K理論の覚書

#幾何 #メモ

K理論の細かいあれこれをまとめておく. 随時追記. コメント歓迎.

Atiyahの教科書の翻訳

Atiyah先生のK理論の教科書の翻訳が出た. 私が監訳者解説を書いた.

Atiyahの教科書の新版

Atiyah先生のK理論の教科書には,実は旧版と新版があり,Bott周期性の証明の節が書き換えられている. ちなみに,Atiyah全集の二巻に収録されているのは旧版だ.

旧版では,Bott周期性の証明はAtiyah-Bottのいわゆる初等的証明が説明されていた.

新版では,Bott周期性の証明にあたる2.2節から2.4節までが書き換えられている. まず,Bott周期性の証明に関する一般的なコメントが加わった. 次に,Bott周期性の証明そのものも改善されており,Atiyah-Bottの初等的証明を基本として,Atiyahの族の指数の証明の$\alpha$と$\beta$のトリックが取り入れられている.

どうしていつもコンパクトHausdorff空間なのか

K理論の教科書がコンパクトHausdorff空間に毛が生えたものしか扱わないのは,何故か.

位相空間$X$に対して,その上のベクトル束のなす可換半群のGrothendieck群$K(X)$は,ただの代数的操作なので,もちろんいつでも定義できる. しかし,この$K(X)$がよい(=教科書で手際よく説明できる)振る舞いをするのは,$X$がコンパクトHausdorff空間のときだけだ.

$K(X)$のよい振る舞いの例には,$K(X) = [X^+, \mathbb{Z} \times BU]_*$がある. この同型をどうやって構成したかを振り返ってみるに,そのポイントになる事実は,コンパクトHausdorff空間の上の任意のベクトル束が自明束の直和因子になることだった. 無限次元実射影空間$\mathbb{R}P^{\infty}$の標準束を考えれば,この事実は非コンパクトでは必ずしも成り立たないとわかる. ちなみに,ベクトル束とGrassmann多様体への写像のホモトピー類の対応は,一の分割を使うだけなので,パラコンパクトでOKだった.

ポイントは,コンパクトHausdorff空間ではその上の任意のベクトル束がある種の大域的表示を持つことである,と言ってもよい. 古田先生の教科書の9.4節を参照のこと.

局所コンパクトHausdorff空間は,非コンパクトだが,一点コンパクト化によって基点付きコンパクトHausdorff空間にすれば,本質的な新しさはない. 例えば,$K(\mathbb{R}^n) := K(S^n, \infty)$である. では,コンパクトHausdorff空間の世界を真に抜け出す必要があるのはどのようなときか. 例えば,上で挙げた$\mathbb{R}P^{\infty}$など,分類空間のK群$K(BG)$を考えたいときがある.

ところで,空間対を考えるとき,部分集合を閉集合に限るのは,Tietzeの拡張定理を使いたいからでしょう.

Kuiperの定理とユニタリ群の位相

Kuiperの定理はユニタリ作用素の空間(以下,ユニタリ群)が可縮であることを主張しているが,この定理で一番大切なのは,ノルム位相での可縮性を主張していることだ. 強位相($=$ 各点収束位相)ならユニタリ群が可縮なことは,ほぼ当たり前である. 例えば,Hilbert空間を$L^2([0,1])$で実現してみればよい.

「Kuiperの定理の系として全てのHilbert束は自明であることがわかる」というお題目をよく目にするが,上と同じく,Hilbert束の定義が問題だ. このときのHilbert束の定義は,構造群がノルム位相のユニタリ群のことである. つまり,Hilbert束の定義に,局所自明性などだけではなくて,変換関数がノルム位相のユニタリ群への連続写像であるという条件も課しているわけだ. これは無限次元特有の条件である. 有限次元のときと同じように局所自明性などだけを要求しているときは,構造群として強位相のユニタリ群を考えていることと同じで,その自明性は,強位相のユニタリ群の可縮性からくるので,もっと全然やさしいことになる.

さらに関連したこととして,Atiyah-Segalの捻れK理論の論文では,ユニタリ群のコンパクト開位相を考えている. この論文には

と書いてあるが,Atiyah-Segalの有名な間違いなので注意して欲しい. ただし,

というのは正しい. ユニタリ群だと一様有界で同等連続なのでいろいろよくなるわけだ. 例えば,The Unitary Group in Its Strong TopologyTopological properties of the unitary groupを参照のこと. ちなみに,なんで捻れK理論で強位相を考えたいかといえば,Lie群の正則表現は,ノルム位相では連続にならないが,強位相では連続になるからだろう.

Bott周期性

Bott clock

Clifford生成子
$\epsilon_i^2 = +1, \epsilon_i = \epsilon_i^{\ast}, \{\epsilon_i,\epsilon_j\} = 2\delta_{ij}$
$e_j^2 = -1, e_j = -e_j^{\ast}, \{e_i,e_j\} = 2\delta_{ij}$
$\{\epsilon_i,e_j\}=0$
Atiyah-Hirzebruch
$h = h^{\ast}, \{h, \epsilon_i\} = \{h ,e_j\} = 0$
$h$は$\epsilon$になりたいもので,もしも$h^2 = +1$なら$\epsilon$に昇格するが,その障碍が$\mathrm{Ker}(h)$にある.
Atiyah-Singer
$s = -s^{\ast}, \{s, \epsilon_i\} = \{s,e_j\} = 0$
$s$は$e$になりたいもので,もしも$s^2 = -1$なら$e$に昇格するが,その障碍が$\mathrm{Ker}(s)$にある.
Karoubi $\epsilon$
$\epsilon^2 = +1, \epsilon = \epsilon^{\ast}, \{\epsilon,\epsilon_i\} = \{\epsilon,e_j\} = 0$
$\epsilon’^2 = +1, \epsilon’ = \epsilon’^{\ast}, \{\epsilon’,\epsilon_i\} = \{\epsilon’,e_j\} = 0$
$\epsilon’$と$\epsilon$との反交換関係は仮定しないで,組$\langle (\epsilon, \epsilon_i,e_j), (\epsilon’,\epsilon_i,e_j) \rangle$を考える.
$\epsilon’$は($\mathbb{Z}_2$次数付き)Clifford加群の拡張問題の障碍と考えても良い.
Karoubi $e$
$e^2 = -1, e = -e^{\ast}, \{e,\epsilon_i\} = \{e,e_j\} = 0$
$e’^2 = -1, e’ = -e’^{\ast}, \{e’,\epsilon_i\} = \{e’,e_j\} = 0$
$e’$と$e$との反交換関係は仮定しないで,組$\langle (e, \epsilon_i,e_j), (e’,\epsilon_i,e_j) \rangle$を考える.
$e’$は($\mathbb{Z}_2$次数付き)Clifford加群の拡張問題の障碍と考えても良い.
Wilson項とoverlap fermion
$h_W = h_W^{\ast}, [h_W, \epsilon_i] = [h_W, e_j] = 0$
$[h_W, h] = 0, h_W^2 + h^2 = 1$
$[h_W, s] = 0, h_W^2 - s^2 = 1$
このとき,$u = s+h_W$はユニタリ作用素であり,$\epsilon_i u \epsilon_i^{-1} = u^{-1}$と$e_j u e_j^{-1} = u^{-1}$を充たす.
四元数
$I^2 = -1, J^2=-1, I = -I^{\ast}, J = -J^{\ast}, \{I,J\} = 0$
$[I, \epsilon] = [I, \epsilon’] = [I, \epsilon_i] = [I, e] = [I, e’] = [I, e_j] = [I, h] = [I, s] = [I, h_W] = 0$
$[J, \epsilon] = [J, \epsilon’] = [J, \epsilon_i] = [J, e] = [J, e’] = [J, e_j] = [J, h] = [J, s] = [J, h_W] = 0$
$\mathit{KR}$
$I^2 = -1, C^2 = +1, I = -I^{\ast}, C = C^{\ast}, \{I,C\} = 0$
$[I, \epsilon] = [I, \epsilon’] = [I, \epsilon_i] = [I, e] = [I, e’] = [I, e_j] = [I, h] = [I, s] = [I, h_W] = 0$
$[C, \epsilon] = [C, \epsilon’] = [C, \epsilon_i] = [C, e] = [C, e’] = [C, e_j] = [C, h] = [C, s] = [C, h_W] = 0$

Atiyah先生とBott先生の写真はCelebratio Mathematicaより引用した.

Clifford代数の森田同値について

次数付き代数としての同型$C^{p+4,q} \cong C^{p,q+4}$と$C^{p+1,q+1} \cong M_2(C^{p,q})$を組み合わせれば,$C^{p+8,q} \cong C^{p+4,q+4} \cong C^{p,q+8}$かつ$C^{p+4,q+4} \cong M_{16}(C^{p,q})$がわかる. ちなみに,$C^{p+4,q} \to C^{p,q+4}$は,$\omega := e_{p+1} e_{p+2} e_{p+3} e_{p+4}$として,$e_1’ := e_1 \omega, \cdots, e_p’ := e_p \omega$かつ$\epsilon_1’ := \epsilon_1 \omega, \cdots, \epsilon_q’ := \epsilon_q \omega, \epsilon_{q+1}’ := e_1 \omega, \cdots, \epsilon_{q+4}’ := e_4 \omega$とすればよい.