代数幾何学 勉強会

日時:2月16日(木)10:30〜17日(金) 17:00
場所:名古屋大学 理学部1号館 309
世話人:伊藤 由佳理 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

2月16日(木)

10:30〜12:00 梶原健(東北大理)「トロピカル幾何入門」
(アブストラクト)
トロピカル幾何学の初歩を解説します。
トロピカル幾何とは、代数幾何と凸体の幾何を付値論でつないだ幾何学です。
講演の後半では射影平面曲線の古典的な定理のトロピカル幾何学的な類似を紹介します。
(参考文献)
J. Richter-Gebert, B. Sturmfels, and T. Theobald,
First steps in tropical geometry, Idempotent mathematics and mathematical physics, 289--317,
Contemp. Math., 377, Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2005.

13:30〜15:00 前野俊昭(京大理)「量子コホモロジー環入門」
(アブストラクト)
量子コホモロジー環は、Gromov-Witten不変量と呼ばれる不変量を用いて複素射影的多様体のコホモロジー環を変形したものである。高橋さんの講演で扱われる予定のミラー対称性のコンテクストからすると、A-モデルサイドに現れる構造であり、多様体の中の曲線の数え上げに関する情報と密接に関わっている。
この講演では、Gromov-Witten不変量、量子コホモロジー環、J-関数などの定義と基本的な性質を概観することを主な目標としたい。また、Fano多様体の量子コホモロジー環は比較的扱いやすい構造を持っているので、そのような具体例についても紹介したい。特に、トーリック多様体のGromov-Witten不変量は、トロピカルGromov-Witten不変量と一致することが知られており、梶原さんの講演とも関係している。余裕があれば、量子K理論についても簡単に紹介する

(参考文献)
D. A. Cox and S. Katz, Mirror symmetry and algebraic geometry, AMS, 1999.
W. Fulton and R. Pandharipande, Notes on stable maps and quantum cohomology,
Proc. of Symposia in Pure Math. Vol 62 part 2, AMS, 1997, 45-96.
Yu. I. Manin, Frobenius manifolds, quantum cohomology and moduli spaces, AMS, 1999.
D. McDuff and D. Salamon, $J$-holomorphic curves and quantum cohomology, AMS, 1994.
B. Siebert, An update on (small) quantum cohomology, in Mirror Symmetry III
(D. H. Phong, L. Vinet and S. T. Yau eds.), AMS/IP, 1999, 279-312.


15:00〜16:00 ポスターセッション(at 3階オープンスペース)
発表者一覧

16:00〜17:30 石井亮(広大理) 「幾何学的不変式論によるクレパント解消の構成」
(アブストラクト)
SL(3,C) の有限部分群Gによる商特異点を考えます.これは,「クレパント解消」という良い特異点解消を持つことが,Gの分類に従って90年代までに示されました.その後,G-Hilb というモジュライ空間を考えると,これがいつでもクレパント解消になっているということで,クレパント解消の存在の統一的証明がなされました.また,G-Hilbを使うと,3次元のMcKay対応というものの導来圏による定式化ができます.一方で3次元では,クレパント解消は一般にはいくつか存在して,G-Hilb というのはそのうちの一つです.そこで,G-Hilb と似たようなモジュライ空間として,G-constellation というもののモジュライ空間を考えます.これらモジュライ空間は,幾何学的不変式論(GIT)を使って構成されます.一般にGITによる商空間の構成は,あるパラメータ(安定性を定めるパラメータ)に依存し,パラメータによって商空間が変化する様子は Thaddeus らによって考察されています.G-constellation のモジュライもパラメータによって変化し,特にGがアーベル群の時には,任意の射影的クレパント解消がこのようなモジュライとして実現できることがわかっています.この様なことを解説したいと思います.
(参考文献)
T. BRIDGELAND, A. KING, and M. REID, The McKay correspondence as an equivalence of derived categories. J. Amer. Math. Soc. 14 (2001), 535-- 554.
Cassens, Heiko; Slodowy, Peter, On Kleinian singularities and quivers. Singularities (Oberwolfach, 1996), 263--288, Progr. Math., 162, Birkh?user, Basel, 1998.
A. Craw; A. Ishii, Flops of $G$-Hilb and equivalences of derived categories by variation of GIT quotient, Duke Math. J. 124 (2004) 259--307.
A. D. KING, Moduli of representations of finite-dimensional algebras, Quart. J. Math. Oxford Ser. (2) 45 (1994), 515 -- 530.
P. KRONHEIMER, The construction of ALE spaces as hyper-Kahler quotients, J. Differential Geom. 29 (1989), 665 -- 683.
D. Mumford, Geometric invariant theory, Springe-Verlag, Berlin-Heidelberg-New York, 1965.
I. NAKAMURA, Hilbert schemes of abelian group orbits, J. Algebraic Geom. 10 (2001),757 -- 779.
A. V. SARDO-INFIRRI, Resolutions of orbifold singularities and the transportation problem on the McKay quiver, preprint, arXiv:alg-geom/9610005
M. THADDEUS, Geometric invariant theory and flips, J. Amer. Math. Soc. 9 (1996),691 -- 723.

18:00〜 懇親会

2月17日(金)

10:30〜12:00 小木曽啓示(東大数理)「超ケーラー多様体の双有理変換群」
 (アブストラクト)
2003年に、「Salem多項式と呼ばれる多項式に着目することで、$K3$曲面の対称性を研究する。」という、それ以前にはなかった新しい視点が、複素力学系の専門家である、McMullen 氏により、与えられた。この視点に立つことで見えてくる$K3$曲面、超ケーラー多様体の自己同型について解説したい。
(参考文献)
C.T.McMullen, Dynamics on $K3$ surfaces: Salem numbers and Siegel disks. J. Reine Angew. Math. 545 (2002), 201--233.
K. Oguiso, Tits alternative Tits alternative in hypekahler manifolds, Math. Research Letters 13 (2006) 307-316. (dedicated to Professor Yukihiko Namikawa on the occasion of his 60-th birthday, avaiable at http://MRLonline.org most recent issue)
小木曽啓示, Salem多項式と複素$K3$曲面の自己同型(向井、金銅、松木先生達との本の原稿、準備中)


13:30〜15:00 高橋篤史(京大数理研)「ミラー対称性入門」
(アブストラクト)
圏論的な立場からみたミラー対称性の解説をする予定です。
ミラー対称性により、シンプレクティック幾何学と複素幾何学という全く異なる数学が関係付けられることがわかります。
ミラー対称性の基本的アイデアとそれから得られる様々な「予想」を紹介したいと思います。
(参考文献)
こちらをご覧ください:
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~atsushi/references.html


15:30〜17:00 加藤文元(京大理)「リジッド幾何学超速成コース」
(アブストラクト)
Kontsevichによってミラー対称性にリジッド幾何学が応用される可能性が開かれました。まだ可能性ですが。でもなにしろKontsevichが言うくらいですから信憑性はあるのですよ。そもそもリジッド幾何学というのは例えばp-進体といった非アルキメデス的付値体上の幾何学で、すぐれて数論的な応用に長けているものだと思ってましたが、それがミラー対称性のような数理物理的な話に応用があるというのは非常に魅力的な話です。
そこで今回私は「リジッド幾何学超速成コース」と題して、主に何故ミラー対称性に応用出来るのか、というポイントを主軸にリジッド幾何学の基本的な考え方をお話ししようと思います。
(参考文献)
Kontsevich, M.; Soibelman, Y.: Affine structures and non-archimedean analytic spaces, preprint, math.AG/0406564
Fujiwara, K.; Kato, F.: Rigid Geometry and Applications, to appear in Advanced Studies in Pure Mathematics