基本
まずは河東先生によるセミナーの準備の仕方と講義,講演を時間通りに終わらせるにはをよく読んでください.
落合先生によるセミナー準備及び勉強に関する注意も参考になります.
また,数学の書籍や論文は,googleやWikipediaではなく,MathSciNetで探します.
デカルト先生の教え
- 明証
- 完全に正しいと断言できることだけを積み重ねる.Gromov先生曰く,数学では自分以外の何も信じてはいけない.
- 間違い(=偽を真と取り違うこと)の原因は即断(=早とちり)と偏見(=思い込み)である.
- 即断と偏見は敵である.
- 理解できないことは必ず考え,知らないことは必ず調べる.
- 明晰(=概念の外延が明らかであること)かつ判明(= 概念の内包が明らかであって他の諸概念とはっきり区別されていること)なものだけを積み重ねていく.
- 分析と総合
- 複雑怪奇な証明を解体し,その論理構造を単純な命題の三段論法の積み重ねとして把握する.
- 図を描いてみる.
- まずは本当に自明な例で確かめてみる.例えば,定数函数や$n=0,1,2$や一点や$\mathbb{R}^d$や$\mathrm{U}(1)$など.
- 非自明で最も簡単な例を大切にする.
- 枚挙
- 本を閉じて,再構成を試みよ.
河東先生によるセミナーの準備の仕方より
Step 1: まず,当然書いてあることを理解することが第一歩です.
- 黙って「何々である」とか,”It is easy to see…”, “We may assume that…”, “It is enough to show…“などと書いてあるのはすべて,なぜなのか徹底的に考えなくてはいけません.本に書いてあるから」とか「先生がそう言うから」などの理由で,なんとなく分かったような気になるのは絶対にアウトです.そういうところは「なぜですか」と聞かれるに決まっているんですから,どうきかれてもすぐに答えられるように準備をしておく必要があります.
- 自分の知らない定理や定義を使っているところがあれば当然,調べたり聞いたりしなくてはいけません.定義や定理を知らなければそこの部分が理解できないに決まっているんですから,そういうところを素通りするのは数学の本の読み方として根本的に誤っています.
- そして「全部完全にわかった」という状態になるまで,考えたり,調べたり,人に聞いたりするのをやめてはいけません.
- 「自分は本当にわかっているのか」と言うことを徹底的に自問して「絶対にこれで大丈夫だ」と思えるようになる必要があります.
- 「だいたいこうみたいですけど,これでいいんでしょうか」などというのは(たとえ結果的に正しいことを言っていたとしても)何もわかっていないのと同じです.
- 「完全に正しいと断言できる」ということと「自分にはわかっていない」ということの違いが自分ではっきりとつけられるようにならなくては何も始まりません.
- あいまいな状態のまま,セミナー本番に臨むようなことは論外です.
- さてそうして,ちゃんとわかったという確信が持てたとしましょう.
Step 2: 本を閉じてノートに,定義,定理,証明などを書き出してみます.
- すらすら書ければO.K.ですが,ふつうなかなかそうはいきません.それでも断片的に何をしていたのかくらいは,おぼえているでしょう.そうしたら残りの部分については,思い出そうとするのではなく,自分で新たに考えてみるのです.
- 「どのような定義をするべきか」
- 「定理の仮定は何が適当か」
- 「証明の方針は何か」
- 「本当にこの仮定がないとだめなのか」
- どのような順序でlemmaが並んでいるべきか」
- そうして,筋道が通るように自分で再構成する事を試みるんです.これもなかなかすぐにはできないでしょう.
- そこで十分考えたあとで,本を開いてみます.するといろいろな定義,操作,論法の意味が見えて来ます.
- これを何度も,自然にすらすらと書き出せるようになるまで繰り返します.普通,2回や3回の繰り返しではできるようにならないでしょう.
- さらにそれができるようになったとしましょう.
Step 3: 今度は,紙に書き出すかわりに頭の中だけで考えてみます.
- 「定義は何か」,「定理の仮定は何か」,「証明のポイントはどこか」,といったことを考えてみます.
- 複雑な式変形などは頭の中だけではできないでしょうが,全体の流れや方針,ポイントは頭の中だけで再現できるものです.
- できなければ,それはよくわかっていないということですから,本やノートを見て復習し,ちゃんとできるようになるまで繰り返します.
このようにして,何も見ないでセミナーで発表できるようになるんです.
- 私のセミナーでは,本,ノート,メモ等を見ることは一切禁止です.
- これは丸暗記するということとは全く違います.
- 数学の論理は有機的につながっていて,定義でも,仮定でも,補題の順番でも,何か理由があってそうなっているんですから,全体の構造を理解していれば,正しく再現できるようになります.
Step 4: セミナーの時間配分も考える必要があります.
- 授業でも,学会発表でも,やるべき内容が先にあり,時間が決まっているんですから,ちゃんとそれに合わせて話ができなくてはいけません.セミナーはその練習でもあります.
- 自分で,「今回の発表内容はこれだ」という計画を立て,時間をどういうふうに使うか決めなくてはいけません.「この証明に20分,ここの説明に15分」というふうに自分できちんと計画を立てます.
- そして途中で時計を見ながら,早すぎる/遅すぎるなどの調整をしていって,最後にぴったり終わるように持っていきます.
- 何も計画なしにだらだらと進んで行って時間が来たところでおしまい,というようなことでは,時間を無駄にしているだけです.
- このためにももちろん,完全に理解しておくことが前提となります.「何を聞いても即答できる」という状態ならば,いくら派手にとばしてもO.K.です.
以上のような準備をきちんとするには当然,膨大な時間がかかります.
- 1回の発表のために50時間くらいかかるのは,何も不思議ではないし,100時間かかっても驚きはしません.
- 実験系統の院生は,朝から晩まで(あるいは晩から朝まで)実験しているんですから,数学だってたっぷり時間をかけないと身につかないのは当然です.
以上のようなことを心掛けて,十分な準備の下でセミナーに臨んでください.