フーリエ解析2013授業日誌

11年ぶりのフーリエ解析である。そして、これが納めの予感。 しかし、進歩はせぬなあ、むしろ明らかな劣化というべきか。
この授業は、「関数解析入門」ということであるが、フーリエ解析を知らずして何の関数解析かな。 足元ふらつくばかりの頭でっかち。計算技術を軽視してはいけない。理屈が見えなくなったら、 せめて計算。そうは言っても、心もなくては、関数解析の心が。
残暑厳しい折にこれを書いているわけだが、しかし、今年の夏の異様さよ。 あとひと月もたてば少しはましになっていることを願いつつも、気はそぞろに。

授業は、 この方針に沿って進める。
教科書の該当箇所を事前に印刷・予習しておくこと。予習以上に大事なのが復習。 すべては、数学を鏡として、自身の置きどころを見つけること。 そのためには、才能の有無は問題ではない、自らを欺かず絞りだせるかどうか。

ネット上の参考書として、
http://www.math.umn.edu/~olver/am_/fa.pdf
http://www.math.ku.dk/kurser/2009-10/blok1/fouan/fouan.pdf
http://math.bard.edu/belk/math461/FourierSeries.pdf
http://www.people.fas.harvard.edu/~djmorin/waves/Fourier.pdf
http://staff.science.uva.nl/~korevaar/Foubook.pdf
http://www.math.iitb.ac.in/atm/afs106/kesavan.pdf
http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/fourier/fourier.pdf
http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~yamagami/teaching/functional/hilbert2012.pdf
を挙げておく。


10月04日

台風が西に東に、暑かった夏もようやく終わりつつ。

今日は、初回ということで演習ができないため、構成を変更して、 授業の進め方の確認、予備知識調査の後に、
周期関数と周期積分、オイラーの公式と三角関数の微積分、内積空間と正規直交系、 周期関数のつくる内積空間、内積の不等式、最小二乗近似式、ベッセル不等式。
といった辺りを説明。

次回演習は、問4、7、14の3題。

ネット上で有名な(?) Standord 大学の講義ビデオというのもある。 判読しにくい文字を平然と書き続けるところに感心ひとしきり。

10月11日

台風の置土産の前線が通過しつつ、雲の流れのはやさに季節のうつろいを見て。

フーリエ級数とその収束について、その一でした。キーワードは、
フーリエ展開、フーリエ係数、各点収束、二乗平均収束、ポアッソン核

次回演習は、問21、23の2題。

来週は早くも1回目の試験です。

10月18日

夏の異常高温と連動しているのか、一週間ごとにやってくる台風とその被害。 十三夜の月もおぼろに、肌寒さもまた。

演習の初回は、まずまずといったところ。今日からは、TAの加藤さんが担当します。

復習の中で、積み残しの Parseval 等式と正規直交基底について補足説明。 フーリエ級数が絶対収束する場合の計算。

試験は、予定通り45分で実施。

[講評]

問題1の(ii) は、正解者2−3名だけで、ほぼ全滅でした。 (i) の積分計算がきちんとできない人もかなりの数いました。 とくに周期性をまったく無視して \[ \int_0^{2\pi n} (1+ia e^{ix})\, dx \] のような計算をした人は、深く反省。 あと、$e^{i\pi} = -1$ は、見えているでしょうか。採点していて、気になりました。
掲示された点数よりも実体は1点ずつ低いので、 決して安心などせずに、しっかりと復習しておいて下さい。 期末試験で、再度取り上げようと思います。

問題2の方は多少ましでしたが、演習時の解説を記憶のまま写したようなもの、 複素数の等比級数の収束・計算がわかっていないと覚しき解答が結構ありました。 複素解析の教科書の該当箇所を読み直しましょう。
(ii) の積分は留数計算でも求めることが可能で、そうして求めた人も少数ながらいました。 減点はしませんでしたが、ここでは、フーリエ級数を使って計算します。

10月25日

台風前の雨天もよう。

微分とフーリエ級数と題して、ひとしきり説明しました。 関数のなめらかさ(微分可能性)とフーリエ級数の収束性が対応するという、ある種の双対性についてのものです。 区分的になめらかな関数に限定してもよかったのですが、 そうしても大して簡単にならないこともあり、二乗可積分性を全面に出し、 微分は不定積分の逆演算であるという立場を強調したつもりです。
授業の途中から教室内の湿度が上昇したこともあり、高階微分とフーリエ係数の減少の速さについては省略しました。 機会があれば、補足したいと思います。 実は、この最後のところの証明には、$L^2(0,2\pi)$ の完備性が必要になり、 先送りしたい気分のところでもあったという事情もあります。

宿題は、問27と問30。

先週の時点での、試験結果+演習成績を3階掲示板に出しておきました。 質問等は、オフィスアワー(水12:30−13:30)時にどうぞ。

11月01日

台風の来ない穏やかな週末、紅葉も一段と。

今日は、フーリエ級数を使って解く微分方程式、でした。 ディリクレ問題と熱方程式のほんのさわり程度。理屈よりも具体的な形が、考える手がかりともなる、 というお話。

宿題は、問33と問34。 授業で説明したように、問33は、$f_n = 1$ (すべての整数 $n$ で) の場合の $u$ の極座標表示について考えて下さい。 (点電荷云々というのは別の問題であり、ここでは適切ではありませんでした。)

授業の内容と少しずれてしまいましたが、 新井先生作の数学アニメーション http://www4.ocn.ne.jp/~arai/AnimationPage.html をご鑑賞ください。

次回の15日は、はや2回目の試験。授業アンケートもします。

今日の演習の問27についてのコメント。
不連続関数を取り上げているので、定理の前提条件をみたさないことは明らかです。 問題は、そこにあるのではなく、証明のどの部分がまずくなるのかを書きます。 不完全な解答に対して不当に高い点数をつけている人が多すぎました。
とくに目立った2名分については、記録を保留にしてあります。 心当たりの方は、オフィスアワーで面談を受けられますよう。

11月15日

午前中雨のち午後晴れ。季節はまた一歩前へ、初手袋。

例によって簡単な復習のあと、授業中間アンケート、そして 試験2。この授業も半ばを過ぎました。

[講評]

問題1のフーリエ係数を求める際に、$n=0$ の場合の処理に無頓着な人が結構いました。 目配りして欲しいものです。 さらに、$f_0$ の計算(高校2年生レベル)までできていた人は、数えるほどしかいませんでした。 計算練習が疎かになっていませんか。

問題2は、直前の復習が効き過ぎたか、大多数のひとができていました。 ただ、オーダー記号を理解していないと思われる人もちらほら。 (ii) は、(iii) のためのヒントなので、これだけでは評価の対象外です。

試験の成績と演習の自己採点結果を比べてみると、自分に甘い人、厳しい人、いろいろ面白い傾向が見て取れます。 今の時点で、試験の累計が3点以下、演習の積立が40点以下の人は要注意です。具体的な対処を考えるべきです。

授業アンケートで、演習問題の中身と自己採点という方法について意見が多く寄せられましたので、 それについて少し述べておきます。
(i) いわゆる数学の問題になっていない演習問題がいくつかある点については、意図的にそのようにしてみました。 これは、数学が出来上がっていく様子を追体験するきっかけにしていただければという考えからです。 きっちり答えが出るだけが数学ではないということでもあります。これは、通常の問題の場合でも有効でして、 考える人の力量に応じて精粗濃淡の違いが書いたものに当然出ることを期待しております。
(ii) 自己採点については、長短所いろいろ想定しましたが、皆さん、総じて客観的に判断している印象です。 中には、心得違いをしている人、自己に厳しいひともいることはいるのですが、判断に困ったら、 質問していただければと思っております。(そのために、演習の時間を長めに設定しました。) これはまた、レポートのみならず試験でも目立つように最近感じている悪い傾向「やりっぱなし」に 対処するためでもあります。 正しいかどうかなど気にしないでも取り敢えず書いて出せばよい、誰かが採点すればいい、 といった態度は、これから責任ある仕事に従事されるであろう皆さんにはふさわしくないと思うからです。 自分の間違いというか、足りなかった部分を冷静に評価する、 というのは貴重な経験であるとお考え下さい。
あと、これは、講義を難しいと感じている方へのお願いですが、 授業が難しく感じたその場で、質問でも、要望でも出すように是非して下さい。 また、それに伴う復習の時間の確保も忘れずに。 3時間相当のこの授業であれば、6時間は復習に務めることが前提となっております。 もし、最大限努力してもなおかつ難しいのであれば、そのときは別の手当が必要となります。 オフィスアワーで面談を受けられますよう。

11月22日

東山の紅葉も名残の末、焚き火の懐かしさ。

今日は、フーリエ展開で、周期関数の周期を大きくしたらどうなるか、というお話からフーリエ変換の導入へ。 大変示唆的ではありますが、そのままの形で数学的に正当化するのは、結構面倒なので、 普通の数学の本では、フーリエ級数との繋がりはあえて無視して、 フーリエ変換の話は独立であるが如く淡々と始めるものが多いようです。 一方で、物理の本とか見ると、フーリエ級数とフーリエ変換の一体感には感心するばかり。 ここでは、折衷案的な解説を試みました。というようなことを書いても、猫に小判鮫、なんだろうなあ。 冗談の通じない輩も困ったものではあるが。
大事な式は、 \[ \widehat f(\xi) = \int_{-\infty}^\infty f(x) e^{-ix\xi}\, dx, \] \[ f(x) = \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^\infty \widehat f(\xi) e^{ix\xi}\, d\xi \] と \[ \int_{-\infty}^\infty |\widehat f(\xi)|^2\, d\xi = 2\pi \int_{-\infty}^\infty |f(x)|^2\, dx \] の3つ。定義式と公式2つ。 実は、あとの2つはほぼ同じ内容であるのだが、それについては後のほうで。

具体例で上の等式を確認すると同時に、等式の意味を考える上での問題点も認識。

関連する関数空間を2つ導入し、以前やった不定積分をフーリエ変換に適用することで、双対性の一端を垣間見る。

11月29日

風もなく穏やかに晴れ上がり、初霜。

前回の基本公式を受けて、今回はその証明とかです。
準備の一貫として、一様連続性を復習してみたのですが、肝腎のそれを使うところを駆け足してしまいました。 ともあれ、内積にまつわる等式を $L^1(R) \cap L^2(R)$ の関数に対して証明しました。
その証明の方針は、ガウス関数による正則化というもので、同じ手法は、フーリエ逆変換の公式の証明にも使えるのですが、 逆変換の方は、状況設定がいろいろすっきりとかず、少しもたもたしてしまいました。 こういうこともあって、積分バージョンは避けて超関数バージョンを目指す本が現れるのでしょう。
しかしながら、元々の積分バージョンを経験しておかなければ、 超関数バージョンの有難味も使いこなしのセンスも身につかないような気がします。
$f \in L^1(R)$ と $\widehat f \in L^1(R)$ から、$f \in C_b(R)$ が出てくるという話を、 その超関数バージョンのちょっとした応用として説明ようかといった気分です。 時間の関係でできないかも知れませんが。

具体例は一つだけ説明しました。かりに、富士山関数のフーリエ変換と呼んでおきましょう。 次回の講義でも必要になりますので、是非復習しておいて下さい。 1時間の授業に2時間の復習です。

演習の問題は、問44,問47。

お知らせが遅くなりましたが、12月4日のオフィスアワーは休止します。

12月06日

落ち葉で焚き火をしたくなるような、今日も穏やか。

今日の主な内容は、フーリエ変換を $L^2(R)$ に拡張すること。
その一環として、$L^2(R)$ の完備性も確かめました。
具体例としては、衝撃関数のフーリエ変換は分数関数になるのですが、 その逆変換を留数計算を使って行う話でした。 (テキストの解説は変なので、授業で説明した形に訂正しておいてください。)

来週は、3回目の試験です。フーリエ変換の基本公式はいろいろありますが、
(1) 逆変換の公式、(2) 内積の公式、それと (3) 微分(不定積分)とフーリエ変換の関係、
の辺りを重点的に復習しておいて下さい。

演習の問題は、問50,問51。

12月13日

北の方から雪雲流れ来たりて、上空は青灰二色の境目、冬へまた一歩。

この授業も残りわずか、 試験3をしました。 授業中繰り返し強調した極めて基本的なところなので、満点続出を期待していたのですが、 どうもそうではないようで。

演習については、初めての試みもあり、いろいろと目につくこともありますが、 大枠は最後まで維持する予定です。
大多数は、このまま合格ラインを越えられそうですが、 厳しい人も何人か見受けられます。 遅きに失した感もありますが、オフィスアワー等で自身の問題点を確認されますよう。

[講評]

$\fbox{1}$ ですが、$xe^{cx}$ の原始関数の計算ができない人が結構な数(5−6人?)いました。 この授業日記は公開なので、高校生とかが見たらびっくりの数ですが、これが現実です。
どうして、微分して検算しようとしないのかとても不思議です。 やりっぱなし、誰かが間違いを指摘してくれるだろう、という考えは是非改められますよう。
授業では、逆変換の話をしましたが、フーリエ変換を二度行うとどうなるのかはしませんでした。 そのせいかどうか、設問 (ii) の出来が良くありませんでした。解答出来た人も、複素積分を使って直接求めることを 試みていた人が多かったように思います。
フーリエ変換と逆変換は、その形を見れば明らかなように、ほとんど同じ形をしていて、 フーリエ変換を2度繰り返すと、ほぼ元の関数になります。 具体的に書けば、 \[ {\widehat{\widehat f}}(x) = 2\pi f(-x) \] です。ということで、(i) が計算できれば、(ii) は即答できるのでした。 フーリエ変換は、どことなく $i$ を掛ける操作に似ているのです。

$\fbox{2}$ は、ほとんどの方が出来ておりました。 ただ、(i) のフーリエ変換の計算で $\xi = 0$ の場合を分けて説明してた人は、1−2名のみ。 そういう、丁寧な処理が書ける人はもう少し多くいて良い気がします。 責任ある階層が詰めの緩い人だらけになると、社会のシステムが維持できなくなる気がします。
話を戻して、(i) の答えは、$2\hbox{sinc}(\xi) = 2(\sin \xi)/\xi$ というものになります。 この簡単極まる計算ができない人が、今もなお複数います。 該当者は、オフィスアワーで面談(診断?)を受けて下さい。 このまま放置していてはいけません。
(ii) は Plancherel formula の実例ということですが、いきなり見せられるととても計算できる気がしない 積分があっさりとできてしまう辺り、素晴らしいと思いませんか。
どれだけ心動かされたか、そしてどれだけの心を動かしたか、人の一生の意味はそれに尽きる、という気がします。 人の心を動かすためには、まず自らの感動がなければ。

12月20日

昨日までの雨から一転の快晴、鈴鹿方面の山にも白き輝き。

フーリエ変換を使って、半平面上のディリクレ問題と、熱方程式の初期値問題を解きました。 得られた解の積分表示で境界条件を考えるとデルタ関数が現れるといったところから、 超関数の話に移行したのですが、説明が十分でなかったと反省。やはり時間が足りなかったかといったところ。 まあ、勉強のきっかけになればよいので、という気の緩みもいくらか、それと師走の忙しさも、と言いわけでした。
手っ取り早く、しかし、きちんと勉強したい人は、Reed-Simon の Functional Analysis の5章をお勧めします。 読んで楽しい関数解析の本です。 ネットで調べたら、本の pdf が出てきてびっくり。図書室にもあります。

今日の時点での演習と試験の成績を三階に掲示しました。累積得点が14点以下の人は要注意。
来週25日もオフィスアワーがあります。ただ、変更の可能性もあるので、事前にメール連絡をお願いします。

1月10日

今朝は、手足がしびれるような寒さ。

気がつけば、これが最後の講義でした。 付け足しの感じもしますが、ヒルベルト空間と線型汎関数。 Riesz Lemma は普通直交分解定理を使ってすることが多いのですが、 直交基底による成分表示というのも素朴でよいのではないでしょうか。
来週は、授業はありませんが、期末試験前の相談日とします。 10時ー12時の間、A349へどうぞ。
その次の週は、演習+期末試験で、それが最後の授業となります。

1月17日

今日は晴れのち雪雲の流れ来たりて、寒の極まりか。

学習相談日ということで、待機中もいろいろあれこれ慌ただしくしていたところ、 昼近くなって3人来訪。演習問題に関連したことをひとしきり。

そういう雑談的な授業をできればしたかったのであるが、まあ、良しとしよう。

来週最終回は、演習、復習、試験に授業アンケートと盛りだくさん。

1月24日

すべて終わりは突然やってくるように見える。長かったこの授業も今日を迎えるめでたさよ。
残念ながら興味を持ってもらうこと叶わなかったようであるが、袈裟まで憎まぬよう伏してお願いしたい。

何はともあれ、最後の演習のあと、授業アンケートを挟んで、 最終試験
最終成績を1月28日に掲示しました。疑問点ある場合は、2月4日までにメールで連絡を。

成績の分布です。
S:2 A:6 B:11 C:15 F:2 欠:30

好文もまた一縷のおもいを枝にとどめて。


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