解析学論2012

関数解析の入門的な内容を半期間学びます。2コマ続きの授業なので、半分は演習に当て、ゆったりとやります。 関数解析の知識そのものよりも、その手法と考え方を重視し、重要項目も大胆に選別して行います。 抽象的な内容も多いのですが、大部分は証明も含めてやさしいものです。 そういったところは、数ある本の該当箇所を必要に応じて読めば良いでしょう。
授業としては、教科書的に整頓されないようなもろもろの綾といいますか背景といいますか 横のつながりについての解説を心がけたいと思います。結果として、本を読めば終いのところは、自主学習に委ねることになるかも 知れません。繰り返しになりますが、証明も含めた知識ではなく「心」の部分を伝えたいと願っております。
「古人の跡を求めず、古人の求めたるところを求めよ。」です。

参考資料について少し書いておきましょう。 まず、この授業の講義ノート 関数解析2012 進度予定表です。 講義ノートは、大分肥大化してしまいましたが、この中からあちらこちら半分ほどを授業で扱います。
講義ノートでも本は挙げてありますが、ウェッブ上にも沢山見つかります。 どれでも、気に入ったものを辞書替わりに使っていただければそれで良いのですが、 内容と説明のバランスに優れたものとして次を挙げておきます。
Topics in Real and Functional Analysis by Gerald Teschl.
もうひとつ、昔世話になった本が公開されていました、なつかしい。 これは、最初に読むべきものではないかも知れませんが、余計な部分を削って単刀直入を目指したらどうなるか、 とても印象深いものです。
An Introduction to Abstract Harmonic Analysis by Lynn H. Loomis.


完備距離空間(4/19)

今日は、距離空間の復習から始まって、バナッハの不動点定理とその応用でした。 簡単かつ力強い定理です。各種存在定理の証明で威力を発揮します。 その不動点定理の「証明」は、二重の意味で幾何的に説明しました。 理由がわかれば、それを形式的な証明に焼き直すのは簡単だと思いたいのですが、 書いてみてください。(これを演習問題にすべきでしたか。) 演習では、正則関数の逆関数の存在を扱いましたが、同じ証明が、 可微分写像の逆写像定理にも使えます。逆写像定理はまた、陰関数定理と同等なので、 ここで初めて微積分の基本定理の一つが完成したことになります。

前半(講義)の最後に、予備知識確認のためのアンケートを行いました。 概ね予想通りでしたが、集合・位相の基礎知識が足りないと思われる方も何人かいました。 個別にご相談いただけたらと思っております。 本音が透けて見える回答も結構ありました。試験そのものは、昨年のものを見てもわかるように、 易しいものなので、そのように対応されて結構です。実質的な意味において、バトンを次の走者に渡すだけです。 うまく受け取ってくれる人がいれば良いのですが。そうして、踏み台にしていただければ。
あと、漢字の間違いも指摘していただきました。用とすべきところを冊のように書いていたようで、失礼しました。

後半(演習)は、 問題 (4/19)を解いてレポートにまとめて出していただいたのですが、提出者は20名くらいでしょうか。 この人数であれば、レポートの点検が続けられそうです。次回、簡単な講評とともに返却します。 「私のもっとも憎んだものは偽善であった。」はて、だれの言葉でしたか。 ずーと、前を、それも上の方を向いて歩いていきたい、かりに溝に落ちても。

バナッハ空間(4/26)

本日のメニューは、
一様収束、ノルム空間、バナッハ空間。Banach criterion. 閉部分空間。商空間。有限次元空間と無限次元空間。
$\ell^p$, $L^p$, Hoelder inequality, Minkowski inequality, Riesz-Fischer の定理。
大雑把に言って、関数解析=「無限次元線型代数」であるが、純粋の代数と異なる点は、位相の存在にある。 その辺の直感力というか、違いをコンパクト性に注目して考えてみよう。 いわゆる有界閉集合がコンパクトになるとは限らない。少なくともノルム位相に関しては。 といったあたりに思いを廻らしてもらいたいものである。 もし、そんなことどうでも良いというのであれば、悪いことは言わない。履修取り下げ制度を活用すべきである。

問題(4/26)
4/19 演習問題講評:
問1は、準備運動のつもりでしたが、これがなかなか完走に至らなかったようです。 仮定は何で、結論が何、の論旨の部分がきちんと書けている人(3−4人でしょうか)がかなり少なかったのです。 もう少しロジックの書き方の補強を考えた方がよいのかも知れません。 (演習に参加していない人たちは、大丈夫なのかな。) もう少し具体的に書きましょう。例えば、完備性から閉集合であることを示したいとします。 目立った悪い見本は、完備性の定義を書いてそれを書き直して何か結論めいたことを書くというものです。 この結論部分が、不完全というか正しくない人が多かった。 示すべき結論の部分をまずは把握すべきです。ということで、逆算的な書き方がよいでしょう。 数学の本には、 論理的には正しいが何をしようとしているのかがわからないという「証明」が多くあって、そのスタイルに惑わされてはいけません。 かなり意地悪な習慣ではあります。途中のあれこれを書き出すと長くなってしまう、というのが主な理由ですが、 $\epsilon$-$\delta$ の評価式で、最後の不等式を $\epsilon$ で締めくくるために途中を調整しておく、といったやりかたは、 理由もなく真似すべきではありません。
問2は、(i) が大体できた人が1−2名。(ii) は典型的な対角線論法です。 難しいのは、その内容というよりは書き方なのですが、内容自体の把握に苦労していた人がやはり1−2名といったところでしょうか。

証明とはいかなるものであるか。そうして、なぜ証明が必要か。数学科で学ぶべきことはこれに尽きる、というのは言い過ぎでも、 これが大事な柱には違いない。沢山の高度な概念・結果を知っていても、この肝心のところが疎かでは、用をなさないはずである。 現実の教程がそういったものが身につくようになっているかどうかはさて置いて。

近似定理(5/10)

今日は、先週する予定でできなかった [可分、完備化]の復習をゆっくりしたため、 ルベーグ空間 $L^p$ ($1 \leq p < \infty$) に属する関数が、連続ないし微分可能であるという性質の良い関数で近似できる、 という話は途中までとなりました。本質は、ルベーグ積分の位相的性質あるいは収束定理にあるので、 その方面の授業で学んでおくべき内容ではあるのですが、 測度の話を丁寧にやっていると、なかなか辿りつけないようで、ちょっとした溝にはなっているようです。 講義ノートで多少詳しく説明しておいたこともあり、授業では、その後の部分、よりたちの良い関数による近似のための準備として、 たたみ込みについて説明しました。ベクトル群の群環の解析的表現を与えているということもあり、いろいろ役に立ちます。

問題(5/10)
4/26 演習問題講評:
有限次元のときのノルムの同値性の問題であるが、何を問題にしているか伝わったかどうか。 有界閉集合がコンパクトであることと連続関数が最小値をコンパクト集合上で取ることの良い復習になるかと思ったのですが、 その前のところでいろいろと。具体的な2つのノルムの同値性を示せ、とでもした方がよかったのでしょうか。 「岡の原理」には反しますが。どうも骨を拾うものなきが如く、打たねば鐘も鳴らぬものを。

次回は試験ですが、演習問題を中心に「復讐」しておかれますよう。
なお、9:00-10:15 は、今日の残りの解説をして、試験は 10:30-11:30 で行います。

試験1 (5/17)

今日も不安定な一日、暑いんだか涼しいんだか。 まずは、前回残したところをして、あとは軽く復習の後で、 1回目の試験でした。どちらも一目で解いて欲しい問題だったのですが、どうでしょうか。 少なくとも、問題2は、去年のそれの縮小再生産なわけで、ありがとう又は馬鹿にするな、の一言に尽きます。
5/10 演習問題講評:
$\ell^\infty$ が可分にならないことの証明、多くの人に解いていただきたかったのですが、扱った人はごく少数でした。 説明を書くよい練習にはなるのですが。ガウス型関数とのたたみ込みが正則関数に拡張できるところは、複素解析を使います。 ところが、この複素解析の基礎を忘れている人が多かったようです。 レポート提出者が大分減りました。10人程度でしょうか。

ヒルベルト空間 (5/24)

ヒルベルト空間の基本です。3年の後期で習ったはずの内容ではあるのですが、不本意ながら繰り返しました。
直交分解については、来週に回します。
大事な注意です:人が説明するのを何度繰り返し聞こうとも身にはつきません、 自ら確認・点検をしなければ。面倒と思うのかも知れません、時間が足りないのかも知れませんが、他に方法はありません。

問題(5/24) です。

試験の講評:一所懸命書いている人も多かったのですが、結果に結びついていない人もこれまた多かったようです。 とくに、$\boxed{1}$ は、全解者なし、半解者も少数の状況でした。 $\boxed{2}$ の方も、積分の順序が交換できることに言及する人が少なく、さらにはガウス積分の計算が怪しい人も結構いました。 去年の試験問題を易しめにしたので、満点続出かと思っていたのですが、どうも噛み合っていなかったようです。
とりあえず、$\boxed{1}$ は、ここでは評価せず、期末試験で再度点検することにします。

線型汎関数 (5/31)

今日は、薄曇り、少し暑いようなそうでないような、この時期の名古屋としてはましというべきか。

先週説明しそこねた、線型汎関数とか Riesz' lemma とかを説明しました。 出席者は、20名程度でしょうか。少なくなりました。

問題(5/31) です。

大事なお知らせです。6月14日予定の試験は都合に取りやめにし、代わりのレポート問題を次回に配ります。

双対空間 (6/07)

今日は、エアコンの試運転を試みたのですが、うまくいきませんでした。 もう少し、我慢というところでしょうか。
さて、双対性の実例とか、双対空間が十分大きものであることとか説明しました。 双対空間の重要な例である generalized function については、時間の関係で省略しましたが、 演習の時間に少し補足しました。教育実習の時期と重なったということもあるのか、演習の参加者は5・6名といったところでしょうか。 鐘に徹した気分です。大きく打てば大きく、小さく打てば小さく、打たなければ鳴らないだけ、という。 それぐらいの誠意と矜持は持ちあわせております。

2回目の試験代わりの レポート問題です。6月21日締切です。 ということで、来週は、休講です。授業も、早、半ばを過ぎました。

試験2 (6/14)

今日は、事情により休講ですが、試験2の問題をレポート提出するための「箱」を設置しておきました。 今週もそうでしたが、来週も水曜日のオフィスアワー (Cafe David) は、不在です。ということで、質問等があれば、 メールにてご相談ください。

試験問題2に間違いがありました。 $\fbox{1}$ (iv) の式は、 \[ e_n(t) = (-1)^n \frac{1}{n!} e^t \frac{d^n}{dt^n} (t^n e^{-t}) \] が正しいものです。$e^t$ が抜けておりました。 お詫びして訂正させていただきます。

ヒルベルト空間と線型作用素 (6/21)

雨、気温さほどならず、エアコンの試運転あり。夏至であったか、水無月よ。

2週間ぶりということもあり、雨ということもあり、出席者減を予期すれど、 さほどならず、20数名。教育実習から戻れるもの数名の故なりしか。
G先生からのアドバイス:一般の n は不可なり。n=2,3 と心得べしと。 幸いなるかな、 演習の問題、n=2,3 を維持せり。

幾何学は、物理的直感の一つなり。今は、これにエネルギーの直感加われり。 近きは、運動量を思うべし。フーリエ解析をこそ、と念ずべき。 はせお翁、不易の教えなり。
ああ、散骨流々、桜桃の恨みいずこ。

フーリエ変換 (6/28)

今日は、試験対策も兼ねて、先週の内容を少し補足し、 フーリエ変換のユニタリー性について説明しました。 Plancherel formula と呼ばれるもの(正確には、その書き直し)ですが、 超関数論的には、 \[ \delta(x) = \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^\infty e^{ix\xi}\, d\xi \] で尽くされる内容です。 これは、$e^{i\theta} = \cos\theta + i \sin \theta$ にも比べられる才色兼備の等式と思うのですが、 いかがでしょうか。

簡単な応用として、エルミート多項式の完全性を示しました。

問題(6/28) です。ちょっと手抜きでしたか。

次回は、3回目の試験です。試験時間は、10:30−11:30の予定です。 掛け算作用素のノルムの辺りをとくに復習しておいてください。 授業でも、試験時間前に復習を行います。あと、授業アンケートもあります。

試験3 (7/05)

蒸し暑い曇り空の下、1時間程度復習の後、 3回目の試験を1時間かけてしました。

復習のついでに説明した、 $\mathbb{Z} + \mathbb{Z}a$ の閉包の計算、「常識」であればよいのですが、いかがでしょうか。

試験の講評: 問題 $\fbox{1}$ のできが良くありませんでした。完全解答者なし。 今回は、点数化しますが、期末試験で、再度問うことにします。
問題 $\fbox{2}$ の方は、留数計算で \[ \int_{-\infty}^\infty \frac{e^{-ix\xi}}{x+ic}\, dx \] を試みた人がかなりの数でしたが、この積分は絶対収束しないため、それが正しい $L^2$-フーリエ変換を 与えることは、検証を要します(明らかなことではありません)。 ここでは、(i) をヒントに、その逆変換を考えてみます。 危惧していたことですが、フーリエ解析の理解・経験に難点があったようです。 関数解析の前に、フーリエ解析を復習しておくべきだったか(3年後期の内容ではあるのですが)、 とこれは私の反省です。 フーリエ解析については、いろいろな本がありますが、 昔の講義ノートもご参照ください。

過去2回分(正確には、1回半)の結果を3階の掲示板に出しておきましたので、確認しておいてください。

正定値関数 (7/12)

授業も残すところわずか、スペクトル分解です。 これは、通常、ずーとあとの方で扱われる内容ではあるのですが、フーリエ級数論的に処理すれば、比較的簡単に導くことができます。 スペクトルの定義すら必要ありません。Radon measure は仮定します。 まあ、導いたからといってそれだけではありがたみがわからないわけですが。
今日は、その準備ということで、正定値関数と Herglotz の定理でした。

授業は、もう1回ありますが、忘れないように振り返ってみて、 もう少しというかなりというか、フーリエ解析的な内容、それも具体的かつ意味があるものをもっと入れればよかったと、 これは私の反省。皆さんの反省は何でしょうか。

問題(7/12) です。

スペクトル分解 (7/19)

最後は、駆け足になりましたが、スペクトル分解の証明の中心部分を説明しました。

問題(7/19) です。このうち、問1と問2は、来週の試験対応のものです。復習しておかれますよう。

全体を通して、関数は近似するものという技術の部分が十分でなかったようです。 連続関数列の一様極限は連続であるという、$3\epsilon$ argument とも通底する内容ではあるのですが、 やはり、$\epsilon$-$\delta$ は難しいということなのでしょうか。一所懸命が空回りしている人、諦めの境地の人、 さまざまではあるでしょうが、あえてかく汗の先に見えるものこそ大事にしたいものです。 先達の悪戦苦闘に思いを馳せながら。

http://www.mathphysics.com/opthy/OpHistory.html

来週の最終試験は、10:00−12:00ですが、その前に試験範囲のまとめを説明する予定です。

試験4(7/26)

1時間程の「復習」の後、最終 4回目の試験を2時間かけてしました。 難しかった、という声を漏れ聞くたびに、一人芝居の寂寥感が、暑いんだけどね。 本日(31日)、成績を掲示しました。疑義ある場合は、8月10日までにご連絡ください。

採点してみての感想ですが、 完備性の判定が、相変わらずのできでした。 白紙に近い答案も含めて、相手(この場合は採点者、具体的には私ですが)に伝わるような書き方が何であるかわかっていない、 という印象が強かったです。分かっているのにうまく書けない、というのはかなーりもったいないことではあります。 就活とかにも連なるところではあります。 とくにM1の方々は、この点に深く思いをいたしますよう。 授業を共有したよしみ、これからも相談に応じますので、半歩なりとも前へ進むことが肝要です。


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