\pi x} \] という怪しげな等式が出現する。

さて、ヒルベルト空間である。Hilbert-Schmidt であり、Dirac, von Neumann である。 いろいろ伝えたいこともあるのだが、技術的なところでは直交基底と射影公式、 形式的なところでは sesquilinearity と Dirac notation。 それに比べれば、他のことはどうとでもと言ったところ。

線型汎関数(6/5)

梅雨入り間近の晴れ間、湿度も高く、山椒と西瓜の季節感。

本日の演習参加者は、わずか3名!

何はともあれ、線型汎関数である。積分の不等式評価を関数解析と勘違いしている人もいそうであるが、 線型汎関数から線型作用素に至って魂入る、かな。
代数的な例として線型代数から。解析的な例として連続関数のリーマン積分。
ノルム空間の場合の線型汎関数の連続性の言い換えを3つほど。
内積空間の場合の線型汎関数として、Dirac notation にまつわる話を少々。 行列代数的には、縦ベクトルのエルミート共役。記号もそれを使うのが便利。
双対空間という名のバナッハ空間。代数的な理解からは見えてこない積分の抽象化(来週少しします)。
メインは、Frechet, Riesz, Schmidt, von Neumann によるヒルベルト空間の双対の記述。 少し不正確に自己双対性ということもある。 リースの表現定理ということが多いのであるが、Frechet と Schmidt を無視するのは変。
その応用として、von Neumann による Radon-Nikodym 定理の証明。

以上、分かってしまえば、どれも難しくないものばかり。 先人の苦労に思いを馳せながら、復習してみてください。

関数解析をテーマにした九大の綿谷先生による集中講義(4年・大学院)が 6/25--6/29 にあります。 受講受付は 6/15 までである由。

ラドン測度(6/12)

梅雨の晴れ間にあじさいもまたまぶしげに。 朝から眠い、いつだって眠い、寝ている間も眠い!

今日は、Radon測度をネタにひとしきり。
Bourbaki 好みの Radon 測度であるが、名称が適切であるかどうかは微妙なところ。
それはそれとして、これをどこでどのように学ぶかは各人各様であろうが、 無駄をしているようなところ無きにしもあらず。
そもそもルベーグ積分で一番むずいところは、測度の構成なわけで、 測度を認めたところから積分を定義し、収束定理を示す辺りは、どちらかというとなぞりやすいところかと思われる。
その測度の構成であるが、測度を考える空間の位相的な性質が避けて通れず、面白いといったらそうかも知れないが、 一方で見通しの悪さは否めず難しいところ。カラテオドリがあるじゃないかと言う人もいるだろうが、 例えばユークリッド空間のときに具体的に可測集合を同定する際に、位相が顔をだすことになる。
いずれにせよ、測度から積分というアプローチは、どうしてもこの二手間から逃れることができないようだ。
ということで、積分を先に作ってしまえ、という人が当然現れる。 これはルベーグがかの積分論を展開した15年ほど後には既に整えられたもので、Daniell 積分という。
こちらは、積分を順序ベクトル空間上の正線型汎関数ととらえ、 簡単な関数に対する積分が既知であるところから出発して、積分の収束定理が成り立つように積分できる 関数の範囲を拡張するという手法である。
これの良いところは、積分できる関数を拡張すると、それが即座に測度の構成もなし得ているという、 ひと粒で二度おいしい。

結果の流れの紹介のところで、正汎関数のノルム連続性が、単調各点収束についての連続性がただちにわかる、 ようなことを言ってしまいましたが、ここのところは、コンパクト性が効いていて、単調各点収束が一様収束を意味する という Dini の定理なるものを使うのでした。お詫びと共に補足しておきます。

ルベーグの学位論文 (1902)
Riesz representation theorem (1909)
Caratheodory outer measure (1914)
Daniell integral (1917)
Markov (1938)
Kakutani (1941)

Daniell の仕事が思いの外知られていない謎。

来週は2回めの試験です。

試験2(6/19)

今の所穏やかな梅雨かと思えば地震。最低気温20度の曇天。

演習の問題が少なかったようで、半連続関数で補充。

今回は短めの復習のあとに、 2回目の試験をしました。早いもので、残りは5回。

試験の講評は、次回の演習時(9:00--10:00)に。

ハーン・バナッハの定理(6/26)

曇り空なれど蒸す暑さ。一年前と寸分違わぬか。前線は日本海に、あじさいの劣化もまた。

試験の講評について。説明するタイプの問題では、どこまで書けば良いのか悩ましいかも知れないが、 基本は、自分はきちんと理解しているぞ、というアピールである。
ということで、キーワードを並べただけというのは、 一夜漬けで何とか言葉を覚えてきました、という印象しか与え得ず、不十分。
一方で証明などの技術的な部分には敢えて立ち入らず、むしろ要点を適切に書ききるのが望ましいのであるが、 ぼんやりと理解しただけでは難しいか。
幾何学的定理と指定したにもかかわらず、何が幾何学的であるかについて触れたものはごくわずか。
$V^*$ の構造を問うているのに、線型汎関数の連続性の言い換えについて書くもの多し。 個々の要素ではなく、集団の性質を問題にしている。木を論じて森を見ず、といったところ。

さて、Hahn-Banach である。年齢の順に関係者を並べると、 Hans Hahn (1879--1934), Eduard Helly (1884--1943), Stephan Banach (1892--1945)。
Hahn も Helly も Vienna の人で、大学の同窓生。ただ、接点の程は不明。
Hahn は基礎論にも興味があったようで、かの Kurt Goedel の先生でもあった由。
Helly は第一次世界大戦に従軍し、ロシアの捕虜となって長くシベリアに抑留される。オーストリア帰国後も、 経済的に難儀し、Einstein のつてでアメリカに移住するも、不遇の生涯というべきか。
Helly は Hahn-Banach の先駆者であった。Riesz が Markov-Kakutani の先駆者であったように。

今日は、Hahn-Banach の応用としての埋込み $V \subset V^{**}$ と双対性について。 そのあと、幾何学版の説明。
ノルム版のあとに、convex set と seminorm の話を入れ、凸集合版で終えるという構成が良かったような。 そのうち修正しよう。という去年のメモも虚しく今回も修正叶わず。

有界線型作用素(7/3)

台風のもたらす夏の空に蝉もだまされて。

有界作用素について簡単に触れたあと、 convolution を移動作用素の積分平均として説明。 用語の使い分けについては、枕のつもりが、ひとしきり盛り上がり。

ついで、Baire の定理を Bolzano のしぼり出し論法と比較して。 この二つ、並べてみるとよく似ていると思いませんか。名づけてしぼり出し。一度聞いたら忘れない、かな。
と去年の日記であるが、「しぼり出し」はいかにも暑苦しいので、「追い込み」ないし「追い詰め」か。 英語だと drive argument である。negative なニュアンスは気になるが、 Bolzano の追い込み定理に、Baire の追い込み定理と唱えてみる。大漁なり。

Baire の定理の使い方に関連して、$\ell^2$ の代数次元が可算濃度であるという豆知識にも触れようと思ったのだが、 その前段階で時間切れ。

Rene-Louis Baire (1874--1932)
Henri Lebesgue (1875--1941)
ともに Ecole Normale Superieure であったか。

有界性定理(7/10)

広島、岡山、愛媛、・・・、荒々しくも梅雨が明けた。

有界性定理をひとしきり。 少し手直しした講義ノートを更新をしておきました。
筆記体と草書体、今回もどうでも良い話が多すぎたようで、具体例には触れずじます。
Banach-Steinhaus は Baire の定理の系の如く、一方、開写像定理はそれにもう一議論が必要。
それに比べて、閉グラフ定理は開写像定理の付属物ではありますが、 その形で出会うことが多いので、独立の定理として。

授業アンケートもしました。アリバイ作りという言葉が虚しく響きわたり、今回もまた。
お上は上から下まで、ときに傲慢にときに無邪気に全体として無責任に国を破滅に導こうとしているという実感。 抵抗のすべなきや。

ヒルベルト空間上の線型作用素(7/17)

セミに百日紅、騒がしくも儚くも。

梅雨明け10日の炎暑の中、これは修行であろうか、何かの罰ゲームであろうか。
どうも梅雨明けが早まっているような。
暑さで記憶も薄れ、小鮎も恨めしく。

ヒルベルト空間上の有界作用素についてあれこれ。 キーワードは、スペクトルとエルミート共役。 表現行列と行列要素の関係。

来週は最後の試験です。形式は過去2回分と同じ。演習もあります。

試験3(7/24)

連日の最低気温28度超え、8年前の猛暑もものかわ。ただただ、おろおろと天に祈りつつ。 はかなき夢さえも幻の如く消え去るか。

今回は復習も早々に、というかせずに、 3回目の試験 を約1時間、これにて私の関数解析はすべて終わりました。
成績を以前の教室横の掲示板に出しておきましたので、ご確認ください。
疑問点がある場合は、7月31日までに連絡を。


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