線型代数2016授業日誌

指折り春を数える身の上なれど、後生の踏み台ほどにはと、また一年。

シラバス講義ノート を道の糧に、いざ。

ネット上の参考書など

  1. Chen 先生の 講義ノートは、基本の計算が丁寧。
  2. Beezer 先生の A First Course in Linear Algebra というのもある。これは、項目が飛び出す方式の電子教科書とでもいったもので、 面白い趣向なれど、初めて学ぶ人には印刷して使える形の方が便利であろう。
  3. 線型代数学演習Aの中に「要約」という名の教科書あり。項目の配列は数学者好みなれど、 具体的な計算の説明の丁寧さ故つまみ食いすると美味しいかも。
あふれるばかりの情報の中から、今、自分に必要とするものを探す、これも修行であるか。 探すばかりでは意味ないが。


直線と平面の幾何学(4/15)

北の風も心地よいくらいの太陽のまぶしさ、熊本の地震を思うてもなお。

今日は、朝から腰に電撃が走り、一瞬記憶が飛んで、這うような、なぞるような授業でした。
それはともかく、宿題の扱いをもう一度確認。
毎週の授業の中で、最低限の復習のための問題を1−2問指示するので、次の週の火曜12時までに、 レポートにまとめて教養事務室横のボックスに提出すると、それの点検結果が解答例とともに次回の授業時に返却される。 なお、これは、復習の手助けのために行うものであって、授業の成績には反映しない。

本日の内容は、空間の直線と平面の、(i) ベクトル表示(パラメータ表示)、(ii) 座標表示(方程式表示)でした。 その応用として、平面と点の間の距離の公式。 その後、3平面の位置と連立一次方程式の解の様子の関係の説明。

行列とその計算(4/22)

周期的にやってくる強い雨雲が過ぎて、山際を見上げれば藤の花。 巨大地震はやってくる、2日と間をおかずに。
被災地とか気になることは多々ありますが、皆さんが今すべきこれ。

今日は、行列とその計算でした。新しい言葉が次々と出てきましたが、 まあ、若さで乗り切っていただきます。具体的な稽古は、自分で問題をこしらえてできます。 行列の積と冪についてが一番のポイントでしょうか。クロネッカー記号というのもありますが。

来週は、はやくも1回めの試験。授業で触れた例、練習のための問、宿題のあたりをとくに復習しておいてください。

まとめと試験1(5/06)

連休も名残のみどりも定まり雨模様。

重要なお知らせです。5月20日の授業は、事情により休講です。以降、授業は当初予定よりも一回分遅れて進行し、 最後の対角化がなくなります。シラバスを修正しておきましたので、差し替えておいてください。

今日は、復習のあとに試験でした。

座標空間での平面と直線が(連立)一次方程式で表されるという事実は、きわめて重要です。 が、高校でもしない、大学でもしない、カリキュラムの隙間で闇に消えてしまうことが多々あるようで、憂慮しております。 ということで、当然のことながら、試験で取り上げました。
もうひとつの行列の計算は、おおむね機械的なところもあり、 多少の稽古さえ厭わなければ誰でもできるようになるはずです。 ただいくつか注意点・盲点というのもあって、陰に陽に「型を意識する」というのもその一つです。

復習のあとの試験1の結果については、 準備でき次第掲示します。

[試験の講評]
$\fbox{1}$ (i) で、平面の方程式、とだけ書くもの多数。これは、見出しにすぎず述べたことになりません。 (ii) は、やさしかったようです。 (iii) で、内積から角度を求められない人が多くいました。期末試験でもう一度問うべきかもしれません。
$\fbox{2}$ もやさしかったようで、何より。ただ、(ii) のヒントがないとどうだったでしょうか。

行列式とその計算(5/13)

おだやかな晴天に桑の実も色づきはじめ。

今日は、行列式の帰納的定義とその性質、具体的な計算方法についてでした。中間アンケートもしました。

来週は、やむを得ぬ事情により休講です。2週間間があきますので、行列式の計算をしっかり稽古しておいてください。 宿題の問17は、問題になっている行列式が恒等的に零にならないことを認めた上で解いてみてください。 あと、先週の試験結果を掲示しておきましたので、確認しておいてください。疑問点があれば、 メールでお尋ねください。

今日できなかった転置の説明は、次回の証明の前にでも。

行列式の特徴付けと応用(5/27)

夜半の雨もあがり、雲間からの日差し、蒸し暑くも桑の実塾し。

行列式に関する理論的なところをひとしきり。 行列式の特徴付け、数字の並べ換えを表す記号、並べ換えの符号、完全展開式。 特徴付けの応用として、行列式の幾何学的意味。

来週は、名大祭ということで講義はありませんが、A349で質問等に答える時間とします。 その次の週は、2回めの試験なので、それもお忘れなく。

学習相談(6/03)

緑あざやかに気温低め、北海道では6月の雪のニュース。

今回は、試験前の学習相談日ということで、質問者続出と思いきや、 開店休業状態。聞くまでもなくすべてわかったということであれば良いのですが、 多分違うだろうなあ。
少しずつ外がうるさくなってきました。またさくらんぼの季節を迎えつつ、今日はこの辺で。

まとめと試験2(6/10)

あじさいも若々しく、梅雨の中休み。桜桃もまた。

今日は、行列式の復習と試験2でした。

具体的な行列式の計算でよく行われる方法に、ある行(列)の定数倍を別の行(列)に加えるというのがあります。  これを仮に掃き出し計算とよんでおきます。 ということで、「(1,2)成分を1列で掃き出すと」、といった説明を答案では書き入れて欲しかったのですが、 なかなか。
n次元の体積などどうでも良いと思ってはいけません。 テーラー展開の積分表示とか、統計力学の分配関数とかを背後で支えています。 二次方程式なんか解けなくても生活に何の不自由もない、 とうそぶくような表面的なことしか見ない情けない人であってはいけません。

[試験の講評]
$\fbox{1}$ 単純計算なので答えが合っていないとアウトです。 帰納的な計算をひたすらくり返すという答案がかなりの数にのぼり、びっくり。 ある行(列)の定数倍を別の行(列)に加えるという掃き出し計算をしていた人は半数程度でしょうか。 次回以降が思いやられます。
$\fbox{2}$ (i) の説明の不十分なものが多すぎました。だめな説明の順に、「立体の体積」、「直方体の体積」、 「6面体の体積」などなど。そもそも、こういう one phrase は説明とはいいません。 体積の符号に言及する人は本当に少なかった。 説明することを軽視しすぎなので、説明主体の問題も今後出したいと思います。
(ii) 符号付き体積を無視した答案がほとんどでした。行列式の絶対値=平行6面体の体積すなわち、 行列式の値=$\pm$(平行6面体の体積) を正しく解いた人もごくわずか。詰めが甘いというか、大丈夫か、 Japanese technology。「あ、抜けてました」では、大惨事になりかねない、というか、そういう大惨事が日常茶飯事に なりつつあるような。そして日は沈み再び昇ることはなかった、となるのであろうか。

連立一次方程式(6/17)

今日も梅雨の晴れ間、暑くなりました。沖縄ではもうあけたのだとか、激暑の予感。
空からいつ何が降ってくるかわからぬ時代、
家のまわりだけきれいにしておけば、が通用しない時代、
同じ石に何度でもつまづく時代。

今日から後半戦、気分も新たに連立一次方程式です。
いわゆる消去法(加減法?)を系統立てたものが、掃き出し法です。 最初は、何だこんなものと思われるかも知れませんが(実際、昔、そう思いました)、これが強力極まりなく、 行列代数の多くの結果がこれから導かれます。できるだけ多くの具体例で経験を積んでください。 頭だけでわかった気になってはいけません。
キーワードは、行基本操作、階段行列、階数、解のパラメータ表示、一次結合。宿題もどうぞ。
具体的な手順に不安があったら、例えば このビデオでも見てください。

試験の点数について質問がありましたので、ここに書いておきます。(どうも授業で説明するのを忘れていたようです。)
各大問ごとに2点満点で、基本は、all or nothing すなわち、2点または0点。 そうは言っても、迷う場合もあるわけで、その場合は1点となります。
そうすると、2点といってもほぼ正解から完璧な答案まで幅をもつことになります。 2点の答案のうち、とくに良く書けているものには、1点追加して3点がついています。
最終成績は、この追加点がある場合はそれも含めて合計12点以上が合格です。
また、以上のような事情から、2点の多い人は、それだけ成績のかさ上げが行われているため、 合格者の成績区分(S,A,B,C)においては、追加点の存在も加味して判定することになります。 ご注意ください。

掃き出し定理(6/24)

ふれば土砂降り、天の声、怒りにも似て。

今日は、掃き出し定理と称して、解空間の基底についてあれこれ。 最後に、連立一次方程式の解法、その一般形について、多少の駆け足。 稽古して欲しいなあ、必要な人ほどしないという不条理。

来週は、3回めの試験、運も思いの外の定めのごとく。

まとめと試験3(7/01)

ひとしきりの雨のあとの蒸すような暑さ。幸いエアコンの効き目もさすがに7月。 アガパンサスの花も盛りの。

今日は、例の如くわざとらしい復習のあとに試験3でした。

日本人は英語は読めても話せない、という定形文が幻想であるように、計算はできても証明はできない、 ことも幻になりつつあるような。「考える力」の前に、計算をきっちりこなすべきかと思う。 計算ドリル大嫌いの私が言うようになっては、世も末というべきか。 今度は、ダッカであるか。何とも。

[試験の講評]
計算問題なので概ねできていたように思います。 ただ、基底の意味を理解していないと思われる人もちらほらというか結構な数というべきか。 基底という以上、一次独立なベクトルを次元の数だけ並べる、必要があります。 それで、「一組の基底」という言い方をするのですが、それを「一つの解ベクトル」と誤解する人が必ず現れるもので、 今回もそうだったということです。設問を、「解空間の次元と一組の基底を求めよ」とすればよかったと、 これは私の反省。
あと、計算のみで説明のまったくない答案もあって、これは当然ながら減点となります。

暑くなりました。ニュースでは最高気温が話題になりますが、私には最低気温がはるかに気になります。 羽振りのよい人たちよりは、つましい人たちの状況が。 新しい考え方が必要なのですが、人はもっとささやかな存在でよいような。

逆行列と基底(7/08)

昨日までの梅雨明けを思わせる炎天が一転、南の風、風力3、はるか南西の台風もふいごの如く。

線型代数は、意外と焦点の定まらないところがあるのですが、今日の「行列代数の基本定理」が、 前々回の「掃き出し定理」と相まって、一つの山場でしょうか。キーワードは、逆行列。

高校で行列をやっていたころは、$2\times 2$ 行列の逆行列は、公式のように覚えていたようである。 これは、仮に覚えるにしてもゆるーく覚えるべきで(細かく覚えるとすぐ忘れる)、 対角成分に行列式が現れるような文字の配置ていどに留めておいて、 \[ A = \begin{pmatrix} a & b\\ c & d \end{pmatrix} \] の逆行列であれば \[ \begin{pmatrix} d & b\\ c & a \end{pmatrix} \] の符号を調整した \[ \begin{pmatrix} d & -b\\ -c & a \end{pmatrix} \] と $A$ の積を目算すれば、求めるものであることがわかる。 逆行列は、これを行列式の値 $ad-bc$ で割っておくだけ。

ついでに書いておきます。逆行列を行列式を使って表す公式があって、普通、これが大きく取り上げられるのですが、 これを使わなければならない場面は、まずありません。実用性もありませんし、 有名だけど覚えなくても困らない公式ベストスリーに入りそうなのですが、何故かこれを強調する本というか教員というか、 その多さよ。
逆行列の計算を掃き出し方で求める暇があったら、掃き出し方と解空間の表示、それに伴う基底の構成方法を 稽古すべき。ぶつぶつ。

行列の対角化(7/15)

近年は梅雨もまた荒っぽく暴力的に。 前線は南に、雲は大目ながら晴れ。そろそろ百日紅の花もちらほらと自然は怠りなく。

行列の対角化、固有値と固有ベクトルの入り口を一通り。 伝統に則って、固有多項式を強調しておいたが、 ここは、固有値パラメータつきの掃き出し法で処理するのもありか。
例として、伝言ゲームの確率を取り上げました。是非復習しておいてください。

多項式が出たので、毎度のことながら。 高校数学独特の用語といってよいであろう「整式」という言い方はいい加減やめて欲しい。 お上の指導要領なるものに従うと、冪零行列の固有多項式は、多項式といってはならず、固有整式ということになるが、 そんな言い方をする人は誰もいない。そもそも単項式を多項式に含めず、整式=単項式または多項式、としてしまうと、 零は整式なりや否やという齟齬が生じる。そのような馬鹿げた区別をする必要はまったくなく、 多項式とは単項式の一次結合なりと言えば済む話であるが、一向に改まる気配なし。ぶつぶつ。

まとめと演習(7/22)

気がつけば、もう夏。しかし何か変だよ今年の夏。じんわり暑い。

復讐もとい復習という名の試験対策でした。うまく伝わるといいのですが、露骨にいうわけにもいかず、 それで大抵の場合は、何いってんだろうこのじいさんは、で終わるのでしょう。 贅沢は言わぬ、その一人か二人さえいれば、とこれはこちらの片思い。

まあ、成るようになるというか、成るようにしかならぬというか。 恒例の授業アンケートもしました。問題は、演説教室であったか。
ありふれた非日常の中で、さて、何ができるか。否、何ができぬか。偽善を憎む心もまた偽善であると、 風太郎はいう。まあ、大した違いは無いはずだ、向こう側から見たら。

試験4(7/29)

夏のような、しかし何かが足りないような、暑いような、しかし何か違うような。 それでもやはり夏であるか。こんな時期まで、授業をするとは愚かなこと。ましてや試験などとは。 だれもおかしいとは思わぬのであろうか。皆、モンスターに夢中で。

今日は試験4でした。

[試験の講評]
$\fbox{1}$ あいかわらず、説明の不足している答案が大部分でした。 どうして手間を惜しむのでしょうか。 ほとんどが、「平行六面体の符号つき体積」としか書いてません。 3次の行列式を構成するベクトルと平行六面体の関係は? 符号の選び方は?、といったことを書いているひとは残念ながらいませんでした。 授業アンケートの声は幻なりや。 問題を作る部分も、問題文の体裁になっていないものが多く、課題を残しました。 もっと自由な発想の問題を期待していたのですが。
$\fbox{2}$ 次元の設定と基底を求める問題は、比較的よくできていましたが、 相変わらず基底が何なのか理解していないものもちらほら。
$\fbox{3}$ 意外だったの逆行列の行列式による特徴付け。 積の行列式が積でかけることを忘れているのか、正直に行列の積を計算してそれの行列式をまた計算して、 というのが、これまた多すぎました。まあ、そう計算してもこなせる程度ではありましたが、 その行列式の計算を間違える人もまた多く。サービス問題のつもりが、さにあらず。
$\fbox{4}$ これは、先週の復習でしつこく取り上げたので、もはや楽勝かと思いきや、 固有ベクトルの計算ができない人がこれまた多く、びっくり。 $p_n$ を求めるところは、一次式型漸化式を解く人が大多数で、固有ベクトルの一次結合を試みる人もまれというか 絶無というか。やはり、3次くらでないと有り難みが少ないことを実感。 $1-f-t < 1$ は良いとしても、$1-f-t = -1$ となる場合に言及している人は、なんと一人か二人。 後期の課題としておきます。

最終成績がいつもの場所に掲示してあります。合否の基準は、公表通りです。 疑問がある場合は、メールでお問い合わせください。 ただ、しばらく不在になる関係で、対応はお盆明けごろになります。
今回で結果を出せなかった人も再試験を受けられる可能性がありますので、 あきらめずに勉強を続けてください。引き続き、オフィスアワー等で相談に応じます。

それでは、皆様、はかなき夢を夏の月とともに。

暑さの極点におろおろと夏過ぎぬ。 成績の統計データ:S(8人)、A(39人)、B(11人)、C(27人)、F(3人)のふたこぶ。何でだろう。


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