これらの量の量子力学的対応物として,
量子相対エントロピー
,
Bure の距離
,
量子類似度
が知られている.(定義については以下)
確率分布の場合とは異なり,量子力学系での推定では, 量子相対エントロピー が意味のある量と結び付くことは少なく, むしろ,Bure の距離 , 量子類似度 を用いた方が有用である場合が多い. 量子相対エントロピー はむしろ, 量子系での状態識別や, 通信路符号化などの離散的な問題と結び付く. 特に,純粋な状態の場合,Bure の距離や量子類似度では 発散しないのに量子相対エントロピーだと発散してしまい, 以下に述べる純粋状態からなる状態族の推定では 量子相対エントロピーは全く使えない. ここで ではなく, を考えていることに注意されたい. はむしろ検定(状態識別)的な文脈で重要になる.
なお,片方の引数 が純粋であるとき
Bure の距離,量子類似度は以下のように簡略化できる.
その他,確率分布の場合と同様に 量子類似度 に対して の極限を取ることによって, Riemann 計量を定義することができる. この計量は SLD 計量とよばれ,推定で重要な役割を果たす. また,この計量の 2状態 間の状態族内部での測地的距離 の2乗を2状態の離れ度合いとして用いる場合もある. なお, の極限として SLD 計量を定義することも可能である.