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純粋状態族に対する松本理論との関連

松本[26,27]では 純粋状態からなる状態族の $ {\cal C}_{\theta}$ と Berry Phase に対応する $ U(1)$-bundle の曲率との関連を調べている. 一般に2つ以上のパラメータを持つ量子状態族の推定では, 個々のパラメータに対して局所的に最適な測定が 非可換性のために,同時に実行することができない. したがって,複数のパラメータを同時に推定するとき, ここのパラメータを独立に推定したとき比べて推定精度が低下する 度合いが問題となる. すなわち,異なるパラメータの同時推定の困難さが問題となる. 松本[26,27,28,29]によると, 純粋状態族の場合は2つ以上のパラメータ間の Berry Phase に対応する $ U(1)$-bundle の曲率が その際の推定精度の低下の度合いと一致する. なお,本稿で扱った具体例に対しては全て松本理論の適用が可能である. 例えば,先に紹介した coherent な状態族では 互いに全く同時推定不可能なパラメータの対がある. そのため,Cramer-Rao 型の下限 $ {\cal C}_\theta$ % latex2html id marker 4395
$ \mathop{\rm tr}\nolimits J^{-1}_\theta$ ではなく, % latex2html id marker 4397
$ \mathop{\rm tr}\nolimits 2 J^{-1}$(ただし $ J_\theta =1$の場合)となる. もし,この曲率が消えるならば純粋状態からなる状態族の場合 % latex2html id marker 4401
$ {\cal C}_\theta=
\mathop{\rm tr}\nolimits J^{-1}_\theta$ となる.

松本理論では曲率の寄与が漸近1次の項に現れることに対して, 本稿で扱った問題では曲率の寄与が漸近2次の項に現れる点で異なっている. また,松本理論では曲率の存在が推定精度を悪化する方向に働いているのに 対し,本稿で扱った問題では正曲率であれば推定精度を向上させる方向に 働いている. しかしながら,両者の間では注目している接続が全く異なっているので, 結論自体は全く矛盾しない.

このように同じ量子推定の枠組みの中でも, 注目する接続によって,曲率が全く異なった仕方で 推定精度に寄与することがある.



Masahito Hayashi 平成13年7月10日