微分幾何と幾何解析の細かいあれこれをまとめておく. 随時追記. コメント歓迎.
- 曲率テンソルと断面曲率
- Myersの定理と完備性
- 幾何解析と完備性
- 測地的完備性の言い換え
- $L^p_k$級函数の制限
- ラプラシアンの極座標表示と平均曲率
- 特異インスタントンの解析の扱い方について
- Hitchin-Thorpe不等式とインスタントン
- 閉多様体と閉測地線
- Ricci曲率はどういうところに出てくるか?
- 曲線の弧長によるパラメータ付けとゲージ固定
- $s/6 - W^+ > 0$
- PSC計量とスピン構造
- Stokesの公式と符号
- 四次元でのSobolev空間の関係
- 弱収束と強収束の興味深い例
- 微分形式の外積と外微分の二通りの定義
- 微分形式のノルムの三通りの定義
曲率テンソルと断面曲率
曲率テンソルと断面曲率は,混同されることが多いが,実際,情報としては本質的には等価だが,しかし,もちろん違う概念だ. 曲率テンソルは対称線型作用素$\mathrm{Rm} \colon \wedge^2 \to \wedge^2$だが,断面曲率は,Plücker埋め込み$\mathrm{Gr}_2 \hookrightarrow \wedge^2$と曲率テンソル $\mathrm{Rm}$から決まる二次形式$\mathrm{sec} \colon \mathrm{Gr}_2 \to \mathbb{R}$である.
例えば,「曲率テンソルが正であること」と「断面曲率が正であること」は違うことで,前者が後者より強い. それは当たり前で,$\mathrm{Rm}$がdecomposable $2$-tensors以外のところでゼロとか負の固有値を持ったりするのは全然ありえる. 普通は,単に正曲率といえば後者のことで,前者は正曲率作用素などという.
Myersの定理と完備性
Myersの定理は,Ricci曲率が一様に正ならその直径は球面以下と主張する. このとき,完備性は必要である.
例えば,球面に,リンゴの皮を剥くように,細長い帯を巻き付けていけば,球面と同じ曲率のままで直径をいくらでも大きくできる. この帯は,もちろん,完備ではない. 特に,Myersの定理が破綻するためには,最短測地線で結べない二点が存在することが重要だとわかる.
おそらく,微分幾何の多くの定理で完備性が必要になるのは,任意の二点を最短測地線で結びたいからだろう. 例えば,RCDというのは,Ricci曲率の比較定理が成り立つように一般化された空間だが,凸領域ならばRCDというような主張がよくある.
幾何解析と完備性
開多様体の幾何解析でRiemann計量の完備性を使うところは,ラプラシアンやDirac作用素が本質的自己共役であると示すところ.
Riemann計量が完備ということは,行き止まりがないということなので,要するに,境界が(無限の彼方にしか)ないということだ. つまり,Riemann計量が完備でないというのは,境界があるみたいなものと言える. そして,境界があるときには,境界条件の入れ方で自己共役拡張が変わるというのは,量子力学で習うことだった. つまり,開多様体のラプラシアンには,計量の入れ方に依存して,閉拡張がいくつもありえるということだ.
いわゆる幾何解析的な主張で完備性が必要になるのは,ここだけではないか?
測地的完備性の言い換え
Riemann計量の測地的完備性の様々な言い換えとしてHopf-Rinowの定理がある. 境界がない多様体を考えよう.
- 測地的完備である.つまり,指数写像の定義域が接空間全体である.
- Riemann計量が誘導する距離についてCauchy完備である.
- 任意の有界閉集合はコンパクトである.
- 任意の閉測地球はコンパクトである.
は全て同値である.
さらに,幾何解析で便利な言い換えに,
- $1$-Lipschitzで滑らかなexhaustion函数が存在する.
- $1$-Lipschitzかつproperで滑らかな函数が存在する.
がある. $1$-Litschitzというのは,微分のノルムが$1$で上から抑えられるということ. exhaustion函数というのは,要するに,カットオフ函数の列のこと. 証明は簡単で,ある点からの距離函数を滑らかな写像で近似すればよい. ちなみに,あたりまえだが,$1$というのに意味はなく,一様な定数ならOKである. 例えば,完備ならラプラシアンが本質的自己共役になることの証明は,この$1$-Lipschitzなexhaustion函数を使うと簡単だ. (つまり,exhaustion函数でコンパクト台にして,$1$-Lipschitz条件で誤差項を評価する.)
$L^p_k$級函数の制限
$L^p_k$級函数は,ほとんど全ての点$x$と半径$r>0$について,$x$中心で半径$r$の超球面に制限しても$L^p_k$級のままである. 証明は,積分を管状近傍で積に表しておいてから,Fubiniの定理を使う.
Sobolev制限定理では正則性が$1/2$落ちるが,これならa.e.になるが正則性はそのまま.
例えば,四次元で$L^2_2$接続を考えてみれば,ほとんど全ての三次元部分多様体に制限しても$L^2_2$であり,特に連続である. この事実は,MrowkaによるUhlenbeckコンパクト性の証明で使われた.
ラプラシアンの極座標表示と平均曲率
ラプラシアンを極座標で表す計算は,人生で一度はやるとは思うが,そして,人生で一度しかやらないことがほとんどだと思うが,しかし,幾何学的意味がある. 例えば,二次元では [ \partial_r^2 + \frac{1}{r} \partial_r + \frac{1}{r^2} \partial_{\theta}^2 ] で,三次元では [ \partial_r^2 + \frac{2}{r }\partial_r + \frac{1}{r^2} \left( \partial_{\theta}^2 + \frac{1}{\tan \theta} \partial_{\theta} + \frac{1}{\sin^2 \theta} \partial_{\phi}^2 \right) ] となる. 第二項の$1/r$や$2/r$は,球面を標準的にEuclid空間に埋め込んだときの平均曲率である. ちなみに,第三項の$1/r^2 \partial_{\theta}^2$や$1/r^2 (\partial_{\theta}^2 + 1/(\tan \theta) \partial_{\theta} + 1/(\sin^2 \theta) \partial_{\phi}^2)$は, 半径$r$の球面のラプラシアンだ.
この観察はRiemann幾何では基本的で,Bishop-Gromovの比較定理のGromov本人による証明で使われる. すなわち,測地的極座標で同じ計算をして,Bochner公式と結びつけて,Ricci曲率を出す.
ところで,ラプラシアンを極座標で表す計算の一番簡単な方法は,Christoffel記号を直接計算するではなかろうか. そうするとほとんど自動的に上の幾何学的意味も見えてくる.
特異インスタントンの解析の扱い方について
$X \setminus \Sigma$を考えるとき,$X$の計量の制限は完備ではない. 非完備計量では,共役作用素にまつわることが面倒くさくなる. 例えば,closed rangeなど. (ちなみに,そもそも,制限計量を考えたい理由は,$X$のインスタントンと$X \setminus \Sigma$のインスタントンを比べたいからだ.)
さて,制限計量が完備ではないことに由来する面倒くささへの対処法は二つある.
ホロノミーを有理数に制限して,$X$全体のオービフォルド計量で考える方法
$\Sigma$の周りのホロノミーが非自明のとき,$\Sigma$を越えて接続を延長することはできない. しかし,ホロノミーが有理数なら,被覆に持ち上げれば,ホロノミーをほどくことができる. そうすれば,$X$は閉多様体なので,オービフォルド計量の意味で完備になって,解析的困難はなくなる.
また,このときは,$\Sigma$を越えて$X$全体で接続は定義されているので,接続についても$L^2_k$で$k > 2$のstronger normを使うことは自然になる. (普通の計量では,ホロノミーが非自明のときには接続は$\Sigma$を越えて伸ばせないので,連続函数からなる函数空間を使うことは不自然だった.)
$\Sigma$の周りで共形変換して,双曲計量で考える方法
Riemann計量は,Hodge作用素を経由してインスタントンの定義に入ってくる. だから,ゲージ理論的には,共形変換の範囲内なら計量を変えても問題はない.
$\mathbb{R}^4 \setminus \mathbb{R}^2 \cong \mathbb{H}^3 \times S^1$なので,$\Sigma$を無限遠に飛ばすことで,完備計量が得られる. これと同じ方法が,$\mathfrak{su}(2)$の非対角成分について重み付きのSobolev空間を考えること. よくあるシリンダーと違って,双曲計量で解析をするので,やや見慣れないが,でも,できる.
このとき,面倒くさいのは,$L^p_k$で$p$と$k$をあまり自由に取れないこと. 例えば,$L^p_{k+1}$が$C^0$だが,$L^p_k$は$C^0$ではないような$p \ge 1$と$k = 0,1,2,…$の組は,
- $k = 0$かつ$4 < p$
- $k = 1$かつ$2 < p < 4$
- $k = 2$かつ$4/3 < p < 2$
- $k= 3$かつ$1 < p < 4/3$
だけだ. さらに,$1/r$が原点の近傍で$L^p$可積分であるためには,$p < 4$が必要になる. また,たぶん,$k=2$や$k=3$を選ぶ積極的な理由はない. ということで,$k = 1$かつ$2 < p < 4$を選ぶことになる. さらに,双曲計量の$1$-形式のラプラシアンのスペクトラムが$[1,\infty)$であることを反映して,基本解のdecayから,$|p-2| \ll 1$となる.
Hitchin-Thorpe不等式とインスタントン
四次元Einstein計量の障碍のHitchin-Thorpe不等式は,Chern-Weill公式の簡単な系だが,インスタントンを使っても示せる. ただし,モジュライの考察を全く経ていないので,全く深くはない.
まず,Hodge作用素によるRiemann曲率テンソルの分解を考えてみれば,「Einsteinであること」と「Levi-Civita接続が$\Lambda^+$の自己双対接続であること」は同値であるとわかる.
次に,インスタントンが存在する$\mathrm{SO}(3)$束のPontrjagin数は非負である. さらに,それが零になるのはインスタントンが平坦になるときだけ.
さて,$p_1(\Lambda^+) = 2\chi +3\tau$である.
よって,これらをまとめれば,もしもEinstein計量が存在すれば$2\chi +3\tau \ge 0$となる。 向きをひっくり返して同じことを考えれば,$2\chi \ge |3\tau|$がわかる.
この証明の不思議なところは,向きをひっくり返すところ. というのも,普通はASD方程式は向きに繊細なので.
閉多様体と閉測地線
問:閉多様体には非自明な閉測地線は存在するか? ただし,閉測地線が非自明とは,その像が一点ではないこと.
答:常に少なくとも一本は存在する.
閉多様体が単連結ではないときは,当たり前だ. 単連結ではないとは自由ループ空間が連結ではないということなので, 自明なループを含まない連結成分でエネルギー汎函数の最小値を考えればよい.
単連結なときは,多重ループ空間を考える. 閉多様体なので,どこかのホモトピー群は消えていない. だから,その消えていないホモトピー群の元に対応する自由ループ空間の部分集合でエネルギー汎函数の$\min \max$をやればよい. この論法をBirkhoff minimax trickといい,峠の補題の一種である. 要するに,エネルギー汎函数の勾配ベクトル場で落としていって引っかかったところを見るわけだ.
例えば,$S^2$では,北極を引っこ抜いたところを埋め尽くすような閉曲線の族でエネルギー汎函数の$\max$を考えてから,それらの族の族で$\min$を考える. 単連結のときに普通にエネルギー汎函数の最小値を考えると一点に潰れてしまうが,閉曲線の族を制限してから$\min \max$を考えると大円が取り出せるわけだ.
未解決問題:閉多様体には,無限個の幾何学的に異なる閉測地線が存在するか? ただし,幾何学的に異なるというのは,二重に巻き付いたりしてなくて,像が違うということ.
幾何学的に異なるという条件を実際に確かめるのが難しくて,一般には現在まで未解決になっている.
微分幾何的にこの問題が興味深いのは,単なる自由ループ空間のトポロジーの計算だけには落ちないところだと思われる. 例えば,Katokの例というのがあって,$S^2$上のFinsler計量であって閉測地線がちょうど二本しかないものがある. Finsler計量だろうが,Riemann計量だろうが,自由ループ空間そのものは変わらないことに注意せよ.
ちなみに,上の予想の閉測地線は一般には自己交差を持つ. つまり,単純閉測地線が無限にあると言ってるわけではない. 例えば,二次元の本物の球面をちょっとだけ潰した楕円体には単純閉測地線はちょうど三本しかない.
Ricci曲率はどういうところに出てくるか?
答:基本的には二カ所で,指数写像の微分の行列式かBochnerの公式だ.
指数写像の微分の行列式
GromovとYauの前の微分幾何とは,第二変分公式の応用の別名だった. 測地線の第二変分公式とは要するに測地線の無限小変形のことで,つまり,Jacobi場だ. 体積の比較定理のためにはJacobi場の行列式を考えることになる. 無限小体積が行列式で,行列式の微分にトレースが出る. 結局,Jacobi場の方程式の曲率項のトレースを考えることになり,自然にRicci曲率が現れる.
具体的には,例えば,$n$を次元として,$J$をJacobi場として,$v = (\det J)^{1/n}$を正規化された無限小体積だとすれば, [ \frac{v’’}{v} \le - \frac{\mathrm{Ric}}{n} ] という不等式が,Jacobi場の方程式とCauchy-Schwartz不等式から,得られる. ちなみに,この不等式の右辺にマイナスがあるので,Ricci曲率は下から抑えたくなる. また,Riemann計量の体積形式のTaylor展開は [ d\mu_g = ( 1 - 1/6 R_{ij} x^i x^j + O(|x|^3) ) dx ] だ. このように,体積といえばRicci曲率である.
ちょっと牽強付会な気がしなくもないが,Kahler多様体の標準束の曲率形式にRicci曲率が出てくるのも同じことだといえる.
さて,Bonnet-Meyersの定理では,Ricci曲率なのに,体積ではなく,直径なのはなぜか. それは,直径が,無限小体積が崩壊する時刻の評価として出てくるからだ. つまり,Jacobi場の方程式を変形すれば,Jacobi場の行列式の充たすべきRiccati型の常微分不等式が得られるが,その非線型不等式の爆発時刻の評価によってBMの定理は示されていた.
Bochnerの公式
GromovとYauの前の微分幾何のまたの名は,Weitzenböck公式の応用だった. Bochnerの公式とは,一次微分形式のWeitzenbock公式のことだ. こちらはSW方程式でスカラー曲率が出てくるのと同じようなことなので,おなじみだろう.
曲線の弧長によるパラメータ付けとゲージ固定
曲線の弧長によるパラメータ付けとは,微分同相群の作用に対する大域的ゲージ固定のことだ. 微分幾何の教科書の最初の方には,だいたい,曲線の弧長のことが書いてあって,普通は弧長によるパラメータ付けを使うとか,測地線は最初から弧長の定数倍でパラメータ付けられているとか,そういうことを習う. そして,弧長汎函数とDirichlet汎函数をCauchy-Schwartz不等式で比較したりしている. これらは,要するに,大域的ゲージ固定について説明しているわけだ.
一般に,はめこみ$f \colon (X,g) \to (Y,h)$に対して,体積汎函数は$\sqrt{\mathrm{det}_g (f^{\ast}h)} d\mu_g$の積分で,Dirichlet汎函数は$\mathrm{tr}_g (f^{\ast} h) d\mu_g$の積分である. 前者は$g$には依存しないのに対して,後者は$g$に依存する. 従って,体積汎函数には$X$の微分同相群という無限次元の群が作用しているのに対して,Dirichlet汎函数は$(X,g)$の等長変換群(に毛が生えたもの)という有限次元の群しか作用していない. (つまり,Dirichlet汎函数は,汎函数のレベルで,微分同相群のゲージが固定されている.) 実際,弧長汎函数の臨界点の式は,速度のノルムが分母に出てきて,ゴチャゴチャで,Dirichlet汎函数の微分からは,Euler-Lagrange方程式として,キレイな常微分方程式が得られる. こういうわけで,弧長でパラメータ付けられた曲線の中で弧長汎函数を考えれば,Dirichlet汎函数と同じ臨界点が得られることになる.
極小部分多様体と調和写像の関係も同じだ. 極小曲面というのは調和写像のことだよという説明は,ときどき見かけるのだが,最短線が測地線とは限らないように,事情をわかってればいいんだが,一知半解の匂いがする. 極小部分多様体とは体積汎函数の臨界点のことで,調和写像はDirichlet汎函数の臨界点のことだ. だから,調和写像は極小部分多様体だが,一般には,極小部分多様体は調和写像ではなく,等長はめこみの極小部分多様体が調和写像になる.
インスタントンは頑張って局所的にゲージ固定して,SW方程式は大域的にゲージ固定できて,擬正則曲線や調和写像は既にうまれたときからゲージ固定されている.
ところで,蛇足的な注意として,ここでは部分多様体とは写像だと思っているが,極小部分多様体の研究では部分多様体を部分集合だと思うことも多く,後者の見方からは幾何学的測度論的な手法につながる. Gromov-Witten不変量とTaubesのGromov不変量の違いと同じである.
また,Ricci曲率が座標に依らない概念なので,Einstein方程式やRicci流も微分同相不変な方程式だが,これらも調和座標とかDeTurck-Uhlenbeck流でゲージ固定している.
$s/6 - W^+ > 0$
$s/6 - W^+$というのは自己双対形式のWeitzenböck公式の曲率項だ. 従って,$s/6 - W^+ > 0$という条件は,障碍が消えるための条件として,まあ,自然なものである.
また,$s/12 + W^+$というのは,四次元多様体の曲率テンソルをHodge作用素で分解したとき,自己双対形式から自己双対形式へのブロックに出てくる.
Weitzenböck公式の$s/6 - W^+ > 0$という条件は,$W^+$がtrace freeであることを使えば,$s/12 + W^+$の最初の二つの固有値が正ということだとわかる. ちなみに,$s/12 + W^+$の最初の二つの固有値が正というのは,Micallef-Mooreが極小球面の研究で導入したpositive isotropic curvatureの自己双対形式版といえる.
また,これもWeitzenbock公式からわかることだが,$s/6 - W^+ > 0$となる計量が入れば,$b_+ = 0$である.
PSC計量とスピン構造
どうしてPSC計量を考えるときにスピン構造が出てくるのか?
一つの理解は手術との関係であろう. 手術したいので,五次元以上かつ単連結を仮定しよう.
まず,PSC計量を持つ多様体から余次元$3$以上の手術で得られた多様体は,PSC計量を持つ. これは,二次元以上の球面がPSC計量を持つという当たり前の事実の帰結である. 二次元以上の球面の標準計量がPSC計量であることに注意すれば,具体的にモデル計量を書くことで,PSC計量も一緒に手術できることが簡単にわかる.
次に,スピン同境が与えられたとしよう. $\pi_1$は,五次元以上と単連結を仮定しているので,殺せる. $\pi_2$を殺すときにスピン構造が関係してくる. ミソは,「スピン構造が入ること」と「任意の埋め込まれた二次元球面の法束が自明であること」の同値にある. こうして,目出度く,PSC計量を持つ多様体との余次元3以上の手術が得られるわけだ.
Stokesの公式と符号
Stokesの公式は,特性函数の微分で境界にデルタ函数が出る公式だと思えば,符号は当たり前の問題になる.
四次元でのSobolev空間の関係
四次元でのSobolev空間の相互関係
- $L^2_1 \hookrightarrow L^4$
- $L^2_2 \hookrightarrow L^4_1 \hookrightarrow L^p$ for any $p < \infty$
- $L^2_2 \not\hookrightarrow L^{\infty}$
- $L^2_1 \times L^2_1 \to L^4$は連続である.
- $L^2_2 \times L^2_1 \to L^p_1$ for $p < 2$は連続である.
- $L^2_2 \times L^2_1 \to L^2_k$ for $k < 1$も連続である.
有名な函数
$u(s) := \log \log s$とする.
- $u \not\in L^{\infty}$である.
- $\nabla u(s) = 1/(s \log s)$なので,$\int_0^{1/2} (1/(s \log s))^4 s^3 \,ds < \infty$である.
重要な事実
四次元で,$L^2_1$は$L^4$に入るので,$L^2_1$と$L^2_1$の積は$L^2$である. 実は,さらに強く,$L^2_1$と$L^2_1$の積は,連続函数$C^0$のラプラシアン$\Delta$での像$\Delta(C^0)$にも入っていることが分かる. 証明は,例えば,Hardyの不等式を使えばよい. つまり, [ L^2_1 \times L^2_1 \to L^2 \cap \Delta(C^0) ] である. ゲージ理論の解析の要所の背後にこの事実が使われている.
弱収束と強収束の興味深い例
$u_n(t) := 1 + \sin(nt)$かつ$u = 1$とする.
- 任意の$p \ge 1$で,$u_n$は$u$に$L^p$弱収束する.
- $\int_0^{2\pi} \lvert u_n \rvert \,dt = \int_0^{2\pi} \lvert u \rvert \,dt$である.つまり,$L^1$ノルムは変わらない.
- しかし,$\int_0^{2\pi} \lvert u_n-u \rvert \,dt = 4$である.つまり,$L^1$強収束はしない.
これは$L^1$がuniformly convexではないからだ. Kronheimer-MrowkaのFloerホモロジーの教科書のp.105も参照のこと.
微分形式の外積と外微分の二通りの定義
$\alpha$と$\beta$を一次微分形式とする. 微分形式の外積の定義には次の二通りの流儀がある.
- $\alpha \wedge \beta = (\alpha \otimes \beta - \beta \otimes \alpha)$
- $\alpha \wedge \beta = (\alpha \otimes \beta - \beta \otimes \alpha)/2$
外微分についても同様.
結局,この二種類の流儀の違いは,次の同型の取り方に由来する. $V$をベクトル空間とする. $k$次外積代数の双対空間$(\wedge^k V)^{\ast}$と$k$次交代形式$A^k(V)$には標準的な同型がある. しかし,$k$次外積代数$\wedge^k V$とその双対空間$(\wedge^k V)^{\ast}$には少なくとも二通りの流儀がある. つまり,
- $(f,u) = 1/k! \det (f^i u_j)$
- $(f, u) =\det (f^i u_j)$
という$k!$で割るかどうかの二通り. よって,$\wedge^k V$と$A^k(V)$の同型にも二通りの流儀がある. 例えば,WarnerのGTMのp.60を参照のこと.
ちなみに,実は,$V$と$V^{\ast}$の両方に操を立てることにして,$\sqrt{k!}$で割るという流儀もある. (だから,本当は三種類だ.)
微分形式のノルムの三通りの定義
$e^j$を正規直交基底とする. 微分形式のノルムには次の三通りの流儀がある.
- $\lvert e^1 \wedge \dots \wedge e^p \rvert = 1/\sqrt{p!}$
- $\lvert e^1 \wedge \dots \wedge e^p \rvert = \sqrt{p!}$
- $\lvert e^1 \wedge \dots \wedge e^p \rvert = 1$
1と2の違いは微分形式の外積の定義の違いに由来する:
- $\alpha \wedge \beta = (\alpha \otimes \beta - \beta \otimes \alpha)$
- $\alpha \wedge \beta = (\alpha \otimes \beta - \beta \otimes \alpha)/2$
3はHodge作用素と相性が良い:
- $\alpha \wedge \star \beta = (\alpha, \beta) \star 1$
ゲージ理論やシンプレクティック幾何では3が普通だと思う. 3は1や2とは違うということを認識しておいたほうがいい.