積分記号下の微分について

#幾何解析 #初等解析

積分記号下の微分は二重極限の交換である. しかし,恐れるなかれ,積分と微分の順序交換そのものは怖くはない. 結局,いつでもヤバいのは広義積分だ.

基本の考え方

基本的には,$\partial f / \partial t$が可積分であれば,積分記号下の微分は全く問題なくできる. これはLebesgueの収束定理からも理解できるが,微分積分学の基本定理とFubiniの定理の組み合わせから見るのもわかりやすい.

まずは微分積分学の基本定理で,微分してから積分することで, [ \frac{d}{dt} \int_X f(x,t) \,dx = \frac{d}{dt} \int_X \left( \int_0^t \frac{\partial f}{\partial s}(x,s) \,ds \right) \,dx ] と書き換える. 次にFubiniの定理で,積分順序を交換すれば, [ \frac{d}{dt} \int_X \left( \int_0^t \frac{\partial f}{\partial s}(x,s) \,ds \right) \,dx = \frac{d}{dt} \int_0^t \left( \int_X \frac{\partial f}{\partial s}(x,s) \,dx \right) \,ds ] と書き換わる. こうして, [ \frac{d}{dt} \int_X f(x,t) \,dx = \frac{d}{dt} \int_0^t \left( \int_X \frac{\partial f}{\partial s}(x,s) \,dx \right) \,ds = \int_X \frac{\partial f}{\partial t}(x,t) \,dx ] がわかった. 要するに,$\partial f / \partial t$が可積分であればFubiniの定理が使えるので,積分記号下の微分は正当化される.

危険な場合

Laurent Schwartzの「物理数学の方法」の第1章3.2節とその後の例を見よ.

振動積分(最終的にはOKな場合)

振動積分 [ F(x) := \int_{-\infty}^{+\infty} \frac{e^{itx}}{1+t^2} \,dt ] を考えてみよ. 函数$\tfrac{t}{1+t^2}$は可積分ではない! しかし,$x \ne 0$で$\tfrac{it e^{itx} }{1+t^2}$は広義積分可能であり,また,$F(x)$の積分記号化の微分も正当化できる. 実際,$F(x) = \pi e^{-|x|}$である.

振動積分(最終的にもダメな場合)

振動積分 [ \int_0^{\infty} \frac{\sin x}{x} \,dx = \frac{\pi}{2} ] を考えてみる. 変数変換$x = ty$により, [ \int_0^{\infty} \frac{\sin (ty)}{y} \,dy = \frac{\pi}{2} ] と書き換える. このとき,積分記号化の微分ができるとすれば, [ \int_0^{\infty} \frac{\partial}{\partial t} \frac{\sin (ty)}{y} \,dy = \int_0^{\infty} \cos (ty) \,dy \overset{?}{=} 0 ] だが,左辺は広義積分できない!

寺寛のp.80の第3.6節の例も参照のこと. 一様収束の必要性が鮮やかに説明されておりわかりやすい. すなわち,$t \in \mathbb{R}$に対して,函数 [ t \mapsto \int_0^{\infty} \frac{\sin t x}{x} \,dx ] はそもそも$t=0$で連続ではない. というのも, [ \int_0^{\infty} \frac{\sin tx}{x} \,dx = \int_0^u \frac{\sin tx}{x} \,dx + \int_u^{\infty} \frac{\sin tx}{x} \,dx ] と分解するとき,第一項は有限区間$[0,u]$での積分なので$t=0$でも連続で,さらに,第二項は,もちろん,$t \in \mathbb{R}$を固定するとき, [ \lim_{u \to \infty} \int_u^{\infty} \frac{\sin tx}{x} \,dx = 0 ] なのだが,そのゼロへの収束の速さが$u \to \infty$のときにどんどん遅くなってしまうからだ.

Newtonポテンシャル

Newtonポテンシャル [ U(a) := \int_{|x| \le 1} \frac{\mu(x)}{|x-a|} \,dx ] の一階微分をどのように計算したか考えてみよ.