線型代数2016授業日誌

今夏も異常が常態化の台風と9月の梅雨空。それもようやくここにきて。 秋の進度予定表改訂版講義ノートを道の糧に、また一歩。

ネット上の参考書など

  1. Chen 先生の 講義ノートは、基本の計算も説明も丁寧。
  2. 線型代数学演習Aの中に「要約」という名の教科書あり。項目の配列は数学者好みなれど、 説明の丁寧さ故つまみ食いすると美味しいかも。
授業の説明が合わないようであれば、この2つの該当箇所を当たるとよい。 大抵の隙間は自分で考えた方が早いはずであるが。 それでもわからない場合は、オフィスアワー(水曜12:30−13:30、理A349)などで個別相談。

学生が自ら考える機会を奪ってはいけないそうで、これに自ら書くあるいは計算する機会も追加して、 今学期の戒めとしたい。書き過ぎぬよう(これは今まで通りでよかろう)、しゃべり過ぎぬよう。


10月6日

快晴の空にもかかわらず湿度の高さよ。 やはり、異常というべきか。 日本の四季というもの、死語になりつつあるような。 暑いか寒いかのいずれか。二季というべき。

本日のメニューは、
部分空間、基底、次元、次元公式
でした。

宿題のルールを確認しておきます。
締切は、次の週の月曜12時。月曜が祝日の場合は火曜12:00。
日頃の勉強のきっかけにするためのもので、提出の有無は成績に関係しません。
今日の宿題は、問44と46と47。

掃き出し法の復習のつもりだったのだが、どうか。 active learning だってさ。flip teaching っていうのもある。 勝手に勉強してね、質問には答えてあげるから。それで、効果があれば世話はないか。 放置しても良いことと放置してはだめなことの区別がつかぬ愚かさよ。

10月27日の授業時までに、 集合入門 などで集合と写像の復習をしておいてください。

10月13日

秋の空気に救われつつも相変わらずの湿気かな。 今日は、十三夜の月見も愛でる心のありよう。

本日のメニュー:
ベクトル空間、部分空間、ベクトルの張り出し、基底、次元
例として、漸化式の作る部分空間を挙げるつもりが、余裕を見て、来週の復習に回すさじ加減。

来週は早くも1回めの試験。2題/45分。例題+宿題、と言っておこう。 これでも無視するものは、度し難し。

10月20日

北からは早や初雪のたよりなれど、蒸すように晴れ上がる異常さよ。

復習など:
階段行列から得られる情報として、像の基底の求め方など。
数列空間の部分空間として、漸化式の解空間について補足。

1回目の試験をしました。

[試験の講評]
$\fbox{1}$ (i) 階段行列を求められない人が多数いました。 極めて基本的な計算なので、途中までの部分評価はありません。
(ii) (i) ができても、階段行列の列ベクトルを並べるもの、$\hbox{ker} A$ の基底を求めるものがほとんどでした。
$\fbox{2}$ 数列と数列に含まれる項(これは単なる数)の区別がつかない人が多すぎました。
$x_0$ と $x_1$ の一次結合で表せるとか、$x_n \in V$ であるとか書いてはいけません。 これらは数列の成分を取り出したもので、数(スカラー)です。ベクトルではありません。 この場合のベクトルが数列を意味することに無頓着すぎました。
すべて、宿題に含まれていた内容です。 宿題を出す出さないは自由ですが、それは、宿題を無視して良いことを意味しません。
ということで、かなり悲惨な結果となりました。期末試験で再度問うことにしますが、 次回以降も繰り返し出てきますので、これを機会に復習に努められますよう。

10月27日

相変わらず高めの気温なれど、雨上がりの光の眩しさ。

本日のメニュー:
線型写像、次元定理、多重化ベクトル空間と行列の作用、多重ベクトルと線型写像、基底と同型写像
数の代わりにベクトルを横に並べる。括弧とかコンマの扱いは、数を並べた時と同じ。 これに対して、行列を右から線型写像を左から掛けることができる。 これから、線型写像についてのほとんどすべての結果が形式的な計算で導かれる。
形式がどうして馬鹿にできないことが次回以降で示されます。 今日も時間の都合で、線型写像と基底により行列表示する話は割愛。

宿題についての問い合わせがありましたので、 改めて書いておきます。
次の週の月曜12:00までに、教養事務室横のレポートボックスに入れておくと、 TAの人が点検し、解答例を添えて、次回に返却。
ただし、宿題を提出してもしなくても成績には一切関係しない。

1回めの試験結果を掲示しておきました。平均点は 1.2 (4点満点)。

参考書の追加です。 高木先生の講義録 は、この授業との要所要所での親和性が高そうなので、復習・演習にどうぞ。

(追記) 集合と写像についての基礎がおろそかな人が多いような気がして参りました。 うろ覚えのところは、ぜひ教科書等で復習してみてください。
受験勉強というのは、レールの上を走らされているようなところがあります。 走る距離はそれなりにあっても、お膳立てにしたがった手順をこなすといったような。
一方、今学んでいることは、それからすると、かなりとらえどころのない作業を伴うものと言えるでしょうか。 不足しているところ、忘れているところは、必要に応じて必要な範囲で自ら補う必要があります。 まずは、そういったことの自覚がとても大切です。
わかりませんでした、できませんでした、と言うだけでは自ら歩んでいることにならないのです。 他の本に当たる(先人の知恵にすがる)、知っていそうな人に尋ねる、紙に書いてみる、 あらゆる手段に訴えて、自身の中の「分かった範囲」を広げていくよりしようがありません。
そうして、これが肝心なところですが、そういったことを他の誰かの指示でするのではなく、 自らの意思で行う。大学で学ぶというのは、本来そういうことです。 私の役どころは、そのための道案内です。 案内が不鮮明なところは、陰でぼやかず、どうぞ遠慮なくお尋ねください。

11月10日

異常な高湿度状態もここに来てようやく解消したような、野菜の値段の恨めしさ。 弱い前線の通過のたびに冬への階段をまたひとつ前へ。
残照の空にあづけし柿ひとつ
今秋の収穫は、これに尽きるか。チキン野郎にはひとつまみの塩。

本日のメニュー:
線型作用素、行列表示、べき級数空間、微分作用素と解空間
でした。

線型作用素の多項式とその因数分解については、最初は胡散臭く思われるかも知れませんが、 例えば二次式の場合とかで実際に計算してみれば至極まっとうなものであることが実感できるはずです。 是非、復習されますよう。
なお、授業の際にも漏らしたかと思いますが、後期の授業内容について来れてない人もいるかと思います。 是非、授業の後あるいはオフィスアワーなどを利用して、個別にご相談されますよう。

11月17日

今日は穏やかな一日だったと言ってよいでしょうか。特段のニュースのない、嵐の前の予感。

重要な訂正:命題12.11の条件は、$EV$ および $(I-E)V = \ker E$ がどちらも不変部分空間、としてください。 うっかりしてました。元のままだと成り立たない例はすぐに作れます。

本日のメニュー:不変部分空間、射影と直和分解、確率行列のべきの漸近挙動
でした。 中間アンケートも実施しました。この3回ほどが、一番のきついところかと思います。 目玉でもあります。苦労なくして何の楽しみか。

来週は、2回目の試験です。 過去3回の授業で取り上げたところが試験範囲です。

11月24日

朝方の寒気も抜けて落ち着いた午後なれど、東方の雪雲の行方もまた。

本日は、まとめ+xの後に、 2回めの試験

[試験の講評] $\fbox{1}$ (i) は基底の定義を確認するだけですが、試験直前に復習した2つの条件、 一次独立であること、一次結合が全体になること、の片方しか書かない人が多すぎました。 (ii) についても、宿題を全く復習していなかったと思われる人が沢山いました。
$\fbox{2}$ は、微分作用素という言葉の意味が全くわからない人が目に付きました。 あと、$I$ が恒等作用素を表すという決まりを忘れている人もそれなりにいたようです。 (単位行列を表す際にも $I$ という記号を使っていたことも思い出してください。) 試験直前の復習でも出てきたのですが、質問して確認することすら忘れてしまったのでしょうか。 あと、答案をみていて気がついたのですが、2回微分してゼロになる関数がどういうものか知らない人がいるらしいこと。 微分してゼロになる関数は、定数(関数)。では、微分して定数になる関数は?というだけのことなのですが。 ということで、この微分作用素の扱い、期末試験で再度問うことになりそうです。

12月1日

通過中の前線による高めの気温と曇り空。 山の方面ではこの時期とは思えぬ雪崩の事故も。

本日のメニュー:
内積空間、内積の不等式、正規直交基底
でした。内積の不等式の前にオイラーの公式も少々。 証明は二次式でしましたが、正射影を使う方が良かったかも。

これまでも何度となく繰り返し説いてきたところですが、 基本は皆さん自身が document を読んで、その本質的なところをすくい取り、身につける、講義はその補助に徹する、 を目指してきたのですが、説く相手を過大に評価していたようです。
これは、数学的な能力云々よりも学ぶ姿勢の問題ではあるのですが、 それを正すには時間がかかるということなのでしょう。 ということで、

年末特別課題:この問題セット (第1・2回の試験問題の類題)の中から最大2題選び、 その解答を、試験の時と比べて何をどれだけ復習し向上させたかについての自己分析も含めて、A4レポートにまとめ、 12月22日の授業時に提出してください。
良いレポート(解答が完璧でも自己分析が不十分なものは対象外です)については、 対応する試験問題の成績を上書きすることにします。

12月8日

今日は程よい寒さの御嶽晴れ。75年目に思いをはせるべきは他にもあろうに、劣化は至るところに。

本日のメニュー
射影公式、直交分解、ついでにグラム・シュミットの直交化
難しげに見えても、すべてはピタゴラスの定理の投影でした。 あと、ベクトルの大きさを表す記号をノルムの記号に変更しておきました。

来週は3回めの試験です。授業で説明した内容+宿題の中の試験にでそうな部分を中心に準備しておくと良いでしょう。

12月15日

最低気温2度でしたが、風も穏やかに御岳日和。今年の月めくりもあと一枚、死出への一里塚。

今日は、復習の後に、 3回めの試験。 復習では Laguerre polynomial を、試験では Legendre polynomial を取り上げました。 これとテキストの問で触れた Hermite polynomial が直交多項式の御三家で、応用上出会う可能性が高いものです。 いずれにせよ、関数もまたベクトル、という見方を是非とも身につけて頂きたかったのですが、 真珠でしょうか、はたまた小判であったのかも知れません。

[試験の講評] $\fbox{1}$ 直前の復習が効きすぎたか、計算だけの答案が多すぎました。 あと、$(f|f)$ と $\| f\|$ を混同している人、$\| f\|$ を $|f(t)|$ だと思い込んでいる人も 少ないながらちらほら。この程度の積分計算を間違えるはずもないのに、間違える人もまたちらほら。 また、$\| g_0\| = 1$ と即断する人がかなりいました。とても危険なことです。 思い込みで機械の制御ができなくなったり、場合によっては人の命にまで及ぶます、本当に。
$\fbox{2}$ こちらも、直前の復習のおかげというか、簡単でしたね、さすがに。 それでも、間違える人もいるもので、もったいない。なお、検算については、自分の確認用として行えばよく、 答案に書く必要はありません。まあ、書いてあっても悪くはありませんが。

12月22日

生温かい師走とも思えぬ雨の中、今日も手探りの一日。

本日のメニュー:
エルミート共役、エルミート行列、ユニタリー行列、ついでにその一般化
でした。定義と例だけの一日もまた、よきかな。

1月10日(火)の補講日は、10:30からC15教室にて。

特別課題の回収率の高さよ。普段の宿題もせめてこの半分でも。
小賢しい人、うまく立ち回っているように見える人、後には何も残らないんだなあ、これが。
泥臭くもあがきにあがく人こそともに語るに足ると知るべし。

1月10日

この時期としては高めの気温、御嶽山の雪も春めいて見えるも、明日からはまた。

本日のメニュー:
対称行列と二次形式の標準形
でした。今日は、補講日ということもあり、出席者7名でしめやかに。

すべてテキストを読めばしまいの内容ではありますが、読まないというか読めないのかも知れません。 ということもあって、2変数=2次行列限定で。それでも、回転の行列とか、正規直交基底やら、 固有値と固有ベクトル、オールスターの賑わい。

1月12日

日中の時雨模様も去り、冬晴れの夕暮れ、北の方からは吹雪のたよりなれど。

本日のメニュー:
対称行列のユニタリー行列による対角化
でした。実質的に最後の講義、正規行列の対角化のつもりが、この矮小化。 本末転倒とO君に怒られそうではあるが、まあ、相手次第ということで。

2週に亘って休講となります。オフィスアワーもお休みです。ご注意ください。 休みの間は、復習と期末試験の準備に充てられますよう。

2月2日

まだまだ寒い日がやってきますが、日は確実に長くなっていて、春の予感。 好文は花ではないよ、闇夜にただよう匂い。
という以前の記録が懐かしくも蘇ります。先は見えなくとも、せめて心だけでも。

本日のメニュー:
次回の最終試験の範囲のまとめと復習をしました。
前半は、数列空間と漸化式、微分作用素と微分方程式の線型代数的背景を、 不変部分空間および固有ベクトルと関連付けて、 後半は、エルミート行列の性質とユニタリ 行列による対角化
でした。

3週ほど間があきましたが、寒空の下、Arthur Cayley さんの墓参りをして来たのでした。 カーンと響くような乾いた土地に仄かな草の匂い。

もう混乱もなかろうということで、講義ノートを更新しておきました。

2月9日

南岸低気圧に伴う雨。寒さは極大のようなれど、紅梅に続く白梅のういういしさ。

最終試験をしました。 あいかわらず、数列空間と微分作用素の出来の悪さよ。
数列もベクトルなり、という簡単なことを理解した人($\fbox{1}$ の問題ができた人)は、 1/3もいなかったような。固有ベクトルと固有値の違いすらわかっていない人も目につきました。 結果として、合格点に達しなかった人は10名ほどでしょうか。再試験の可能性がありますので、 引き続き精進してください。
成績の統計データ:S(13), A(28), B(21), C(18), F(10)

計算はしても(できても)、何を計算しているかの意味がわかっていないというのは、繰り返しになりますが、 とても危険なことです。人の命にまで影響を及ぼす恐れすらあります。
どうか、福島を忘れずに。


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