複素関数論2013授業日誌

3年ぶりの複素関数である。そして、これが納めの予感。
今回は、数理学科向けの特別メニューということで、早めの準備を心がけたのだが、 何と、他学科向けよりも範囲が狭いという驚き。 べき級数も積分公式も後期にするという。 (その理由は、おそらく、同時期に並行して行われる $\epsilon$-$\delta$ 微積分のあとの方でべき級数が正式に扱われる、 という事情なのだろう。) その代わりに材料を吟味せよ、ということなのだろうが、それの具体的なレシピはないようだ。
うーむ、困った。間が持たぬ悪い予感、というか、目的もなく引き伸ばすうどんは好みではないのだが、 大事なことは二度三度ということで、積分公式とべき級数までを目標に定めること、後期の担当者にも話を通し、 まずはやってみよう。

授業は、 この方針に沿って進める。
教科書の該当箇所を事前に印刷・予習しておくこと。予習以上に大事なのが復習。
ネット上の参考書として、
http://math.sfsu.edu/beck/papers/complex.pdf
http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~kawahira/courses/11S-kansuron-all.pdf
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~keikei/lecture/math-note.pdf
http://fujimac.t.u-tokyo.ac.jp/fujiwara/math2.html
を挙げておく。

宿題とレポートについて。毎週の授業の中で、復習のための問題を2問指示するので、次の週の月曜17時までに、 レポートにまとめて提出すると、それの点検結果が解答例とともに次回授業終了時に返却される。 なお、これは、復習の手がかりのために行うものであって、授業の成績には反映しない。

教科書の問題の解答が欲しいという要望が毎回のように寄せられるが、それには 応えない方針である。 これは、将来、いろいろな場面で数理の道を切り開いていく上での鍛錬のためである。 また、問題との格闘(というと大げさであるが)を通じて、あれこれ考えるきっかけにして欲しいがため。 そうはいっても、手助けが必要となることもあろう。その際には、できるだけ問題点を明らかにした上で、 オフィス・アワーなどを活用されたい。 (と言いつつ、探せばあるんだなあ、これが。でも、人の答を解読するよりも自分でしてしまったほうがはやい。)

最後に、これから数学を本格的に学んでいく際のコツを少し。
数学は、紙とペンとそして適当な本さえあれば、一人でもできてしまうものではあるが、 できれば、同じ仲間と意見交換しながら進むのがよい。
一方で、仲間内だけだと自己満足に陥る危険性がある。 それを避けるためにも、時には、先達である教員にアドバイスを求めるといった態度がよいだろう。 オフィスアワーというのもあるし、利用しない手はない。
数学は一人でもできる、そして一人でしなければいけない部分が多いだけに、 孤立することを意識して避けるということである。


4月11日

八重桜の花の木々にひんやりと光満ちて春のうつろい、といったところでしょうか。

今日は、オイラー風怪しげな計算と、それを受けての複素数の導入まで。 まずは試運転といったところでしょうか。
簡単な予備知識アンケートもしました。前半分(太字の項目)がすべて○であれば、 まあ、良いでしょう。そうでない項目が一つでもあれば、要注意です。 後半分の項目は、○があった分だけ余裕であると思って下さい。 安心は禁物ですが。
講義ノートについての意見・感想・要望などもメールでどうぞ。

4月18日

今日は汗ばむ陽気、落花もおだやかに道明寺。

うっかりしたよ、複素平面はおろか絶対値もやっていないのであったか。しかし、国家犯罪にも等しいこの所業。

何はともあれ、気を取りなおして複素数の幾何です。 言葉の定義が続きましたが、大昔は高校でやっていた内容です。決して難しくはないのですが、 練習が必要です。参考書も含めて、できるだけ多くの問をやってみてください。 極表示を通じての複素数の掛け算の幾何学的意味がとりわけ重要です。 他は、それに慣れるためのネタに過ぎないと言えなくもありません。
是非是非、復習されますよう。

次週4月24日のオフィスアワーは、実施時間を13:45−14:45に変更します。

4月25日

昨日の雨も上がり、しばしの春爛漫。

今日は盛りだくさんのつもりが、盛り普通でした。
三角不等式を確認して、 極限の計算例としてオイラーの公式を。
複素数値関数の微積分について通り一辺のことを。 その実例としての複素指数関数。
曲線の連続変形の観察から代数方程式の基本定理を解説する予定でしたが、時間切れで略。

次回は、1回目の試験です。先週と今日の内容をとくに復習しておいてください。

今週の宿題ですが、来週の月曜日が休みなので、期限を30日(火)の午前中までに変更します。

5月02日

きょうは、風飄々ひんやりと御岳日和、簡単な復習のあと、 試験1をしました。
いずれも基本を問うものですが、それだけでは物足りない人もいるかと、$\fbox{2}$ の方は、少うしだけ色をつけて見ました。 専門科目が始まって、ロジックの重視は良いのですが、眼高手低にならぬよう気をつけましょう。 計算をばかにしないことです。あと、練習問題を出してくれないから勉強できない、といった言い訳は論外といいますか、 そういう雛が餌を待つ状態から早々に抜け出す気持ちが肝要で、それが今後3年間の分かれ目となります。 せくことはありませんが、あっという間の3年間。

5月09日

今日の最高気温は28度。暑いと呼べる陽気。北は寒いくらいのようですが。

今日も盛り沢山。 複素値複素変数関数の実例として、 有理関数、指数関数、対数関数とべき関数。 複素微分とその計算規則。$z^n$ 複素 chain rule。 コーシー・リーマンによる正則関数の判定。 さまざまな実例。

今日は、中間アンケートもしました、ああ、しんど。

先週実施の試験結果を3階掲示板に出しておきました。
[試験の講評]
$\fbox{1}$ は、おおむね出来ていたように思います。 ただ、複素数の掛け算の意味を三角形の情報に言い換えることが思いつかず、悪戦苦闘していた人も散見されました。 また、細かい計算ミスをする人も多く見られました。
$\fbox{2}$ の方は、複素数が $0$ に収束することの意味が怪しい人、肝心な部分の説明ができていない人、 詰めが甘い人、さまざまでした。想定よりも少し低い点数だったように思います。 とくに、(ii) のところで、$c$ が複素数を表しているという認識がないように見える人が結構いました。 具体的には、$c<0$ といった意味不明の不等式を無邪気に書いて見たり。 答案に $1+i < 2 + i$ とか、$1+i \leq |1+i|$ という「不等式」を見つけると、昔は怒ったものですが、そのうち悲しくなり、 最近は、・・・。
各問2点満点ですが、とくに良くかけているものには、1点追加しておきました。

5月16日

今日は暑さが一息、北の風強し。

前回の複素変数の微分を受けて、今日は複素変数の積分である。 \[ \iint_D f(z)\, dxdy \quad (z = x + iy) \] という二重積分がすぐに思い浮かぶが、これは、実2変数としての積分である。 変数が複素数であることに配慮した積分をどう考えるかがここでの問題。
この段階で、リーマン積分に習熟していることが望ましいのであるが、これを機会に改めて勉強するのでもよい。 基礎CI の授業との関係で言えば、 http://sss.sci.ibaraki.ac.jp/teaching/set/real.pdf が参考になろうか。
何はともあれ、線積分。それにつけても曲線の定義の難しさよ。
運動と運動の軌跡=残像としての曲線ということでよいのだろう。 ここで運動と言っているのは、象徴的な意味合いにおいてであって、 通常、曲線のパラメータ表示と呼ばれるものであるが、 運動と結びつけて理解することは悪くはない。 なめらかなパラメータ表示から折れ線が出現する様子が直感的に理解できるから。
どこかで書いたことであるが、幾何学には運動の視点も必要である。
線積分の計算そのものは、実一変数のそれに他ならないので、できるときはできるが、それはある意味稀な場合。 線積分については、具体的な計算もさることながら、その不等式による評価も大事。

唐突ながら、この授業のおすすめの利用方法を書いておこう。
まず、予習は講義ノートの印刷から始まる。そして、今日するであろうところを眺めておく。 理解までは求めぬが30分は眺める、漫然と昼を食べる時間があればできること。
授業で板書するものは、基本的にこの資料にあることなので、 メモを取る気分でよい。 ただし、図は板書が全てであるので、それだけはできるだけ最大漏らさず写すのがよいだろう。 なお、授業での説明をその場で100%理解しようとしないこと。流れをつかむだけで良い。
さて、授業が終わってから本当の勉強が始まる。 聞き流した説明を、講義ノートと板書メモを手がかりに再現すべきである。問もできるだけ解いてみる。 これは、人にもよるが、1時間から3時間は必要。(得意な人で1時間、苦手な内容ならば3時間は粘ると心得る。) お茶かコーヒー片手にゆったりと構えてするのが良い。 場所はどこでも構わないが、広い卓が欲しい。
そういう作業というか修行というのかを試みてなおかつ判然としない部分は、 オフィスアワーとかで聞くのがよい。もっとも、将来、数学で飯を食べようと目論む人は、 気楽に聞く前にもうひと踏ん張りするものではあるが。
それだけのことを日常のこととしてこなせば、単位の心配をするいとまもないだろうし、 なさけない愚痴をこぼすこともない、としたものである。

レポート問題の訂正:問48の閉曲線は、右半平面 (実部が正)に含まれるものとする。 ヒント: $\log (z\pm i)$ の微分。

先週の中間アンケートの結果:
難易度(難7人、普通39人、易0人)
説明の良し悪し(良31人、悪14人)
興味の有無(有24人、どちらとも17人、無6人)

5月23日

北はまだ寒いというのに、この陽気、この暑さ。

前回は、少しお話が過ぎました。そのせいでできなかった大事な例 $\oint_C z^n\, dz$ を復習の形で取り上げた後、 コーシーの積分定理の解説をしました。この、一見、単純とも思える等式から導かれる数々の結果は見事という他ありません。 その幹の部分に到達したということです。
授業の証明はグリーンの定理や絞り出し論法を使わないものですが、 (1) 比較的形式的に処理できること、(2) 同じ路線での厳密化も可能であること、 などの点から、あえて採用しました。グリーンの定理そのものについては、後ほど補足する予定です。
さらに、その枝葉の一つを鑑賞するために広義積分を取り上げました。 条件収束する形のものなので、その収束性の評価のために積分の不等式の使い方も学びました。

次回は2回目の試験です。授業で取り上げた例と宿題の問を特によく復習しておいて下さい。
なお、「教科書」が難しいようであれば、 構成が近くかつ易しめのBeck先生の本(URLは上の方に書いてあります)が参考になります。その辺はお好みでどうぞ。

5月30日

東海も梅雨に入ったようで、授業も折り返し地点の 試験2をしました。 試験の前に、復習ついでに対数関数の積分表示の説明もしました。

今回は、基本の基本を問うだけにして、色なし。逆にいうと、言い訳ができないということ。 簡単な問題であるが故の緊張感、といった感じです。試験は、4回目の重みが大きいので、 まだまだとも言えるのですが、重要概念の多くは既に出尽くした感もあり、 結果が出せない人は、復習力が鍵となります。
オフィスアワーの有効活用もお忘れなく。とくに来週の学習相談日(13:00−14:30,A349)。

6月06日

前線は南海上に下がって空梅雨もよう。薄晴れの中、ライブ始まれり。

午後から名大祭で、教室に人を集めてはいけないらしい。 祭は祭としても、勉強したい人もいるだろうから、学習相談日とする。りっぱに授業の一部である、 と強弁してみる。利用者の有無に関わらず。

時計問題は、あいかわらず寝ぼけたことを言っているなあ。それにしても、皆どうして怒らぬのか。

試験2までの結果を3階掲示板に出しておきました。

[試験の講評]
$\fbox{1}$ は簡単でしたね。それでも、(i) の説明が不十分な人がかなりいました。 用語の説明を求めているのに、その肝心の用語が説明文に一切現れないのはいただけません。
$\fbox{2}$ の方も、(ii) のコーシーの積分定理の成立条件をしっかり述べている人は少数でした。 「始点と終点が一致するから」というのは本来は1点減点ですが、fractional な減点に留めておきました。
簡単な線積分の計算も間違っている人がかなりいました。 パラメータの向きがおかしい人、線積分の計算式を書き下せない人、 $\log(2-t)$ の原始関数がわからない人、いろいろでしたが、 \[ \int_{2i}^i \frac{1}{z}\, dz = [\log z]_{2i}^i = \log i - \log(2i) = -\log 2 \] という怪しげな計算をする人がかなりいて危険。基本的なところ故、減点しておきました。 分かって書いている分にはいいのですが、試験である以上、その「分かっているよ」が採点者に伝わる書き方をしないと。 近い将来、就活などするとき、重要なポイントになります。表現するという意志の問題でもあります。
なぜ怪しげか。 \[ \int_{-i}^i \frac{1}{z}\, dz = [\hbox{Log}\,z]_{-i}^i = \hbox{Log}(i) - \hbox{Log}(-i) \] が正しいかどうか考えてみて下さい。 対数関数の多価性と線積分の問題として、期末で再度問うてみようと思います。
各問2点満点ですが、今回も、良くかけているものには、1点追加しておきました。

[おまけ] ここの学科は高校教員になる人が結構いるので、上で指摘した積分計算に関連した心得 (年寄りの繰り言)を書いておこう。
どの微積分の本にも、 \[ \int \frac{1}{x}\, dx = \log |x| + C \] のような公式が挙げてあって、学習者はそれを丸暗記しがちであるが、これはよろしくない。 そもそも、定義域が連結でない以上、積分定数を一つで済ませるというのがおかしい。 これは、本来、$x>0$ と $x<0$ に分けて書くべきで、それが運良く $\log |x|$ とまとめて書けるから そうしただけのものである。覚えるべきは、 \[ \int \frac{1}{x}\, dx = \log x \quad (x>0) \] ただ一つ。そうして、他はすべてこれに帰着させる、というのがよい。 機械的に覚えて漫然と計算すれば、$\log$ の中身は正である (これは、高校数学としての話である)という肝心な点が疎かになる。
さて、それでは、 \[ \int_0^1 \frac{1}{2x-3}\, dx \] といった計算はどうするかというと、教科書的には、置き換え積分 $t = 3-2x$ であるが、 それを一々やっていては、手間もかかるし間違える危険性も増す。
お勧めは、「微分して後で調整する法」、略して、微調整法である。 こういった積分は対数が関係するはずであるから、積分範囲において $2x-3 < 0$ に注意して、 $\log(3-2x)$ を微分してみようと考える。合成関数の微分計算をすると、 \[ \frac{d}{dx} \log(3-2x) = \frac{2}{2x-3} \] より、$1/(2x-3)$ ($x < 3/2$) の原始関数が $\frac{1}{2}\log(3-2x)$ であると分かる。 このような方法に親しんでおけば、 \[ \int_{-1}^2 \frac{1}{x}\, dx = [\log |x|]_{-1}^2 = \log 2 - \log 1 \] といった脳死状態の計算など、しようと思ってもできない。是非是非、高校生に伝授して欲しい。 その前に、自身が身につけないと。
他にも覚えてはいけない機械的に使ってはいけない公式がいろいろあるが、長くなるのでこれくらいで。

6月12日のオフィスアワーは都合により休止します。

6月13日

あいかわらずの空梅雨もようですが、台風が連れてきたのか、今朝の最低気温24度。

今日から後半戦ですが、実はあと6回。進度予定より1回分遅れてます。 調整は、前回の試験前の復習+補足で説明した、不定積分としての対数関数の説明の回を削ることで辻褄を合わせる予定です。 これに伴い、宿題を出すタイミングも1週ずれます。ご注意ください。

不定積分と原始関数についてを準備に、 積分公式からテイラー展開へ。最後に、具体例としてべき関数を取り上げました。 連続性とか、積分と極限の順番の入れ替えの証明を入れてみたのですが、 この辺は、教科書の補充版を参考にして下さい。 急な暑さで、説明が漫然となってしまったところは、もっと端折ればよかったと反省。

今週は、宿題なしです。

教科書の改訂版です。問題番号のずれに注意して利用しましょう。

6月20日

梅雨戻れり、紫陽花が元気。

級数の絶対収束性について、一通り説明しました。
数の集まりについての「総和」の考えは、基本的なはずですが、なぜか説明のない本が多いようです。 順序良く足すことと全部を足すことの間にある違いがわかっていただけたでしょうか。
具体的な級数の収束性を判断するコツについても説明したつもりですが、伝わっているものかどうか。

来週は、3回目の試験。とくに、コーシーの積分公式の内容と絶対収束のところを重点的に復習しておいて下さい。

宿題は、問54・55(番号は、改訂前のものです)。

6月27日

名古屋近在の神社仏閣に裸丈夫満つるの季節になりました。
今日は梅雨の晴れ間、汗じんわりと。気がつけば夏至が過ぎてました。これからは、日が短くなっていきます。
人の一生もそんな感じのところがあるような。皆さんの夏至はいつでしょうか、そして夏本番は。

いつものようにわざとらしい復習のあとで、 試験3をしました。

7月04日

前線は日本海に。南東の風、風力3、暑いような寒いような曇天雨。 梅雨も終盤、授業も終盤といったところ。

収束半径、微分可能性、絶対収束性など、 べき級数についての基本的なことを一通り説明しました。
宿題は、問59・問66(番号は、改訂前のものです)。

試験3までの結果を3階掲示板に出しておきました。 疑問点ある場合は、オフィスアワーの時間にでもどうぞ。

[試験の講評]
今回の試験のできは、残念ながら失速状態といったところ。 複素数の何たるかを、また収束の何たるかを薄ぼんやり放置してきたつけが表面に出てしまったという印象です。
$\fbox{1}$ は (ii) から (iii) を導くところがとくにできてませんでした。 明らかに (ii) がヒントなので、線積分を具体的に書き下してみる、というのは当然のことだと思ったのですが、 もしかして線積分の定義を忘れてしまったのでしょうか、あるいは試行錯誤の手間を惜しんだのでしょうか、 それを試みた人は少数派でした。
$\fbox{2}$ も基本問題のつもりでしたが、そもそも複素数の評価ができないケースが目立ちすぎました。
まず (i) の説明が問題です。どうして言葉を惜しむのでしょうか、 「$\sum_{n=1}^\infty |c_n| < \infty$ である級数」 としか書かない人が数多くいました。これは、説明ではなく単なるメモです。この短いメモだけで、絶対収束級数を知らない人が その意味を理解できるでしょうか。
(ii) では、そもそも複素数の絶対値がまるでわかっていないものが複数見受けられました。 \[ 1 + i < |1+i|, \quad e^{-(1+i)n^2} < e^{-(1+i)n} \] のような不等式?を平然と書くのは、とても罪深いものです。さらにはまた、 \[ \sin \frac{(n^2+1)\pi}{n} \approx \frac{(n^2+1)\pi}{n} \] という恐ろしい近似式?を書いてみたりと散々でした。 何となく形だけまねてやりすごす、というのは科学とりわけ数学を学ぶ者のとるべき態度ではありません。
期末試験で再度問うて見ることにします。

[おまけ]
級数の収束性を判断する上で重要なのが、無限小あるいは無限大のスピードに対する認識と、 \[ \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^\alpha} < \infty \Longleftrightarrow \alpha > 1 \] \[ \sum_{k=0}^\infty r^k = \frac{1}{1-r} \quad (0 < r < 1) \] の2つ。級数の収束性についてはいろいろな判定条件が知られていますが、それは、基本を十分経験した後での話です。 不等式による評価という考え方をまず身につけるべきです。それなしでは、$\epsilon$-$\delta$ でも何でも形式倒れの 無価値なものになってしまいます。

なお、級数 \[ \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^\alpha} \] は、収束する場合も発散する場合もそのスピードは速くはありません。 例えば、$\alpha=1$ の対数発散の場合でいえば、 $n=10^N$ 項までの和を計算しても \[ 1 + \frac{1}{2} + \dots + \frac{1}{n} \approx N\log(10) \approx 2.3 N \] 程度の大きさです。具体的に、1000項まで加えても $7$ 程度、 100万項足しても、$14$ 程度です。本当に発散するのか心配になるほどです。
一方、等比級数の方は、 $n$ 項で打ち切ったときの誤差が \[ \sum_{k=n+1}^\infty r^k = \frac{r^{n+1}}{1-r} \] であることから、例えば $r = 1/2$ であれば、$n= 1000$ で $10^{-301}$ 程度、 $n=10^6$ に至っては、$10^{-301030}$ 程度の小ささになります。
今の数学教育で不足しているものの一つは、この近似に対する見方・経験でしょうか。 戦前の算数の教科書を見るにつけ、昔の方がそういったことへの配慮がなされていたような気がします。何となくですが。

7月10日のオフィスアワーは、都合により12:30−13:00だけになります。

7月11日

梅雨が明けたと思ったら、焼けた鉄板の上でアチチ、アチチ。

$1/\cos z$ とかのべき級数の計算を少々する予定だったが、暑すぎるのでそれもやめにして、 復習と補足。
冪級数の係数の増大度(あるいは減少度)と収束半径の関係、 コーシーの評価式の応用として、代数学の基本定理。
シラバスに明記してある平面上のベクトル解析については、 微分積分の公式の高次元版ということで、言い訳程度の説明。 3次元の場合は、電磁気学の法則と表裏一体のものであるが、 意外にも数学・物理の乖離が目立つ箇所でもある。この乖離の部分を埋めてみることで、 時間・空間に対する新たな認識が得られるような気がする、気のせいかも知れないが。
微分積分の公式の高次元版については、 坪井先生の講義ノートを参照。
来週の試験範囲: 線積分、コーシーの積分定理、絶対収束級数、ベキ級数。
最後に、授業アンケート。

7月9日、吉田昌郎(よしだ・まさお)氏に合掌。享年58。末永く記憶に留めておきたい。

しみじみと良きことの一つか二つ、その種をこそ残しうるならば。

7月18日

もはや、夏が終わりつつあるような錯覚すら覚える、梅雨明け10日。

最終の試験4をしました。

すべての試験結果を3階掲示板に出しました。 おおよその成績分布は、
S:16人、A:13人、B:12人、C:12人, E:12人
といったところ。

疑問点ある場合は、 7月26日(金)までにメールで問合せを。

残念な結果に終わった人も、年度末(?)に行われる再試験を受けられる可能性がありますので、 諦めずに勉強を続けて下さい。
引き続き後期も、オフィスアワー等での相談に応じます。
同行二人、限りあることのめでたさよ。

採点していて気になる点があったので一言、二言。収束半径を \[ \rho = \lim_{n \to \infty} \frac{|c_n|}{|c_{n+1}|} \] であるが如く解答してある答案が結構な数ありました。
急いで注意しますが、右辺の極限は存在するとは限りません。 右辺の極限が存在するならば収束半径に一致する、は正しいのですが、その逆は成り立ちません。 例: $c_n = a + (-1)^n b$。
授業では、収束半径を与える公式のことは意図的に説明をしなかったのですが、演習とかで教わったのでしょうか。 機械的な知識は便利なものではありますが、それはものごとの成り立ちを理解したあとでのことです。 ロピタル計算と同様の弊害を危惧したためですが、・・・。
今回の試験で問うているのは、もっともっと基本的なことです。 半可な知識、しかも間違っている知識というのは、いっそ知らないほうがまし、としたものです。
ただ救いは、そういった解答よりは、授業で繰り返し説明したまっとうな方法によるものの方が多かった点でしょうか。

もう一つ。$\lim_{n \to \infty} |c_n| = \infty$ から $|c_n|$ は増加数列であると結論する者、数人。 バブルのときの株価変動とか思い浮かばないのでしょうか。 あ、そうか、バブルの時は、まだ生まれていなかった?
反例は自分で考えて下さい。

蛸壺やはかなき夢を夏の月


上の階へ