エータ不変量の定義について

#幾何解析 #幾何 #函数解析

エータ不変量の定義の流れをまとめておく. 特に,Dirichlet級数の原点での留数の消滅を示す議論を列挙することが目的である.

設定

$(Y,h)$を$d$次元有向閉Riemann多様体とする. $E \to Y$を$Y$上のHermite束として,$A \colon C^{\infty}(Y;E) \to C^{\infty}(Y;E)$を形式的共役楕円型作用素とする. 簡単のため,$\mathrm{Ker} A = {0}$を仮定する. このとき,スペクトル分解定理により,実数の離散列 [ \cdots \le \lambda_{-2} \le \lambda_{-1} < 0 < \lambda_0 \le \lambda_1 \le \lambda_2 \le \dots ] と切断の列${u_j} \subset C^{\infty}(Y;E)$が存在して,$D u_j = \lambda_j u_j$を充たす. また,一般に,実数$\lambda \in \mathbb{R}$に対して,$\lambda \ne 0$のとき,$\mathrm{sign}(\lambda) := \lambda/|\lambda|$としよう.

エータ不変量とは$\mathrm{Spec}(A)$の非対称性を測る量であり,直観的には [ \eta(A) = \#\big( \mathrm{Spec}(A) \cap (0,\infty) \big) - \#\big( \mathrm{Spec}(A) \cap (-\infty,0) \big) ] だが,これはもちろん$\infty - \infty$なので,正則化せねばならない. エータ不変量ではDirichlet級数により正則化する. 以下,その方法を説明しよう.

正則化

さて,固有値${\lambda_j}$に対するDirichlet級数を考える. すなわち,$s \in \mathbb{C}$に対して, [ \eta_A(s) := \sum_{j=-\infty}^{\infty} \mathrm{sign}(\lambda_j) |\lambda_j|^{-s} ] を考えよう. この級数で形式的に$s = 0$とすれば, [ \eta_A(0) = \sum_{j=-\infty}^{\infty} \mathrm{sign}(\lambda_j) = \# \big( \mathrm{Spec}(A) \cap (0,\infty) \big) - \# \big( \mathrm{Spec}(A) \cap (-\infty,0) \big) ] である. そこで,$\zeta$-函数正則化の変種として,$\eta_A$の$\mathrm{Re}(s) \gg 0$から$s=0$への解析接続として正則化を実現する. 正則化は三つのステップを踏んで行われる. ちなみに,Step 3 が最もおもしろいところだ.

Step 1

正則化の第一歩は,Dirichlet級数$\eta_A(s)$が$\mathrm{Re}(s) \gg 0$で絶対収束すると示すことである. 特に,$\eta_A(s)$は$\mathrm{Re}(s) \gg 0$で正則函数を定める. これは,固有値の増大度についてのWeylの漸近評価$|\lambda_j| \sim |j|^{1/d}$を用いれば,難しくはない.

Step 2

次は,$\eta_A(s)$を$\mathrm{Re}(s) \gg 0$から複素平面$\mathbb{C}$全体へ有理型函数として解析接続できることを示す. そのためには,Mellin変換 [ \mathrm{sign}(\lambda_j) |\lambda_j|^{-s} = \lambda_j \big( (\lambda_j)^2 \big)^{-\frac{s+1}{2}} = \lambda_j \cdot \frac{1}{\Gamma \left(\frac{s+1}{2} \right)} \int_0^{\infty} t^{\frac{s-1}{2}} e^{-t \lambda_j^2} \,dt = \frac{1}{\Gamma \left(\frac{s+1}{2} \right)} \int_0^{\infty} t^{\frac{s-1}{2}} \left( \lambda_j e^{-t \lambda_j^2} \right) \,dt ] を用いて, [ \eta_A(s) = \sum_{j=-\infty}^{\infty} \frac{1}{\Gamma \left(\frac{s+1}{2} \right)} \int_0^{\infty} t^{\frac{s-1}{2}} \left( \lambda_j e^{-t \lambda_j^2} \right) \,dt ] と変形する. そして,無限和と積分の交換 [ \sum_{j=-\infty}^{\infty} \frac{1}{\Gamma \left(\frac{s+1}{2} \right)} \int_0^{\infty} t^{\frac{s-1}{2}} \left( \lambda_j e^{-t \lambda_j^2} \right) \,dt = \frac{1}{\Gamma \left(\frac{s+1}{2} \right)} \int_0^{\infty} t^{\frac{s-1}{2}} \left( \sum_{j=-\infty}^{\infty} \lambda_j e^{-t \lambda_j^2} \right) \,dt ] を正当化し,右辺が複素平面$\mathbb{C}$全体へ有理型函数として解析接続できることを示し,さらに原点が高々単純極であることを示す. これらは,漸近展開 [ \mathrm{Tr} \big( A e^{-tA^2} \big) := \sum_{j=-\infty}^{\infty} \lambda_j e^{-t \lambda_j^2} \sim \sum_{k=1}^{\infty}a_k t^{-d-1+k} ] の存在を用いれば,それほどやさしくもないが,標準的な議論であり,難しくもない.

Step 3

最後に,複素平面$\mathbb{C}$全体で定義された有理型函数$\eta_A(s)$に対して,原点が極ではないと示す. 第二ステップでは,原点が$\eta_A(s)$の高々単純極であることまでは示されていた. 従って,$\eta_A(s)$の原点での留数が消えることを示せばよい. このステップは,$\zeta$-函数正則化にはない困難であって,$\eta_A(s)$に特有の真に難しくておもしろく大域的な考察を必要とする. また,楕円型作用素の指数はその主表象のホモトピー類だけから決まる粗い不変量であるのに対して,$\eta_A(s)$の原点での留数は$A$の全表象の微分の情報も含んだ繊細な不変量であることを注意しておく. $\eta_A(s)$の原点での留数が消えることについて,$A$が高階や擬微分作用素のときも含めて,まとめると次のようになる.