藤原先生の「遙かなるケンブリッジ」は素晴らしい本で,何度も読んだ. その第十一章(文庫版224ページ)には
ベイカー教授は論文をペラペラとめくるや、 「読みづらいから、定義を述べた部分には赤の、定理の部分には青の、系の部分には緑のアンダーラインを引いて来なさい」
とある. なるほど!数学書とはこうして読むのか!と私は早速マネした. 今でも続けている.
何をカラフルにすべきか
数学書を読むときに抑えておく必要があるのは
- $X$を多様体とするなどの記号
- 定義
- 定理・命題・補題・系・事実
- 大切な例
- ある章や節で(いつのまにか)課される仮定
である. だから,これらを目立たせると数学書は大変読みやすくなる. また,章や節のタイトルもはっきりさせておくと見やすい.
数学書において記号と定義や定理が大切なのは当たり前だし,大切な例が大切なのもトートロジーだが,「いつの間にか課されている仮定」を浮き彫りにすることはウルトラ重要だと強調しておきたい. 例えば,Donaldson先生は,なんというか,エッセイ風に論文を書かれる方で,仮定がいろいろなところにいつのまにか書かれているのだが,そのようないつのまにか課されている仮定を可視化しておくことが,将来読み返すとき,本当に役に立つ.
ちなみに,ここは大切だ!と思ったところも目立たせたくなるが,しかし,そういう気持ちは移ろいやすいものなので,私は鉛筆かフリクションで印をつけている. ただ,フリクションで書いたものが30年後も消えていないか疑わしいので,鉛筆を使った方がいいかもしれない.
色分けルール
数学書の色分けには蛍光ペンを使う. 蛍光ペンセットにはピンク・オレンジ・イエロー・グリーン・ブルーがだいたい入っているので,私はこの五色を使っている. 五色を超えるとルールが覚えられなくなると思う.
蛍コートは,細芯のペン先が潰れにくくて使いやすいし,だいたいどこでも売ってる定番なので,私はこれを使っている. ところで,一般に,道具へのある程度のこだわりはよいと思うし,私もどちらかといえば文房具マニアなのだが,道具と一蓮托生してはならない. 例えば,色に凝りすぎるとその色が販売休止になったときにツラい.
では,私の色分けルールを例としてあげよう. 仮定がピンクなのは注意換気の色だからで,定理がオレンジなのは脳が一番早く認識する色だと読んだ(真偽不明)ことがあるからで,定義や記号では一端立ち止まる必要があるのでイエローで,大切なことがグリーンなのは森が偉大だからで,残りのブルーが例だ. ちなみに,ピンクは仮定とタイトルの二つに使われているが,両者はある種の区切りを表していると止揚すればルールは一貫している. また,藤原先生のエッセイでのBakerは定理と系を別の色にしているが,Bakerの発言を正確に書いたわけではないだろうし,私の経験では定理と系を別の色にすることに意味はない.
- ピンク
- ある章や節で(いつのまにか)課される仮定
- 章や節のタイトル
- オレンジ
- 定理・命題・補題・系・事実
- イエロー
- 定義・記号
- グリーン
- 大切だと思った箇所
- ブルー
- 大切な例
- 鉛筆かフリクション
- 大切なところへの書き込み
Bakerの怒り
冒頭の藤原先生のBakerの話は
ベイカー教授は烈火の如く怒って言った。 「青色と緑色を逆に使っている!」
と続き,
「本質的でないことに拘泥する」
と評されており,Bakerの気難しさを象徴する挿話である. ただ,今の私はBaker先生に同情的である. 色分けマイルールをメチャクチャにされたらきっとむちゃくちゃ読みにくい. 烈火の如くは怒らないだろうが,やりなおしてもらうかもしれない. まあ,今はTeXのマクロのcolorを修正するだけで一瞬で再提出できるだろうが.