解析学俗論2017授業日誌

関数解析は、線型代数とともに飯の種であるし、気に入ってもいるのだが、 これを授業としてどう取り上げるべきかは、毎回悩むところ。 その基礎部分は良く整備されていることもあり、書いたものを読めば終いなはずのものなので、 板書するのは鬱陶しいし効率的でもないのだが、 一方で、読み解くことが苦手というかできない、あるいはしない人が多くなっているという。
ということで、friendly な授業が歓迎されることになるのであるが、そういうことをいつまでも続けていて、 果たして世界で伍していけるのかというのは、余計な心配であろうか。 日は沈み、再び昇ることはなかった、という時代が来るのであろうか。その前に死にゆく身としては、 どうでもよいことではあるが、されど、しかし。

前置きが長くなったが、今回は「半転授業」を試みることにする。 どういうことかと言うと、鍵となる概念と結果の証明は自主学習に委ね、 授業では、事前学習の際の疑問点、背景の部分、概念相互のつながり、結果の意義と使い方のコツとか、 いわゆる教科書的でない部分を中心に、質疑応答も交えて自主学習部分を補強していく、ということである。

必要に応じて必要なことは、自分で何とかする、あるいは何とかできるようになってもらいたい、 関数解析を題材に、そういったことを目論んでいる。 もちろん、これは相手があって成り立つことなので成算は不明なれど、失敗もまた一興と嘯いてみる。

授業は、テキストである 関数解析入門2017 の三分の二程を、 進度予定表に沿って行う。なお、6月6日は、金曜の補講日とかで、休講の可能性がある。 これは、ニセのquater制のせいであるという。日の沈みゆくスピードに拍車をかける行為と気づかぬ輩の傲慢さよ。


完備距離空間など(4/11)

今日は、初回ということもあり、特別仕立てでした。 思いつくままにというところもありましたが、 最後の方で説明したバナッハの不動点定理、これが本命でした。 その応用は色々あるのですが、とりあえず、Cauchy 列と完備性が不動点の存在にどう係るかを 復習してみてください。
途中のアンケートは、その場で、線型汎関数とベッセル不等式については説明を加えましたが、 完備化とルベーグの収束定理については、その内触れたいと思います。

半転授業とは怪しげな物言いですが、案外、そのうち誰かが真面目に言い出したりして。

今日の出席者は30人ちょっとでしょうか。これ以上増えることはないでしょうから、 楽な気持ちで質問をどうぞ。質問するためには、復習と予習が一番の薬かな。

バナッハ空間(4/18)

今日は、連続関数の作るベクトル空間に、一様収束のノルムを導入して、 完備ノルム空間=バナッハ空間の導入としました。
ついで、距離空間をこれに等長に埋め込むことで、完備化の構成としました。 完備化については、一意性が成り立つので、一つ作ってみせたということでもあります。

バナッハ空間 $C_b(X)$ に関連して、いつ $C(X) = C_b(X)$ となるかという問を発しました。
$X$ がコンパクトであることが十分条件であることは簡単にわかりますが、その逆はどうかという問です。
$X$ にある種の分離性(連続関数が位相を定める)場合には逆も正しいのですが、 一般の場合は反例を作ることになります。
M1の丸山君が早速作ってくれたので、紹介しておきましょう。
これは、多様体でハウスドルフ性をみたさないものを作るときのアイデアを利用するもので、 直和位相空間 $[0,1]\times \{1,2,3,\cdots\}$ で $(0,1]\times \{ k\}$ の部分を $(0,1]$ と同一視して得られる 商位相空間 $X$ を考えると、 $X$ はコンパクトでない一方で、 $C(X) = C_b(X) \cong C[0,1]$ となります。

ルベーグ空間(4/25)

演習出席者は10人程度でしょうか。 提出いただいたレポートは、大きな欠点があれば返して復習を促したいと思ってますが、 それ以外は「成績の資料」として、手元においておきますので悪しからず。

数列の場合と関数の場合に分けて、F.Riesz の導入した(らしい)ルベーグ空間について一しきり。
上手にやれば30分の内容を、延ばしに延ばして90分。
数学といえども、人がすることなので、Lebesgue-Riesz-Banach の流れなど、歴史的なところも少々。
2次元の単位球の絵を書いて何の役にたつのか、という質問を受けました。
この段階では、ノルムの違いを視覚的に認識するだけですが、少なくとも、両極端である、 $p=1$, $p=\infty$ の特殊性は感じてもらえるかと思ってのものです。
ついでに、$0 < p < 1$ は考えないのか、という質問もあり得るところですが、 この場合は、ノルムの不等式(三角不等式)を満たさないことが、視覚的に見て取れます。

ルベーグ空間の完備性の証明のポイントは、関数列を、階差の和(微分して積分)の形に書いて見るところ。
微分よりも積分、sequence よりは series といったところ。
この series の訳語がないのだなあ。 級数と言っているが、関数とかベクトルの場合に、関数級数もベクトル級数も変。
和語だと並びと結びなので、ベクトル並び、ベクトル結び、ということになるか。

講義ノートのタイポも指摘していただきました。直したものに差し替えておきます。 Web教材は便利。携帯の画面でも読めるものなのか、解像度の高さよ。

ゆるーい講義なので、合わぬ人には合わぬのだろうなあ。

たたみ込み(5/2)

5月の連休の合間の授業。出席者が少ない分、減り方もまた少ないような。

今日も、復習なんだか準備なんだかよく分からない話がひとしきり続きました。
ノルム空間の完備化との関連で、dense linear subspace について $\ell^p$ がらみで説明。
これを $L^p$ に変えて、$C_c(\Omega)$ が $L^p(\Omega)$ で dense であるという基本的な事実がありますが、 これがルベーグ積分と関数解析の狭間に埋もれてしまうという、カリキュラム上の悩ましさ。
この近似する性質とも関連する「たたみ込み」とその性質を最後に挙げたところで時間。 このたたみ込みの方法は、簡単かつ強力なものなので、是非復習を。

次回は、いつも通りの演習の跡に、1回目の試験です。

試験1(5/9)

軽く復習の後で 試験1をしました。

今週は講義がなかったので、来週の演習の時間は、今日の試験結果の講評を行う予定です。修士の方もどうぞ。

近似デルタ関数(5/16)

前回のたたみ込みを受けて、今日は近似デルタ関数でした。 近似単位元とも言います。応用として、Weierstrass の多項式近似定理を取り上げ、 その具体例として、フーリエ級数論における近似定理を再現しました。

6月6日は、金曜の授業が入っているということで、次のように変更します。
6月6日は演習・講義ともにありません。
6月13日の演習は、5月30日講義分を対象に行い、2回分レポートを出していただきます。事前の準備を。
6月13日の講義は、6月6日予定分を繰り下げて行い、ラドン測度の内容は取り下げます。
したがって、6月20日の試験は、3回分がその範囲となります。

教育実習等で出られない演習については、事前申告の上、後でまとめて出してください。

ヒルベルト空間(5/30)

今日の講義は、ほとんどがお話でしたが、convolution (移動平均) が こんなところにも使われていたようで、簡単なことを徹底的にすることがいかに大事か、 そして、それが誰にでもできることではないのかの alphago かな。
取り上げた話題を思いつくままに並べると、Hilbert space の出どころ、 sqsquilinearity についての左右の整合性、rank-one operator の表し方、直交基底、射影定理と射影の表示公式、 といったところ。
もう一つ、Jacobi matrix というのもあったのですが、これは機会があればまた。

線型汎関数(6/13)

今日も今日とて、ゆるーく線型汎関数である。かの Dixmier 先生も宣うておる。 双対性とスペクトルが関数解析の肝であると。 その双対性に直接係る線型汎関数かな。 流行り廃りは世の習いなれど、両方に連なる要こそ次の踏み石ともなるべく。

来週はいよいよ2回目の試験です。 1回目と似たような雰囲気であるか。

試験2(6/20)

梅雨前線が南から近づきつつ、蒸し暑さもまた。

例によってわざとらしい復習のあと、 2回目の試験をしました。

試験の講評は、次回の演習時に。

ハーン・バナッハの定理(6/27)

曇り空なれど蒸す暑さ。

今日は、双対性とからめて埋込み $V \subset V^{**}$ について触れ、 それが実際に埋め込みであることを保証する Hahn-Banach の定理の証明をほぼ丸ごと説明しました。
seminorm と convex set の関係を省いたため、Hahn-Banach の幾何学版も省略しましたが、 やはり説明すべきだったかと反省。
ノルム版のあとに、convex set と seminorm の話を入れ、凸集合版で終えるという構成が良かったような。 そのうち修正しよう。

有界線型作用素(7/4)

また梅雨の台風であるか。

有界作用素について簡単に触れたあと、 convolution を移動作用素の積分平均として説明するのを忘れてしまったよ。まあ、なくても困らぬか。

ついで、Baire の定理を Bolzano のしぼり出し論法と比較して。 この二つ、並べてみるとよく似ていると思いませんか。名づけてしぼり出し。一度聞いたら忘れない、かな。

一様有界性定理(7/11)

最後の山とでもいうべき、有界性定理をひとしきり。
具体例がなかったのが心残りですが、多少の使い方も説明しました。
完備なノルムはすべて同値になります。有限次元ではすべてのノルムが同値になりますが、 無限次元でも完備なノルムに限定すると同じようなことが起こるということ。不思議ですねえ。

授業アンケートもしました。

学期が全体的に2週間ほど前倒しにできないものか。秋入学とか、 四分の一学期制とかよりもよっぽど現実的なはずですが、思う人も稀な、 考える力が聞いて呆れます。
私は偉そうな人が嫌いです。それがどんなに偉い人であっても。ましてや、・・・。

ヒルベルト空間上の線型作用素(7/18)

有界作用素のスペクトルとエルミート共役を中心に徒然なるままに。 線型代数の formalism についても触れましたが、仄めかす程度の土用のうなぎかな。

いろいろ事情はあるでしょうが、数学の場合、実験装置とか必要ないわけで、 暑くなったら高原とかの涼しいところに避難して、おれこれ思いを巡らしたいもの。 我慢してのお付き合いはほどほどにしたいもの。 それができれば苦労はないのだが、しかし、昔はそれが自然にできていたような。 正論を振りかざす人々の胡散臭さよ。

ということで、来週は試験です。形式は過去2回分と同じ。

試験3(7/25)

今日は、予定通り 3回目の試験 で、これにて授業は終了です。成績を教室横の掲示板に出しておきましたので、ご確認ください。 疑問点がある場合は、7月31日までにご連絡を。


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