夜も眠れなくなることをここにまとめておく. 素人の勘違いが含まれているかもしれない. ウソがあれば是非教えてください.
基礎と基礎付け
「ZFCと一階述語論理が数学の基礎だ」という言い方がしばしばなされるが,「ZFCと一階述語論理で数学は基礎付けられる」と言った方が誤解も反発も招かないだろう.
前者の基礎というのは,例えば位相空間論は数学の基礎だとか多様体論は幾何の基礎だというような使い方を連想させ,そうすると,別に私はZFCの公理系なんて知らないしそれで困ったことはないというようなよくある反発を招きがちで,実際,そういう意味では,ZFCは,集合論の研究者以外には,数学の基礎ではないだろう. 本当に伝えたいことは,現代数学を形式化したものはZFCと一階述語論理(と+α)の部分体系として記述できるだろうという経験則で,そのためには後者の言い回しがよいだろう.
渕野昌さんによる圏論と集合論を参照のこと.
集合ではないもの
全ての単元集合(singleton)からなる類は集合ではない.
全ての単元集合からなる類を$X$とする. $X$が集合であると仮定する. このとき,写像$f \colon P(X) \to X$を$A \mapsto \lbrace A \rbrace$と定めれば,$f$は単射である. しかし,Cantorの定理により,$P(X)$から$X$への単射は存在しない. よって,$X$は集合ではない.
全ての群からなる類は集合ではない.
全ての群からなる類が集合であると仮定する. このとき,その部分集合として,単位群と同型な全ての群の集合が存在する. ところで,任意の単元集合には単位群と同型な群の構造を与えることができる. しかし,全ての単元集合からなる類は集合ではない. よって,全ての群からなる類は集合ではない.
注:同様の議論によって,全てのベクトル空間からなる類なども集合ではないとわかる.
全ての集合からなる類は集合ではない.
対の公理から,任意の集合$x$に対して$\lbrace x \rbrace$は集合である.
基礎の公理とは,$\forall x \, \big\lbrack x \ne \emptyset \implies \exists y \, \lbrack y \in x \land y \cap x = \emptyset \rbrack \big\rbrack$のことであり,1925年にvon Neumannにより導入され,正則性公理や正礎性公理とも呼ばれる. さて,基礎の公理から,$\forall x \, \lbrack x \notin x \rbrack$である. 実際,空でない集合$x$が$x \in x$を充たすとすれば,$x \cap \lbrace x \rbrace$は$x$を含むので空集合ではなく,一般に$x$は$\lbrace x \rbrace$の唯一の元なので,基礎の公理に矛盾する.
全ての集合からなる類を$V$とする. $V$が集合であると仮定する. このとき,$V$の定義から,$V \in V$である. しかし,$\forall x \, \lbrack x \notin x \rbrack$であった. よって,$V$は集合ではない.
注:$V$が集合ではないことは,Russelの逆理と内包の公理からもわかる.
注:Mくんから教えてもらったのだが,$V$が集合ではないことは,対角線論法からもわかる: もしも$V$が集合であれば,$V$のベキ集合$P(V)$も集合の集合なので,$P(V) \subset V$である. よって,$\lvert P(V) \rvert \le \lvert V \rvert$である. ところが,Cantorの定理により,$\lvert V \rvert < \lvert P(V) \rvert$である. 矛盾.
全ての順序数からなる類は集合ではない.
参考文献
- Set theory for category theory
- メタ数学については,Kunenの数学基礎論の第3章が良いと教わった.