古典論では指数型分布族が曲率 0 になるような接続 (アファイン接続)を考え,アファイン接続の下での曲率が, 2次項の係数となるという結果が得られている. この場合,曲率が 0 でない限り, 2次項の係数が正になり, 曲率が大きいほど2次項の係数が悪くなる.
本稿で論じた問題と上述の古典論の結果では, 全く逆の結論のように思える. しかし,risk が異なっている点や, バイアス補正の有無(本稿で論じた量子の場合は そもそも座標概念を導入していないのでバイアスという概念が存在しない.) 考えている接続が異なっている点などに注意すると, 必ずしも矛盾した結論にはならない.
次に裾確率に注目して比較する. 大偏差型の評価では 真値から推定値がノルムが 以上離れる 裾確率の減少率を表す指数に注目する. 古典論では,裾確率の指数と KL-divergence の間に(弱一致性の下で) となる関係式が成立する. しかも, 全ての点で となる推定量が存在するための必要十分条件は モデルが指数型分布族であることである. 指数型でない1次元の場合は の First order ( ) の係数が曲率に対応する[3]. 多次元でも,局指数型であれば,同じように の First order の係数が何らかの意味で曲率に依存すると思われる.
一方,本稿で議論した量子状態族では, は全て となり, スカラー曲率の有無では変らない. 裾確率に曲率の影響が現れると思われる部分は, が に近づく速さである. ( でスカラー曲率を表した.) このように,裾確率に注目すると古典論の場合と全く異なった形で 曲率が寄与している.