現代数学への流れ授業日誌

授業は、テキストであるベクトルあれこれ(随時更新します) とNUCTに掲載の資料を併用してオンラインで行いますが、 事情が許せば対面形式に移行する可能性もあります。 ということで、金曜2校時には他の予定を入れないようにしてください。
成績評価は、3−4回提出していただくレポートの内容で判断します。
レポート提出に関連した質問時間を Teams を利用して3−4回設ける予定です。
授業についての質問等は NUCT のメッセージ機能をお使いください。 あるいは、「yamagami と math.nagoya-u.ac.jp を @ でつないだメールアドレス」宛に送ることもできます。
授業の進度予定と学習項目は以下の通りです。毎回の内容については、その下に書き足していきます。
授業日誌は毎週更新していきます。古いのが表示されるようでしたら、再読込してみて下さい。


10月8日

最初にオンライン授業の形態について書いておきます。 くり返し見られるビデオのようなものはありません。
これは、私自身のスキル(とネットワーク環境)の問題ではありますすが、 少しだけ言い訳すると、普通に書いてあるものを批判的に読みこなし、客観的に(かつ批判的に)書きまとめる、 という経験をできるだけして欲しいと願っているからでもあります。
今、ネットには様々な情報が溢れていて、確かに便利ではありますが、一方で根拠のはっきりしない匿名発信の情報もこれまた多く、 混迷の時代の灯明となるべき客観的かつ合理的かつ検証可能なものを見分けそしてまとめる力を養う上でも必要であろうと思っております。
ということで、毎回の授業時では、その日に学ぶべき内容を指示するので、 資料の該当箇所を読み解いていただきます。その上で、疑問に思ったことあるいは理解できなかった点を書きまとめていきます。 (日々の内容について他の人と議論できる方は、どうぞそうなさってください。)
その上で3週(2週のときもあり)を一区切りとして、レポート(合計4回)の形にまとめ直し提出していただきます。 レポートは、わからなかったこと疑問に思った点を中心に述べていただき、それに基づいてどこまで理解したか、 またそれが第三者にわかるようにに書き表されているか、をこちらで判定することになります。
なお、レポートをまとめるに際しての Q & A の時間を4回設ける予定です。 こちらは、Teams による双方向のものを考えておりますが、通信環境が整わない等の場合は、メールによる(事前の)質問に対する回答をここで 提示する形になるかも知れません。
ここまで読んできて、登録の取り消しをされる方は、どうぞ遠慮なく(早めに)なさってください。

気温高めの秋晴れと呼んでよいのかどうか、波にのまれゆくような。昨夜の揺れもまた。

テキストの「1数と量」読み解きます。分量は少なめですが、数と量、単位と次元の関係をわかりやすく説明できるかどうか。
テキストに書いてあることを参考に、批判的にまとめを作ります。数と量の分離の歴史、というのもあり得るかと思いますが、 どうやら、数を考えるということの意義は、それこそ数えることと同じくらい古くかつ意識せずに始まったもののようで、はっきりせず。
むしろ、量=数+単位、という認識の方が比較的新しいことなのかも知れません。面積と体積の和、といったことは考えもしないでしょうから。
物理でいうところの「次元解析」(テキストに追加しました)は、それを意識的に活用することでもあるので、もっと新しいこと(18世紀以降)のようです。
テキストには「問」をいくつか入れておきましたが、それに拘る必要はありません。あれこれ考えるヒントくらいに思ってください。 もちろん、まともに取り組んでみても構いません。くり返しになりますが、そうした過程で気がついた疑問点、調べた内容も含めたまとめを記録しておきます。 その上で、質問とかありましたら、メールでどうぞ。

10月15日

ようやく暑さもおさまり、鈴鹿の山も光あまねくほどに。

今日は、「2力のつりあい」です。人類がベクトルを意識した最初の事例と言ってよいでしょう。その歴史的な経緯について学びます。
計算に属することがらは、稽古さえ積めば比較的簡単にマスターできる(マスターした気分になれる)のですが、その意味とかの概念的なことは、 形式的に表わし難いということもあり、普及に時間がかかるもの。多くの先達が苦労したところでもあります。
その過程をそのままたどる必要はもちろんないのですが、質的な変化には、そういった見方の変化も伴うもので、 今後皆さんが担うべきものを支える何かを歴史から汲み取って貰えれば幸い。
人名がたくさん出てきました。カタカナ書きを並べておきます。知ってる名前は何人だったでしょうか。 昔の人の名前なんかどうでもいい、と思う人もおられるでしょうが、 それの論理的帰結は、今の人もこれからの人もどうでもいい、ということになり、全ては無意味ということになる?
シモン・ステヴィン (Simon Stevin)
ガリレオ・ガリレイ (Galileo Galilei)
ルネ・デカルト (Rene Descarte)
ジョン・ウォリス (John Wallis)
クリスティアーン・ホイヘンス (Christiaan Huygens)
アイザック・ニュートン (Isaac Newton)
ピエール・ヴァリニョン (Pierre Varignon)
レオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)
ジル・ド・ロベルヴァル (Gilles de Roberval)

NUCTに置いてあるスライド資料 (4/35--13/35) も参照してください。

レポートの形態についての質問がありましたので、少し書いておきます。詳しくは、質問・解説の回にでも。
まず、A4用紙2−3枚(1回の授業につき、1枚)程度を、紙のサイズは問わずに書いた形で用意していただき、 それを写真に撮り、ファイルとして電子的に提出するといった予定です。電子的に読めるものであれば写真でなくても構いません。 ただ、ファイルのサイズが大きくならないように、あと、こちらで読めないと困るので、pdf 形式を推奨します。 (多分、他の形式でも読めるとは思いますが、できるだけ汎用性があるもので。)

10月22日

白く輝く御嶽山の季節になりました。鈴鹿の山ももうすぐでしょうか。

今日は座標の歴史をあれこれ見ていただきます。 場所の指定を2つの数の組み合わせで行うという、大昔から利用されていた考え方のようにも思えるのですが、 数学として認識され始めたのが、何と江戸前期のことという驚き。デカルトとフェルマーが創始者ということですが、 ニュートン・ライプニッツ、ベルヌーイ一族等による洗練を経て、オイラーによるニュートン力学の座標定式化でひとつの頂点を迎えました。 いま、力学の教科書で普通に書かれるベクトルの時刻変化に基づいたいわゆる運動方程式に相当するものが \[ m \frac{d^2x}{dt^2} = f_x,\quad m \frac{d^2y}{dt^2} = f_y,\quad m \frac{d^2z}{dt^2} = f_z \] といった座標を使った微分方程式の形で記述されるようになりました。 これからベクトル表記が得られるためにはさらに100年近い時間を要したことは前回触れた通りです。
この座標を使った記述は強力この上もなく、ある意味、「座標の時代」は今も続いております。 その座標からベクトルに至る道程の中途に位置するものとして、複素数の幾何学があります。 機が熟したということでしょうか、複数の数学者が相前後して同じようなことを考え発表しました。
今回は、その中でも最も古いと思われる Wessel の仕事を垣間見ていただきます。 複素平面は高校でもある程度学んだことでしょうから、さほど違和感なく読めるとは思いますが、 創業者は大変です。ぼーっと見てるだけでは実感がわかないかも知れませんが。

次回は質問と解説の時間とする予定です。Teams を使った「会議形式」を予定してますが、 事前に質問を募ります。メールで(ファイル添付も可)で、 10月28日(木)18時までにお寄せください。
初回のレポートの詳しいこともその時に提示しようと思います。

10月29日

北西の風4m、すみずみに光ゆきわたり、季節はまた一歩前へ。

事前の質問がいくつかありましたのでお答えしたいと思います。

Q1. 有理数の極限に無理数は含まれるのか。
A1. はい、有理数の極限として表わされるのは、無理数も含めた実数全体です。 因みに、実数とは何かというのは、意外に深い質問で、幾何学的な直感を排除した説明はなかなか面倒です。

Q2. 数の加減乗除から交換法則、結合法則が成り立つのは具体的にどうしてか。
A2. 簡単にいうと、法則が成り立つように数の範囲を拡張したということです。
自然数の計算規則が元ですが、自然数の計算規則の認識のされ方は、 やはり個数の比較をした(具体的には面積的あるいは体積的な計算ということになるでしょうか)。
拡張の具体的なプロセスが見たかったら、 「実数論」をキーワードに本とか探して見て下さい。それだけで1冊の本になるぐらいの内容です。

Q3. プリンキピアで運動の法則を導く際の仮定の内容が不明確という仮定はどのようなものか。
A3. これは大きな質問ですね。まずもって、すべての概念が言葉で説明してあって、数学的というよりは哲学的な表現になっております。
例えば、第二法則の説明のところで、力が2倍になれば運動も2倍になる、という説明があるのですが、仮にこの力が今我々が理解している力と同じものだとしたら、 ニュートンが言っている運動というのは加速度ということになりますが、
そういった記述にはなっていないので。少なくとも出始めは。
少し先に行くと、運動と力の関係を図形的に説明しているのですが、それが加速度の説明になっているかどうかはすぐには分からないような書き方です。
ということで、ニュートンが平行四辺形則をどの程度認識していたかがなかなか見えてこないのです。
数学的な概念の背景が今と違っていたというのが最大の理由ですが、研究家によるとそれだけでないニュートンの意図もあったようです。
ということで、さすがにラテン語の原典は無理でも、その英訳、例えば これ とかご覧になって改めて感想をお聞かせいただければ幸い。

Q4. Fermat と Descarte は何のために座標を導入したのか。
A4. 逆に質問します。座標の良いところはなんだと思いますか。
すでに座標は使い慣れていると思うのですが、座標を知らなかったときと比べて何が嬉しいでしょうか。と考えてみてください。
ついでに、どうして座標を思いついたか、という質問もありえます。これは、フェルマーさんデカルトさん自身も答えられなかったりして。
ひらめいた、としか言いようのない発見は沢山あります。そのためにはあれこれ失敗もしなくては。

Q5. ダ・ヴィンチの見方のどの点が不正確なのか。
A5. 不正確というよりは間違っているということですね。計算しても良いのですが、直感的な説明は可能でしょうか。
これが案外悩ましく、ダ・ヴィンチも気が付かなかったのかも知れません。
とは言っても、いろいろ考えられるところではあります。もし、計算しないで正しい条件を導けたら、力の平行四辺形則を「証明」したことになります。 何かうまい説明はないでしょうか。アイデアを募ります。

Q6.指数関数の肩の量が必ず無次元でなければならないということについて、 確かに肩の量に次元があるという状況も言われてみれば理解できませんが、かといって必ず、 というほど絶対的なものなのかどうかという点が分かりません。
A6. テキストで指摘したようなことは案外無意識(あるいは無自覚)に運用されていているのかも知れません。
当たり前過ぎて誰も書かないということかも知れませんが、一方で、本当にそうなのかどうか自信がないという人も意外と多かったりして。
単位(次元)付きの量というものは、ごくごく普通に計算されるもので、これは小学校以来慣れ親しんでいることではあります。
その際、次元が等しい量を相互に比較することも単位の換算を通じて当たり前のように行われます。
量の和と差も同様の扱いが可能ですが、掛け算(割り算)が入ってくると単位もさることながら次元が変わってきて、 異なる次元の量は、比較することができません。
普通の物理量ではありませんが、時間の二乗があったとして、それと長さの和が何を意味するかは不明です。
というよりも普通は考えませんが、 あえてということであれば、相互に換算する方法を与える必要があるということでもあります。
有名な例として、昔は時間と長さは別の次元でしたが、今は、物理法則である光速度一定という事実があるので、光の測度を掛けるあるいは光の測度で割る という方法で時間と長さを相互に換算することができるようにはなりました。
ということで、速さ $v$ の指数関数というのは一応可能で、その意味は光速度 $c$ を基準にとった無次元量 $v/c$ の指数 $e^{v/c}$ でならば、 ということになります。でもやはり無次元化している。

Q7. 平行四辺形則というものが出てきて、問2.2でそれについて考えるといった内容でしたが、 斜面に沿った力を分解するという点は理解できますが、 どこに生じる平行四辺形のことを言っているのかという点が分かりません。
A7. これは問2.2 の上にある右側の図の外枠にも見える平行四辺形がそれです。
まず図の右端のベクトルを直交分解しそれと左向きのベクトルとの和を計算します。
そうすると上向きベクトルは変わらないものの水平方向のベクトルが減じられ、結局中央に現れる長方形の辺に沿ったベクトルの和ということになります。
そこで、今度は直交合力として、中央矢印のベクトルが得られる、というつもりの例図でした。 (言葉で説明すると長くなりますが、図の意図がわかれば、単純なものです。)
ただ、ステヴィンがそういう理解に達していたかどうかは不明と書いたのでした。

Q8. 問3.1の前に出てきた具体例の式(3乗根の入っている式)がどのような意味をなしているのか(前後の文章にある正多角形の点との関係?)が分かりません。
A8. 最初に参考書を挙げておきます。
http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~yamagami/teaching/complex/complex2013.pdf
の最初の辺りをご覧ください。
Wessel の挙げた例に現れる 10度 = $\pi/18$ という角はどこから出てくるかですが、 まず $4\sqrt{3} + 4i$ を極表示すると、 \[ 8(\frac{\sqrt{3}}{2} + \frac{1}{2} i) = 8 (\cos\frac{\pi}{6} + i \sin\frac{\pi}{6}) = 8 e^{i\pi/6} \] となります。したがって、その3乗根(の一つ)は \[ (8 e^{i\pi/6})^{1/3} = 8^{1/3} e^{i\pi/18} = 2 (\cos\frac{\pi}{18} + i \sin \frac{\pi}{18}) \] のように計算できる、というからくりでした。

道具の手入れは大事ですが、それだけではダメ。使うものでなければ。

レポート(1回目):過去3回分の授業内容について、わからなかった所・疑問に思ったことをできるだけ具体的に、 第三者が読んでもわかるようにA4用紙3枚程度にまとめます。
まとめたものを電子的ファイル(写真も可、ただしファイルサイズが大きくならないように注意)にして、 NUCT の課題欄から提出してください。
締切は次回授業の終了時までとします。

11月5日

穏やかに、名残りの秋晴れとなるか。

今日は、グラスマンです。ベクトルの歴史でいうと掉尾を飾る大物の一人(もう一人はハミルトン)です。 が、多分はじめて目にする名前でしょうか。
テキストは、その数学的な業績と評価(というか当時の評判)などを、私が調べた範囲で解説したものですが、 まあ、あの難解なものがよくぞ解読されたもの、というのが率直な感想です。
ただ、グラスマンがいなくても、いずれは発見されたものであろうとも思います。数学の成熟とともに。 でも、己の信念に忠実なの人だったのだろうとは思います。ハミルトンの晩年と比べてどちらが幸せな生であったかとも。
さて、その難解の誉高い(?) Die Ausdehnungslehre (ドイツ語なので、名詞は文中でも大文字ではじめる)ですが、オリジナルがネットにありました。 Ausdehnungslehre1855
これを(読むというよりは)見るとわかるように、ほとんど文章です。数式がちらほら出てきますが、分配法則とか結合法則がらみの一次式的なものに終始。 図が一つもない、と思ったら最後にまとめて、10個ぐらいありましたが、まあ、初頭的な幾何ベクトルの図、といったところでしょうか。 あくまでも線型性を追求したということなのでしょう。
ドイツ語はちょっと、という人(私もです)は、1862 版の内容解説である Vuorikoski はどうでしょうか。外積代数が $[e_1e_2]$ といった記号、現在の記号だと $e_1\wedge e_2$、で導入されています。 高度な(?)線型代数の概念にかかわるところで、教養の線型代数では扱われないこともあり、眺める程度で結構です。
もっと親しみ易いスライドもありました。 Liesen です。
グラスマンはその他に、色彩理論、言語学における音韻変化の法則、などの仕事もあります。決して難解一辺倒の人ではなかったようです。

1回目のレポートを採点していて目に着いた点を補足しておきます。

次元が数学と物理では違う意味で使われていることを意外に思った人もいることでしょう。
その歴史的経緯は知らないのですが、物理の方が先で、その特殊な状況を表わしていたもの(具体的には、空間の次元)が、 数学の用語として再利用されたように思います。
例えば、固有値という概念があり、これは数学内のものですが、それと物理現象(広い意味での振動現象)で使われていたスペクトルという用語が、 数学に逆輸入され、連続的な固有値を表わす意味で使われております。
数学は比較的緻密を旨としますが、それとても人間がやること、ぼやけた(不精密な)部分も出てまいります。 テキストにもあるように、数学の次元は(ベクトル空間の次元も含めて)「独立変数の数」に近いニュアンスで使われています。

有理数の極限で無理数が書けるという認識がない人が大勢おられたようで、これには正直びっくりしました。
有理数 vs 無理数という対立の構図という認識なのかも知りませんが、数学の専門家はもちろん、現実的な数を使いこなしている人達も $有理数 \subset 実数$ で、実数というのは、有理数からの極限で表わされる数という感覚のはずです。
というのは、数の基本は何といっても数えることで、その数えるという行為の先の抽象に自然数が現れます(10個のみかんも10本の指に共通した数が $10$ ということで)。
その自然数の比として有理数が考え出されたのだろうと思います。実数の理解は、直接的には小数表示から得られ、 有限小数(とくに有理数)からの極限としての無限小数がその具体的な表示ということになります。
これで、$\sqrt{2}$ でも円周率でも、実数として扱えるようになりました。 こうして数の発展形として得られた実数が、直線を表わしているという認識は、さらに一歩段階を進めた感じのもので、 そこまでいくと「明らか」とは言い難くなってきます。
とくに量子現象の存在を知った今となっては、実数は直線なりというのは素朴に過ぎるような。

11月12日

北からは雪の声も、しぐれ雲の流れ入りてのち晴れるか。

1回目のレポートに点をつけましたので NUCT でご確認ください。
自身の疑問点・困難点が、その背景とともに述べられていること、
受講していない人にもポイントが伝わるように書かれていること
以上の観点が概ね満たされている人は2点、不足している人は1点、全く足りていない人は0点で、 さらに良いと思われるレポート(視点、表現の仕方、分析等の点で)は3点です。
合計3点✕4回=12点満点で、最終的に6点以上を合格とします。

1回の授業につきレポート1枚というのは、少ないとは思いますが、例えば次のような作成プロセスを想定しております。
毎回の学習に際して、感想・疑問を箇条書きにまとめておきます。これはメモ程度でよい。
授業時間外に、本などに当たって、疑問点で解決できる部分は解決して、メモ内容の改良を行います。
レポート作成の際は、そういったメモを元に取捨選択し、第三者にもわかる程度の説明を補い入れて完成させます。
最初の感想・疑問点を追加学習による手を加えることなしにそのまま書いたようなレポート散見されました(当然点数は低くなります)。
これで、1時間の授業に対して2−3時間の授業外学習がまかなえることになります。
あと、共同学習は良いのですが、共同でのレポート作成(写した場合も含む)は当然のことながら厳禁です。
書き方を変えたから分からないだろうと思ってはいけません。正解は似通っても、分からない形態は百人百様、同じにはなりません。 不自然な一致はすごく目立つものではあります。

お知らせが長くなりましたが、ここからが今日の内容です。
先週はグラスマンでしたが、今週はハミルトンです。少し物理を進めるとよく目にする名前ではありますが、ご存知でしたか。
アイルランドの数学者で、神童が長じて天才と呼ばれた少ない例であるような。 その天才を飾る最後のそして本人もお気に入りの仕事が、今日のテーマである四元数 (quaternion) です。
これを「しげんすう」と呼べと唱える人が多いようですが、「よげんすう」でも「よんげんすう」でも何でもよいでしょう。
できるだけ同音意義の混同を排除したいのですが、資源数、予言数、四弦数のように干渉は避けがたく、この中では意味が重なる四弦でよいような。
話をもとに戻すと、物理でも目にするハミルトンは、解析力学と量子力学とをつなぐ、 一般化されたエネルギー関数あるいは演算子の名前(Hamiltonean という)として知られていますが、
工学も含めてもっと普通に使われる、スカラーとベクトルという名称の考案者でもあります。
詳しくは、テキストに譲りますが、幕末から明治期にかけて、ヨーロッパ・アメリカをまたにかけて繰り広げられた人間ドラマでもあったのでした。
関係者の年代を記しておきます。(こう並べてみると一人だけ見劣りするような。)
William Rowan Hamilton (1805--1865)
Hermann Guenther Grassmann (1809--1877)
Peter Guthrie Tait (1831--1901)
James Clerk Maxwell (1831--1879)
Josiah Willard Gibbs (1839--1903)
Oliver Heaviside (1850--1925)
あと、ベクトル解析の創始者である Gibbs の本というのは、100年以上も前のものなのに、今でも全然違和感なく読めるという驚異的なものです。
ちなみに、アメリカ方面では、ベクトルの成分表示をする際に、基準ベクトル系を $i,j,k$ と書く伝統があるのですが、これは Gibbs が、 ハミルトンに敬意を表して使ったのがその起源と思われます。
本の内容は次のサイトで見ることができます。人類の宝は、特定の個人・団体・会社が囲い込むのではなく斯くありたいもの。
https://openlibrary.org/books/OL7084853M/Vector_analysis

来週は質問と解説の2回目です。1回目と同様、事前質問を募ります。18日(木)の18時までにメールまたはメッセージでお寄せください。

12月以降(5回分)はオンラインの他に、C15教室でも 10:30--12:00 に受講できます(アンケートへの回答通りの選択でなくても構いません)。 ただし、質問と解説の週はこれまで通りオンラインのみとします。

11月19日

冬を前にした春というか、北国のとんぼはいずこに。

事前質問への回答です。

Q1. 「少し試せば(略)数の体系として分配法則と結合法則を同時に満たすような積が 3次元では定めがたい(p.14 l.5)」とありますが、 どのように試したら良いのか分かりません。
A1. 試みの一例を挙げると、Wessel を真似して、直交する3軸に $1$, $i$, $j$ を割り当て、 $i^2 = j^2 = -1$ を仮定してみます(これは Hamilton はじめ皆試したはずです)。
そうして、積を $ij = a1 + bi + cj$ ($a,b,c$ は実数) とします。
問題は、こう置いたものが分配法則と結合法則を満たすかどうか。仮に満たすとして $-j = (ii)j = i(ij)$ を計算すると、 \[ i(ij) = ai + bi^2 + cij = (-b)1 + ai + ca 1 + cb i + c^2 j = (ca-b) 1 + cb i + c^2 j \] となるので、$j$ 成分を比較して、$c^2 = -1$ となります。これは $c$ が実数であるとしたことに反します。矛盾です。
もっと手の込んだ式にしても中々うまく行かないのです。ただ、それを紛れなく証明することも結構面倒です。
ハミルトンも手を焼いたことと推察されます。

Q2. p.14のHamiltonの関係式は四元数 $q = t + xi + yj + zk$ からどのように導けるものでしょうか。
A2. 線型代数を駆使して、結合法則と分配法則を満たす場合を絞り込んで導くことはできますが、それなりに準備が必要となります。
Hamilton が行ったのは、おそらくそういうことではなく、あれこれ思考錯誤の結果、3次元をあきらめて4次元にしてみたところ、 それまでの失敗の経験のおかげで正しい関係式を比較的簡単に見つけられた、ということだろうと思います。
むしろ、そういった試行錯誤(色々な人達の)がその後の線型代数につながったように思います。
テキストにその一端を追記しましたので、ご参照ください。 数学としての試行錯誤は気楽にできますし、努めてすべきです。失敗しても人の命も自身も損なうことがないので。
人生の成功は、日常でどれだけ失敗したかにかかっている、ような。

Q3. このことは四元数と変位ベクトルとの間の食い違いを露呈させるもの(p.15 l.20)」とありますが、どの点において食い違いが生じているのか理解できませんでした。
A3. 四元数の $i,j,k$ は、(変位ベクトルのような)極性ベクトルよりは、(角運動量のような)軸性ベクトルと解釈するのが自然なのです。
この辺りのことは、いわゆる右手系・左手系に関連する空間の「向き」をどのように捉えるかも関わってきます。
気の利いた線型代数の本(書いていない本も結構ある)とかで学ぶとよいのですが、 Polar and axial vectors versus quaternionsという小論でもある程度の感じはつかめるでしょう。
(ただし、Grassmann が無視されているのはいただけません。一方で、Gibbs が Grassmann を読んでいたことは、内積と外積の記号からも覗えます。)
あとのA6でも少し説明してみます。
3D graphics で四元数が注目されることとも関係します。
四元数は、3次元的移動(変位ベクトル)というよりも3次元的回転量(軸性ベクトル)との親和性が高いのです。

Q4. p12に ”さて Grassmann の難解なる外延論 (1844, 1846, 1862) であるが、 そこでは、 一般のベクトル空間とその上の外積代数に相当するものが展開され、 それには3次元幾何ベクトルに対する内積と外積の定式化が特別な場合として含まれる。”
という文があるのですが、どのような式があったのですか。
A4. 内積は 1847 の Geometrische Analyse に $a\times b$ という記号で出てきます。
直交するベクトルの内積は $0$ になるとか、分配法則が成り立つといった式もあります。
外積の方は、Ausdehnungslehre §38 で、平行四辺形の面積が $a.b = \underline{a} \underline{b} \sin (ab)$ であるといった説明があって、 その後に、$a.b = - b.a$ を導いているのですが、 これは今風に書けば、$a\times b = -b\times a$ に相当します。
さらに§45 では、これの高次元版である $p_1.p_2\dots p_n$ が出てきて、これが行列式と結び付けられています。
内積と外積の記号が今あるものと反対になっているのですが、これはどうやら Gibbs が始めたようです。 (推測ですが、Grassmann も Gibbs も、自身がよく使う方を簡単な記号にしたのだろうと思われます。)
ちなみに、内積の記号は、その間にもいろいろ変遷があり、$[a|b]$ (Grassmann, 1862), $a|b$ (Heaviside, 1890ごろ), $(a,b)$ (Lorentz, 1900 ごろ) とのこと(Cajori, A History of Mathematical Notation)。
さらにときは下って、$(a|b)$ (Dirac, 1930)、$\langle a|b\rangle$ (Dirac, 1935) というのもあって、 これだけで話ができそう。
なお、外積とベクトル積は本来異なるもので、ベクトル積は3次元固有でしかも結合法則が成り立ちませんが、外積の方は、何次元のベクトルでも考えることができ、 さらに結合法則が成り立ちます。
具体的に、$a$, $b$, $c$ を空間のベクトルとすると、$a \wedge b$ は「向きのついた平行四辺形」という意味をもち、 $a\wedge b \wedge c$ は「向きのついた平行6面体」=「符号付き体積」といった具合。
この符号付き体積 $v$ (で大きさが $1$ のもの)を指定することが空間の向き(右手系か左手系か)を定めることに相当する。

Q5. なぜカントールの集合論はペアノに影響を与えたのですか。また、ペアノのベクトル空間は何が斬新なのですか。
A5. Grassmann の認識した内容を表わす適切な記号とか言葉が当時なかったのですが、少しあとになって(1870以降)、
Cantor がフーリエ級数の収束点の集まりの性質を記述する必要から数学的対象物とその論理的関係を記述する言語としての集合の考えを発案・整備していったのでした。
それが Grassmann の考えた内容を記述する上でも役に立つということに Ausdehnungslehre の数少ない読者だった Peano が気付き、 今ある抽象ベクトル空間(これについては12月24日の授業で取り上げる予定です)の公理系として抽出・出版 (1888) したのでした。
ということで、斬新すぎて、Peano のこの著作もまた注目を浴びることはなかったのですが、
1920 になって、Hermann Weyl が 「Raum, Zeit, Materie」( 空間、時間、物質)という一般相対性理論の数学的解説書に取り上げられて後、徐々に普及していき、 今に至っております。

Q6. p16 の Remark4 がわかりません。これはどう意味ですか。
A6. Q3 とも関係しますが、3次元回転は四元数の積を保存する一方で、3次元折返しおよびローレンツ変換は積を保存しないという意味です。
具体的に、$i \mapsto i\cos\theta + j\sin\theta$, $j \mapsto -i\sin\theta + j\cos\theta$ という回転であれば、 \[ (i \cos\theta + j\sin \theta)(-i\sin\theta + j\cos\theta) = \cos\theta\sin\theta - \sin\theta\cos\theta + ij\cos^2\theta -ji \sin^2\theta = (\cos^2\theta + \sin^2\theta) ij = ij \] のように積を保存しますが(回転させた後の積が回転させる前の積に等しい)、折返しやローレンツ変換ではそういった等式が成り立ちません。

Q7. テキストのP15で四元数の積を定義しているかと認識していますが、t×Vやt'×V'といった、スカラーとベクトルの積の項はどうなったのかということです。
単にそういう演算の仕方なのか疑問に思っています。
A7. 失礼しました。書き忘れを見落としていました。テキストを修正しておきます。

Q8. 問5.1の問題に関して、安直な方法では複素数は得られないとのことですが、根号の中身が負の数になることで、 虚数が現れ、複素数が得られると思ったのですが、これは安直な方法ではないのでしょうか?
また、問題文の書き方的に複雑な方法なら得られると読み取れますが、そのような例というのは存在はするということで良いのでしょうか?

A8. 座標を用意し、空間の点を3つの実数の組み $a = (a_1,a_2,a_3)$ で表わします。ここで、安直な方法というのは、 \[ a + b = (a_1+b_1,a_2+b_2,a_3+b_3), \quad ab = (a_1b_1,a_2b_2,a_3b_3) \] としたものを指します。分配法則、結合法則、さらには交換法則も成り立ちますが、複素数を含まないことは、 $aa = -(1,1,1)$ となる $a$ が存在しないことからわかります。ここで、積の単位元が $(1,1,1)$ であることに注意します。
なお、複素数を含むように和と積を定義するだけであれば簡単で、たとえば、積の定義を \[ ab = (a_1b_1-a_2b_2,a_1b_2 + a_2b_1,a_3b_3) \] とすれば、この場合も分配法則、結合法則、交換法則が成り立ち、$(a_1,a_2,0)$ が複素数 $a_1 + ia_2$ と同一視できます。
これは、複素平面にもう一つの自由度を「安直に」付け加えたものになっています。
もっと3方向が絡み合うように積を定義できないか、ということで Hamilton 始め色々な人達を悩ましたのでした。

レポート(2回目):過去2回分の授業内容について、わからなかった所・疑問に思ったことをできるだけ具体的に、 第三者が読んでもわかるようにA4用紙2枚程度にまとめます。
まとめたものを電子的ファイル(写真も可、ただしファイルサイズが大きくならないように注意)にして、 NUCT の課題欄から提出してください。
締切は次回授業の終了時までとします。

11月26日

今日から何回か、線型代数の補習のような内容になります。
既に知っていることかも知れませんが、一方でこういうことに触れない教科書あるいは授業も多いので、入れてみました。
これまで見てきた、歴史的経緯がどういう形でまとめ上げられたかということでもあります。

まずは、点とベクトル、ベクトルと座標の関係をはっきりさせます。
ここでは、ベクトルの幾何学的面が強調されています。 視覚的な直感力と言ってもいいでしょう。
それを数の間の関係として処理することで、直感を計算が支えるという仕組み(解析幾何といいます)が整えられます。
今日はその概念的土台作りといった部分になります。

キーワードを抜き出せば、
位置ベクトル、成分、座標変換、内積、単位ベクトル、デカルト座標、ユークリッド空間
といったところ。

少し補足しておくと、移動量としてのベクトルは、変位ベクトル (displacement vector) と呼ばれます。
また、点の位置ベクトルは、力学方面では $r$ の太字で表わされ、radius vector とも呼ばれます。

話は変わり、面接(試験)というのがどういうものであるかは、ご存知のことと思います。
その面接試験の一種ではありますが、数学方面では口頭試問と呼ばれるものがあり、これとても万能ではありませんが、 実力を見るのにかなり有効です。
例えば、上のキーワードから2つか3つ選んで、その説明と相互の関係を説明させる、といった簡単なものでも、 意外とできなかったりします。
分かったと思うことと、それを人に説明することのギャップと言ってもいいかも知れません。
これを書いて表現することに相当するのが、この授業で課しているレポートの趣旨に近いでしょうか。単なる感想文になっていないかどうか。

NUCTでもお知らせしたように、来週からは教室 (C15) で授業が受けられるようになります(ひきつづき、リモート形態も可能)。 直接の質問ができる機会でもありますので、どうぞご活用ください。

12月3日

寒さもいずこかの青空もまた、かなしくもなつかしくもあり。

今日は、テキスト6節の後半部分(21ページ以降)を見ていただきます。
高校でも同等のことは学んだことと思いますが、 ここでは、移動量としてのベクトルとその内積を最大限活用して、 図形の基本である、直線と平面の表示について復習します。
これは、前期の線型代数で出てくることになっている内容ではありますが、高校との重なりも大きいため、省略する先生も多いかと。
ただそうすると、現行カリキュラムから外れている平面の方程式を知らないまま先に進むことになるため、 これは、他の関連科目との繋がりで困ったことになりかねません。 万一、聞き漏らした人もこれを機会に補充しておきましょう。
次に、空間における平面・直線の方程式を連立一次方程式と結びつけて、それを解くということの幾何学的な意味を理解します。
こういった直感が実際に働くのは3次元=3変数までですが、連立一次方程式を解くことの幾何学的意味は、もっと多くの変数でも有効で、その辺りの認識が、 グラスマンの辿った軌跡ではあったでしょう。その追体験でもあります。
本当は、Grassmann の Theorie der Ebbe und Flut でもじっくり読むほうがどれだけ有意義であるか。 手っ取り早く何かを手に入れても、それはそれだけのこと。後には何にも残らない。

2回目レポートの講評です。

今現在は、スカラー積と内積、ベクトル積と外積を同じ意味で使うことが多いのですが、歴史を紐解けば、そうではないということをテキストでは強調しました。
そのところが分からない・疑問だという意見が多かったように思います。 (疑問だ、というからには、単なる感想ではなく批判的な根拠を説明します。)
テキストにも書きましたが、スカラー積・ベクトル積ともに四元数から出てきた用語で、ともに3次元ベクトルについてのものです。
一方、内積・外積は Grassmann に由来するもので、そこでは一般次元のベクトルについても意味を持つものでした。 スカラー積の方は内積の特別な場合ということもあり、後にどちらも同じ意味を表わすようになったのですが、ベクトル積は3次元限定であるというだけでなく、 外積とは演算の性質・構造が異なります。
グラスマンの外積は $\wedge$ という記号で表わされ、ベクトル積(クロス積ともいう)$\times$ と区別されます。
そうして、外積の方は結合法則を満たすのに対して、ベクトル積の方は満たしません。
3次元の場合に正規直交基底 $e_1,e_2,e_3$ を使って説明すると、 $e_1\wedge e_2$ は「面積ベクトル」という意味合いの抽象的なものであるのに対して、$e_1\times e_2$ は空間の向き(右手系)を軽有して $e_3$ に置き換えられ、 さらに、$(e_1 \wedge e_e)\wedge e_3 = e_1\wedge (e_2\wedge e_3)$ は、向きのついた単位立方体を象徴するものであるのに対して、 $(e_1\times e_2)\times e_3$ は零ベクトルです。
これを一般の3次元ベクトル3つに拡張すると、 $a\wedge b \wedge c$ は、$a$, $b$, $c$ を稜とする向きのついた平行6面体を象徴する(ある意味行列式 $\det(a,b,c)$ に近い)ものであるのに対して、 \[ (a\times b)\times c = (a\cdot c)b - (b\cdot c) a \] は $a$-$b$ 面に平行である一方 \[ a \times (b\times c) = (a\cdot c)b - (a\cdot b) c \] は $b$-$c$ 面に平行となり全く異なります。
たまたま3次元のときに、両者の間に対応がつく(空間の向きの取り方に依存した形で)ため、 こちらは応用方面で混同されるようになっただけで、今でも本当は区別されるべきものです。
このように、$a\wedge b$, $a\wedge b \wedge c$ などは、もとのベクトルとは、別種の新たなベクトル量になっていて、 Ausdehnung という言葉が使われた由来です。こういった、いわば目では見えないベクトルの世界を初めて「見た」のがグラスマンでした。
そこでは、もとにするベクトルを3次元に限定する必要はなくなり、現実の幾何学からも解放された「線型空間」が出現します。

ネットでも「外積代数」で検索すればいろいろ見つかりますが、例えば、Wikipedia の 外積代数クロス積、 あるいは 物理のかぎしっぽの外積代数 の辺りをご覧ください。
この外積代数 (exterior algebra) に言及したレポートは残念ながらなかったようです。もし、見落としているようでしたら、ご一報下さい。

四元数の計算で、$i^2 = j^2$ から $i = \pm j$ となる、と思った人もいたようで、これは正しくありません。
実数(複素数でも)のときにこれが成り立つためには、 積の交換法則が使われているのです(認識してましたか)。
何となく慣れで、というのが楽なようでいて大きな落とし穴にもなり得ます(環境問題しかり)。
この計算は、 $i^2 - j^2 = (i+j)(i-j)$ という因数分解が成り立つことが前提になっているのですが、今の場合、 \[ (i+j)(i-j) = i^2 + ji - ij - j^2 = 2ji \] は $0$ にならないので、破綻します。因みに $(i-j)(i+j) = 2ij = -2ji$ とも一致しません。

なお、外積は英語で exterior product と呼ばれ、多少の混同はあっても vector product (cross product) とは区別して使われる。
一方、上でも述べたように、日本語の教科書では、ベクトル積=外積、とするものが多く(無自覚なる混同か)、注意が必要。
英語で vector product のつもりで、exterior product と言うと誤解される恐れがあり、outer product というと怪訝な顔をされるかも知れない。
scalar product と inner product の方は、そういった心配はないのであるが。

テキストからの抜き書きでレポートの増量を図る人が目立って参りました。
今後は、単なる抜き書き部分は、評価の対象から外すことにします。
勉強してみてわからなったことや調べた内容や考えたことの説明部分をこれまで以上に重視いたします。

12月10日

大雪過ぎて、その気配未だ明らかならずとも、鴨の来たりて群れ集う。

本日は、座標系と座標変換とベクトルです。テキストの追加部分をご覧ください。
ベクトルとは、一次結合という代数演算を許容するものをいう数学用語ですが、 一方で、大きさと向きをもった量という物理的解釈は直感的かつわかりやすく、さらには「方向性」程度の感覚的は意味でも使われたりします。
実際のところ、物理でいうベクトルは、数学でいうところのベクトルに様々な付帯情報を伴ったものが実体です。
例えば、力はベクトルの典型例ですが、その物理的効果は、単に方向とベクトルだけでなく、どの点に働くか(いわゆる作用点)とセットで考える必要があります。
幾何ベクトル(変位ベクトル)で言えば、どの点からの移動量であるかは始点に依存しているのですが、それを無視して正味の移動量だけに注目することで、 代数演算が可能な数学的対象としてのベクトルが得られます。

この幾何ベクトルをその成分表示と結びつけることで、座標という数値的な扱いが可能となる形式が得られます。
座標をこのように二段構え(基準点とベクトルの基底)で捉えると、座標変換とベクトルの成分変換の関係が明確になるのみならず、 座標変換を通じたベクトルの記述という新たな視点が得られます。
この座標変換の立場からは、移動量としてのベクトル(極性ベクトルという)以外のベクトル量として軸性ベクトルが認識できるようになります。
前者は、平行移動と直接つながるものとして、力や運動量さらには電場もその範疇に入る一方で、後者は角運動量を典型としたベクトル量であり、 磁場もその仲間であると認識されています。
このことは、磁場がスピンのような回転状態を記述するものであるという物理的見方を支えるようにも思われ、 磁荷が見つからない理由なのかも知れません。

さて、座標変換の行列による表示から、座標系には回転(と移動)で移りあるものと、 折返し(鏡像)の操作を施さない限り移れないものに二分されることがわかります。
数学的にはその2つのどちらかが優先されるということは無いのですが、物理的には、人間の体(というか視覚的識別能力)を基準にし、 右手系・左手系という名前が付けられております。
変位ベクトルのベクトル積は、 その座標系の取り方(より正確には空間の向き)に依存した形で成分表示を使って定められるものとなっております。
この辺の説明を真面目に行わない本が多いように思いますが、敢えて混乱の種を避けたということでしょうか。
教科書に書いてあるというだけで、無批判に納得してはいけません。
多くの日本語の本で見かける、ベクトル積=外積なり、というのも本当は正しくなく、 欧文の教科書では、そう言わないものが普通であるように見えます。
一方で、スカラー積=内積、の方は、スカラー積が内積の特別な場合だったということもあり、 同じものと思っていただいて構いません。

少し長くなりました。 あとひとつだけ補足すると、グラスマンの外積代数というものが、なぜ幾何ベクトルの外の量(外延量)であるかの説明も試みたのですが、 どうだったでしょうか。
是非その感想となりを寄せていただければと思います。

次回は、質問と解説の3回目です。1・2回目と同様、事前質問を募ります。16日(木)の18時までにメールまたはメッセージでお寄せください。

12月17日

雲は雨から雪へ、山茶花の宿はいずこ。

Q1. 四元数において $q=t + xi + yj + zk$ での $t=0$ とベクトルはどのように区別するのか、あるいは同じであるか。
A1. まず、見かけのものとして、四元数の「虚数単位」は、アルファベットの小文字で表わすのに対して、基準ベクトル(基底ベクトル)を表わすものは、 太字(二重文字)で表わします。
さて、$xi+yj+zj$ と $x\textbf{i} + y\textbf{j} + z\textbf{k}$ の違いですが、 座標を使った成分表示ではどちらも $(x,y,z)$ ということになって違いがわかりません。
座標変換まで考えると、変位ベクトル $x\textbf{i} + y\textbf{j} + z\textbf{k}$ の方は、極性ベクトルとして振る舞います。
一方の四元数の方は、そもそも座標変換とどう結びつけると良いのかすぐにはわからないこともあり、同じか違うかは、どのように考えるか次第と思います。
ただ四元数の積の構造を考えると、回転量とみなすのが様々な点から自然であり、軸性ベクトルの成分表示と見なすのが今では一般的と言えるでしょうか。

Q2. 四元数の $i$, $j$, $k$ とベクトルの $\textbf{i}$, $\textbf{j}$, $\textbf{k}$ が同じ記号が使われるようになった歴史的経緯とは。
A2. これは四元数のみならずグラスマンの数少ない理解者だったアメリカの Gibbs が、
四元数とグラスマンの外積代数の良いとこ取りを行ってベクトル解析を創始した際に、 ハミルトンの導入した記号を流用したのに始まります。
内積の記号とベクトル積の記号はグラスマンのそれを何故か役割を入れ替えてつかい始めたもののようです。

Q3. 座標変換で変化してしまうのはどのようなものがあるか。
A3. ベクトルの各成分ですね。

Q4. 変化してしまうものはデカルト座標でなく何で表現するか。
A4. 変位ベクトルのように、座標と結び付けられる量もあれば、それとは別の種類のベクトル量(電場、磁場)もあります。
ただし、座標系と独立ではなる、変位ベクトルの座標変換とベクトルの成分の変換が関連している場合が、座標変換で認識できるベクトルということになります。
他に、そういった量としては、テンソルというものもあります。これも座標変換と結びついた一定の仕方で変換される数の集まりです。
さらには、スピノル (spinor) というものもあり、こちらは座標変換の上位概念である変換に関して規則的に変化する量ということになります。
ということで、変化しても座標で表わされる量もあり、また表わされない量もある、ということになります。

Q5. 行列が回転・鏡像変換を表わすのはどういうことか。
A5. 直交座標系の変換行列は、直交行列になるのですが、そのうち行列式の値が $1$ であるものが回転を、$-1$ であるものが鏡像(に回転をあわせた)変換になります。
詳しくは、下の方のリンクから辿れる「行列代数あれこれ」の16節をご覧ください。

Q6. 体積要素はどのようなものか。
A6. これは、面積要素が、面に垂直で大きさが面積に等しい「ベクトル」と見えるものの3次元版で、 3次元ユークリッド空間の外にあるベクトル量ということになります。
もちろん視覚的に見えるものではありませんが、観点的にはそういうものだと捉えることが可能です。 体積に右手系か左手系を指定した(組み合わせた)量ではあります。
もし、どうしてもその実体を見たいのであれば、外積代数というキーワードで検索してみてください。
数学的には、特殊な行列代数という形を取ります。 $n$ 次元ベクトル空間から作られる外積代数は、$2^n$ 次行列代数のの一部として実現されることがわかっています。

Q7. 「$t_1+ \dots + t_n = 1$ のときは点を、$t_1+ \dots + t_n = 0$ のときは幾何ベクトルを表す」という部分で、 係数の和が $0$ になる場合については具体例を考えてイメージできたのですが、係数の和が $1$ となる場合についてどのように考えればよいか分かりません。
A7. 問題の表式を \[ t_1P_1 + \dots + t_n P_n = O + (t_1P_1 + \dots + t_nP_n) - O = O + (t_1P_1 + \dots + t_nP_n) - (t_1+ \dots + t_n)O = O + t_1(P_1-O) + \dots + t_n(P_n - O) \] と書きなおせば、点 $O$ をベクトル $t_1(P_1-O) + \dots + t_n(P_n - O)$ で移動させた点を表わすことがわかります。 あるいは、$P_1, \dots, P_n$ に $t_1,\dots, t_n$ という重みを付けた重心(凸結合)にもなっています。
$t_1 = \dots = t_n = 1/n$ の場合が、ちょうど $P_1,\dots,P_n$ の重心です。

Q8. 「角を使わず、長さの情報だけから内積を得る方法については付録参照」とありましたが、どの資料を参考にすればよいでしょうか。
A8. 失礼しました。 行列代数あれこれの付録Dです。
原論文の著者の一人であるヨルダン(Pascual Jordan)は、不幸な経緯のため、その知名度が高くないのですが 量子力学の基礎を成す重要な仕事をいくつも成し遂げたのでした(かの Einstein は、その不幸な経緯にもかかわらず、 Heisenberg, Born, Jordan の3人をあわせてノーベル物理学賞に推薦したという)。
ここにも、人間ドラマがありました。

レポート(3回目):過去3回分の授業内容について、わからなかった所・疑問に思ったことをできるだけ具体的に、 第三者が読んでもわかるようにA4用紙3枚程度にまとめます。
まとめたものを電子的ファイル(写真も可、ただしファイルサイズが大きくならないように注意)にして、 NUCT の課題欄から提出してください。
締切は次回授業の終了時までとします。

レポートを採点していて気がついたところを少々。
テキストは、だいぶ思わせぶりな書き方だったかと思います。グラスマンほどの難解さはなかったにしても。
自分で具体例を見繕って、計算してみる、考えてみる、というある意味最も楽しい部分を知らないというか経験がないと思われるものが結構目につきました。 手取り足取りが必要なのかも知れませんが、それが良いことかどうか悩ましくもあります。
というのも、皆がわからなかった(私自身も含めて)$t_1P_1 + \dots + t_n P_n$ の意味ですが、質問の解説では、 $t_1+\dots+t_n = 1$ の場合を扱ったので、それをまねすれば、$t_1+\dots+t_n = 0$ の場合もすぐにわかるはずなのですが、 かわかないという人がかなりの数に。
一を聞いて十を知るのは無理でも、一を聞いて一しかわかないというのでは、能力以前の態度の問題なのかも知れません。
テキストの問に、$n=2,3,4$ の場合を調べよというのがあります。
これは $t$ の和が $1$ の場合ですが、$0$ の場合だって経験を積む上で役に立ちます。
そういった、試行錯誤の痕跡を一切示さず、「何もわからない」というあっけらかんとしたレポートからは、 「何もしなかった」と判断せざるを得ない、ということになります。
あと、(テキストも含めて)何かを見たのであれば、そのことがわかるように書きます。
とくに書き写した場合は、それがどこの部分かはっきりわかる形で引用します。
そうしないと剽窃ということになり、最近はとくにそのことが問題にされます。
ネットの情報も含めて、文章・内容の一致度をチェックしてくれるサービスというのがいくつかあり、 名古屋大学でも正式に導入しているので、少し直したから見つからないだろう、と思ってはいけません、一致度の割合などが細かく表示までされるので、 その気になって調べられるとばれます。
ただ、それを使うには多少の手間がかかるので、レポート程度は紳士協定といいますか、 そこまでする先生は多くはないと思いますが、レポート・試験答案は、その証拠品ともなりますので、後にさかのぼって調査の対象になるかも知れません。
悪いレポートの例:
「・・・」と書いてあるのは疑問である。
「・・・」の意味が不明である。
(「・・・」にテキストの文章の一部を入れれば、こういったものはいくらでも誰でも作り出せます。
どうして疑問に思ったのか、疑問点について何かできることはなかったのか、 意味が不明だった部分も、その前のわかったところの説明を書いて、それとの対比でわからなかった点などを、 第三者にもわかるように書きます。

12月24日

穏やかな冬晴れに山茶花の読みもまた。

今日は抽象的なベクトルです。8節の前半部分(内積の前)をご覧ください。 数をずらりと並べたものも抽象的に見えるかも知れませんが、もっと抽象化します。
「ベクトルのベクトルとして依って立つものが何か」とグラスマンが考えに考え抜き、 それに共感した人達がその実体を探る過程を経て明らかになっていったものではあります。
簡単にわかろうなどと思わない方がよいのかも知れませんが、決して難しいわけでもない。 人の存在の方がよっぽど難しく、それに比べてのことではりますが。
本を読んで答えを見てしまう前に、あれこれと。
一月程、放置したいところではりますが、世知辛い世の中、結論は「線型性=一次結合」ということになります。
これが滞りなくできるためのお膳立てがベクトル空間の公理というもので、公理として挙げられたものは出発点というよりは結論です。
Peano がグラスマン亡き後、外延論から汲み出したものです。その後、徐々にその意義がわかってきて、今や多くの教科書に書かれるまでになったのですが、 演繹よりは帰納というべく、ベクトルの計算が成立する大本の性質を突き詰めて抽出したものがその公理系なのでした。

ただし、演繹の部分は、形式的かつ地味な確認作業になることもあり、楽しくはありません。
ただ実際に利用する立場からは「論理」そのものよりは、具体例をできるだけ沢山知って、それらが確かに一次結合の計算が成り立つものであることを 納得するのがよいように思います。
その意味では、数列空間と関数空間が基本的な例となります。
標語的に言えば、「数列もベクトル、関数もベクトル」となるでしょうか。 ここでは、あくまでも歴史的な流れの中の意義を感じていただきます。

さて、こういうある意味趣味的というかお遊びのような抽象化をして何が嬉しいのでしょうか。
一つは、連立一次方程式を始めとした一次式の数学に、幾何学的直感を与えてくれます。
一方で、連立一次方程式で変数の数はいくつでもよいので、一次式の数学が逆に直感に確かな根拠を与えてもくれます。

一次式そのものは特殊ではありますが、一般の関数というものも、それが微分の対象になっていれば、ある点での振る舞いの一次式近似が有効かつ役にたちます。
1変数であれば、関数のグラフを接線で近似することに他ならず、同様の考えは何変数でも成り立ちます。
というよりも、一次式近似が成り立つということが微分できるということの意味に他なりません。
$n$ 変数の関数 $f(x_1,\dots,x_n)$ であれば、象徴的に \[ df = \frac{\partial f}{\partial x_1} dx_1 + \dots + \frac{\partial f}{\partial x_n} dx_n \] となります。
重積分の変数変換に、この一次微分の行列式が現れるのも偶然ではなく、一次近似の考えに由来します。

さらにまた、量子力学では、近似に由来するものかどうかは定かではありませんが、この一次結合の存在が広く量子物理的状態について成り立つと仮定すると、 現象をうまく説明できます。これは実に驚異的なことではありますが、それの本質的な意味は未だ明らかにはなっていないようです。
これについては、次回か最終回に少し触れるかも知れません。

1月21日

蝋梅も心なしか遠慮がちに伊吹おろしの大寒。一番寒いのは深夜ではなく夜明け前。そのかすかな明かりを手がかりに。

しばらく間が空きましたが、今日は去年の暮れにしたベクトル空間の続きとして、内積の不等式です。
これについては、すべきことが沢山あり、その詳しいことは線型代数の授業の方を見てもらうことにして、 ここでは内積のもつ幾何学的な側面を認識していただきます。
具体的には、内積があると、ベクトルの間の距離と「成す角」を直感に合致する形で定義することができます。
それに関連して、内積の不等式を復習します。既に線型代数の授業で取り上げられてあることを期待したいのですが、 教える先生によっては、内積に一切触れない人もいるようなので、その場合はささやかながら今回がその継ぎ当てということになります。
その内積の不等式ですが、コーシー・シュワルツの不等式と呼ぶのが一般的です。あえて人の名前を正面に出さなかったのは、 この基本的な不等式には様々な人達がかかわっていて、一人か二人では言い表せないためです。
これに関連して、コーシーの前にラグランジュの恒等式 (Lagrange identity)
\[(\sum a_i^2) (\sum_i b_i^2) - (\sum_i a_ib_i)^2 = \sum_{i<{j}} (a_ib_j -a_jb_i)^2\] というのがあり、これからコーシーの不等式が出てくる(不等式の元は等式にあり)のですが、 実にこれがグラスマン的世界における平行四辺形の面積の公式になっています。 \[(a|a)(b|b) - (a|b)^2 = (a\wedge b|a\wedge b)\] という形で。
ここで、右辺に現れる外積 $a\wedge b$ がグラスマン的な意味での面ベクトルであり、その大きさの自乗が $a$, $b$ の張る平行四辺形の面積 \[\| a\|^2 \|b\|^2 \sin^2\theta = (a|a)(b|b)(1-\cos^2\theta) = (a|a)(b|b) - (a|b)^2\] に一致します。
このグラスマン世界の等式は、(高次元の)ベクトルが複数ある場合にも拡張され、3つの場合であれば、 \[ \begin{vmatrix} (a|a) & (a|b) & (a|c)\\ (b|a) & (b|b) & (b|c)\\ (c|a) & (c|b) & (c|c) \end{vmatrix} = (a\wedge b\wedge c|a\wedge b\wedge c) \] のようになります。左辺は $a$, $b$, $c$ を稜とする平行6面体の体積の二乗を、右辺はその「体積ベクトル」の大きさの二乗を表わします。
後半は、統計データの近さを内積で測るといった内容で、とくに相関係数が2つのデータの「成す角」の $\cos$ とみなせます。
角が $0$ に近いときが正の(線型)相関、$\pi$ に近いときが負の(線型)相関ということになります。
ただし、$\pi/2$ に近いときは、直交するとは言わず、相関がない、ということが多いようですが、これは2つのデータが無関係であることは意味しないので、 注意が必要です。

お知らせです。成績の締切の関係で、4回目のレポートの締切が2月6日12:00と早まりました。
次回1月28日の授業は、再びリモートになる予定です。2月4日が質問と解説の時間ですが、その2日後がレポート4の締切という段取りです。
予め、計画的に備えておかれますよう。

1月28日

寒さ安定するも、好文は怠りなく前へ。

今日は内積の続きとして、フーリエ級数のさわりです。
フーリエ級数は三角級数とも呼ばれ、波(振動)の記述に欠かせないものですが、複素数形式のものをここでは利用します。 もともとこれは、数学的な「便利」だったのですが、量子力学を知った今となっては、複素数というものが単なる形式以上の意味をもつこともあり、 積極的に利用するとよいでしょう。
ここのカリキュラムだと2年前期の「複素関数」が該当しますが、それをフーリエ解析と結びつけて学ぶとよいでしょう。 そのフーリエ解析の授業があるのかどうかは知りませんが。
仮に授業がなくてもフーリエ解析の本は沢山出ているので、図書館で見繕い、合いそうなものを入手して参照します。 ネットにも色々ころがっています。手前味噌ながら、 フーリエ解析とヒルベルト空間 を挙げておきます。「ベクトルあれこれ」の最後にあるのは、これの最初の辺りからのダイジェストです。
まずは複素数を値に取る関数の一変数微積分の計算に慣れます。
次に周期関数の周期積分を計算してみます。周期関数なので、周期をカバーする区間であればどれを使っても同じ値になります。
周期は何でも良いのですが、ここでは簡単のために $2\pi$ としてあります。
周期関数は、抽象的な意味で(複素)ベクトル空間を形成します。その内、内積に関係するのは二乗可積分と呼ばれるものになります。
この二乗可積分関数の間の内積を周期積分をつかって定義します。その際に注意すべきは、片方の関数は複素共役にしたものを使用する点で、 これにより内積の正値性 $(f|f) \geq 0$ が保証されます。この点が実関数の場合と異なる重要な点となります。
あとは実ベクトル空間の場合と同じように、内積の不等式が \[ |(v|w)|^2 \leq (v|v) (w|w) \] の形で成り立ちます。左辺は複素数 $(v|w)$ の絶対値の二乗であることに注意します。
複素内積の場合は「成す角」という言い方はあまりしませんが、それでも内積が零になる場合は直交する、という言い方をします。
正規直交系とか正規直交基底がここでも有効です。 ただし、ベクトル空間が無限次元の場合には、正規直交基底の意味は代数的というよりは解析的な条件になります。
基本的な周期関数 $e^{int}$ ($n=0,\pm 1,\pm 2,\dots$) が互いに直交することに注目します。これがフーリエ級数を考える際の元となります。
この基本関数系が基底を形成するとは、すべての二乗可積分関数がその一次結合で近似できるということでもあり、解析的な議論が必要になります。 ここでは、フーリエがそうしたように、この事実を認めて先に進みます。
具体的な関数のフーリエ係数を計算してみます。 これを内積を分配法則で計算した等式を見比べると、他の方法では得られ難い公式がいろいろ見つかります。 この中にはバーゼル問題 (Basel problem) のオイラーによる解も含まれます。 バーゼルはスイスの都市の名前。かの地でこの問題が有名になったことに因む。
今回は少し盛りすぎだったかも知れません。ただ足元の地道な努力だけでなく、遠くに見える白い山の峰に思いを馳せることもまた、ということで、 ベクトルあれこれのゴールが見えて来ました。

来週は、質問と解説その4です。4回目(最終)のレポートに対応します。 ただ、レポートの締切は2月6日正午と短いのでご注意ください。
これまでと同様、事前質問を募ります。2月3日(木)の18時までにメールまたはメッセージでお寄せください。

2月4日

立春も峠はいまだ見えず梅の枝先

今回は事前質問がなかったので、当日のみの対応となります。
4回目レポートの範囲である、ベクトル空間と内積、以外でも構いません。

成績についてもう一度書いておきます。
合計3点✕4回=12点満点で、最終的に6点以上が合格です。
過去の成績については NUCT から確認できます。
欠席(取り消し相当)か否かの区別は、とくに申し出がない限り、レポートの提出回数が
2回以下---欠席
3回以上---評価 とします。

4回目の成績も開示しました。
熱心に書いてくれた人もそれなりにいましたが、「教養」の内容としては、それなりのレポートが多かったかと思います。
普通に、自分がわからなかったところを、わかったことととの対比で書いていただければ、それで中以上の成績になったのですが、 やはり書くことの経験不足が出た感があります。
こういう時世であるからして、これに限らず、なお一層意識してその方面の練習を続けられますよう。


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