初等解析の三種の神器

#幾何解析

梅田亨「徹底入門 解析学」日本評論社 2017 第3部第2章第5節 初等解析の技法

「解析」で扱う極限操作にも,難しさに応じた階層がある. 例えば,級数や積分において最初にあるのは「絶対収束」である. これは,和の順序を自由に交換してよいなど,形式は殆ど「代数」に同じである. それ故,級数や積分が絶対収束するかどうか,既知のものと比較するというorderの評価が大事になる. このあたりを,初級段階とすると,次は,絶対収束しないが収束するという「条件収束」の扱いで,これがそこそこ自由にできれば,初級の卒業だろう.

微積分からはじまる解析学では,一つには,実数の本質に関わることだが,「代数」と違って,命題の殆どは「必要かつ充分」という単純な形には述べられず,「必要」または「充分」の片方だけになる. 例えば級数が収束するには,項が$0$に収束しなければならない(必要条件だ)が,その逆は成り立たないので,充分条件としてorderによるものなど,多数の定理が列挙される. このように,必要に応じて「技法」が精粗さまざまに用意されるのが「解析」である. この多様性は解析の深さと面白さを意味する一方,同時に入門段階の敷居を高くする.

初学者の負担を軽くするためには,「技法」の整理をすることも大切だ. 少々大胆で「語弊」があったとしても「わかりやすさ」を優先して切り分ける. 最もよく使う基本公式を三つにまとめて

(1)等比級数の和の公式

(2)微積分の基本公式

(3)部分積分(和分)の公式

と標識化しよう. 各々は敢えて説明の要らないほど基本的だが,重要性の認識は徹底していない. 上の「絶対収束」との絡みでいえば,等比級数という「指数的」な評価は,まず第一に考えるべきもので,冪級数を抑える最初の手筋である. 微積分の基本公式はorderに関する評価の基礎にある. 初級段階は,まずこの二つの習得が目標である. そして「絶対収束」を超えた部分を扱う典型的技法が,(3)の「部分積分」,もしくは「和」の場合には「Abelの変形」の名前で知られるものである.