推薦図書

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多様体の基礎の周辺

志賀浩二「多様体論」岩波基礎数学選書 1990
日本語の多様体の教科書としてはこれが一番良いのではないか?
John Lee, Introduction to Smooth Manifolds Second edition, GTM 218, 2012.
配慮の行き届いた良い教科書.
Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, GTM 94, 1983.
定番の教科書.最近読み返したら,やっぱり良い教科書だった.
調和積分論の基礎まで含めて多様体の基礎ということ.
Stephen Bruce Sontz, Principal Bundles: The Classical Case, Springer Universitext, 2015.
なんと,まるまる一冊で主束のことだけを扱った教科書である.さすがに説明が丁寧で,しかも,なかなかおもしろい.
接続って何なのか頭が混乱したらさっくり読んでみるとよい.ただ,後半のゲージ理論の章は,まあ,読まなくてもよいでしょう.
斎藤毅「集合と位相」東京大学出版会 2009
位相空間論の教科書であって2019年現在の日本の書店で普通に手に入るものとしては,これがベストではないか.
現代数学の現場に乗り込んでいくときに役に立つような配慮が随所に見られる.
斎藤毅「線形代数の世界」東京大学出版会 2007
Riemann幾何を学ぶ前に,線型代数の基礎を確固たるものとしておくとよい.双線形形式やテンソル代数と外積代数など.
座標表示とは何なのかを抽象的に理解して,具体的記述と抽象的記述を自在に行き来できるようにしておく.

Riemann幾何と微分幾何

加須栄篤「リーマン幾何学」培風館 2001
Riemann幾何の基本的なことがよくまとまっている.
Sylvestre Gallot, Dominique Hulin, and Jacques Lafontaine, Riemannian Geometry Third edition, Springer 2004.
定番の教科書.
簡単でざっくりしてると見せかけて,実はいろいろ細かいことも書いてある.
Peter Petersen, Riemannian Geometry Third edition, GTM 171, 2016.
Riemann幾何の基本的なことがよくまとまっている.
ただし,少し癖がある気がする.
それぞれの版で構成がかなり違うが,最新版の第三版がおすすめ.
John Lee, Introduction to Riemannian manifolds Second edition, GTM 176, 2018.
Riemann幾何の基本的なことがよくまとまっている.
癖がなくて大変読みやすい.
第一版と第二版で完全に別物になっている.第一版に読む価値はない.第二版だけがおすすめである.
Michael E. Taylor, Differential Geometry.
解析の大家による微分幾何入門.
実際に計算するときに役立つことがいろいろ書いてある.
H. Blaine Lawson and Marie-Louise Michelsohn, Spin Geometry Second printing with errata sheet, Princeton, 1994.
定番の教科書.読んでてなかなかおもしろい.
指数定理の証明もなんだかんだで最初はこれを読めばいいのではないか.
今野宏「微分幾何学」東京大学出版 2013
無駄のない構成ですっきりと書かれている.
微分幾何学というか,大域解析学の基礎という感じの教科書.シンプレクティック幾何やゲージ理論など,いわゆる幾何の論文を読むためにはここに書いてあることを出発点とすれば良い.ただし,Riemann幾何については別の本を読まねばならない.
Freed-Uhlenbeckを読むための下準備としてはこれで十分.
Clifford Henry Taubes, Differential Geometry, Oxford, 2011.
端々におもしろいコメントはあるが,全体としては普通の教科書.
Bott先生の講義に影響を受けているらしい.
Freed-Uhlenbeckを読むための下準備としてはこれで十分.
Thomas H. Parker, Geometry Primer.
幾何解析や大域解析を指向した微分幾何入門.
普通は詳しく書かれていないけど実際に自分で何かをやるときに気になって仕方ないことが,いろいろ書かれている.
Freed-Uhlenbeckを読むための最低限の下準備としてはこれで充分かもしれない.

函数解析

Robert J. Zimmer, Essential Results of Functional Analysis, Chicago Lectures in Mathematics, 1990.
例えば,函数解析の知識は一通りある幾何学者が楕円型作用素のスペクトル分解の証明について夜中に急に気になって眠れなくなったとき,役立つ本.
非常に薄い.この本で勉強する教科書ではない.要領のよい実践的まとめ本.
第三章からいきなり読む人が多いと思うが,その冒頭のコンパクト作用素の定義に出てくる$E_1$とはBanach空間$E$の原点中心の単位球のこと.
J.J. Duistermaat and Johan A.C. Kolk, Distributions, Springer, 2010.
Melrose先生の講義の参考文献に”There is a book by Duistermaat and Kalka which is quite good.”とあったので読んでみた.確かに素晴らしい教科書だ.
例えば,Sobolev空間とか幾何解析のそれなりの素養はあるけど,実は学部生以来まともにFourier変換のことを勉強してないなと気付いたとき,読むのに最適な本.
第1章の多くの例は,流し読みでも以後に影響はない.ただし,例があっての一般論である.
前半の第2章から第11章までの説明のうまさは特筆すべきものがある.後半は説明の粒度が少し粗くなる気がする.
解答付きの問題は,問題文と解答を眺めると良い.
局所凸位相線型空間などは表には出てこないが,随所に配慮が見られる.
また,多様体も表には出てこないが,そこそこに配慮が見られる.
序文で,この本を読むにはLebesgue積分論は知らなくても平気だと強調されているが,やっぱり知ってる方が良いだろう.第20章のLebesgue積分のまとめは,うまい.

幾何解析

Simon Donaldson, Geometric Analysis and its supplements.
Donaldson先生による幾何解析の講義録.必読.
細かい間違いはたくさんあるが,全て直せる.
最後の章の山辺の問題の解説など,非常に示唆に富んでいる.
Arthur Jaffe and Clifford Taubes, Vortices and monopoles, Birkhäuser, 1980.
Taubes先生の博士論文.
Taubes先生のその後の論文のテクニックの萌芽が詰まっていて,しかも,わかりやすく解説されている.必読.
第一章は,I.1.の記号だけを確認して,残りは(物理が分かってる人は読んで,そうでない人は)読み飛ばす.
第二章は,大切だけど,最初は読み飛ばしてよい.
第三章と第四章で本気を出す.
第五章と第六章には幾何解析の神髄が!
Richard Schoen and Shing-Tung Yau, Lectures on Differential geometry, International Press, 1994.
巨匠の手による教科書.必読.
David Gilbarg and Neil S. Trudinger, Elliptic Partial Differential Equations of Second Order, Springer Classics in Mathematics, 2001.
幾何への応用が念頭に置かれた楕円型方程式の良い教科書.普通の幾何の楕円型方程式の基礎はこれで足りる.
必要なことは大体書かれているし,読んでてなかなかおもしろい.
要するに,Poisson方程式が全ての基本で,これを定量的に徹底的に調べて,あとは摂動論.
改訂されて内容が拡充されているので,図書館でハードカバー版を借りるときや電子書籍で読むときには注意のこと.
Michael Taylor, Partial Differential Equations I, II, III, Springer, 2011.
三巻本の分厚さに気圧されるが,なかなかたのしく読める.
随所に幾何への配慮が見られる.
Jacques Chazarain, Introduction to the theory of linear partial differential equations, Elsevier, 2000.
線型偏微分方程式と超局所解析への入門としては,これが一番読みやすかった.
Thierry Aubin, Some Nonlinear Problems in Riemannian Geometry, Springer Monographs in Mathematics, 1998.
実は第一版の薄いハードカバー版もすっきりしていて良い教科書なので,まずはそれを読むのがいいかもしれない.

複素幾何

小木曽啓示「代数曲線論」朝倉書店 2002
これは名著だ.
四年生セミナーで学生に読んでもらった.
Riemann面の射影埋め込み定理を目標とした無駄のない構成.
前半の伏線がどんどんと回収されていくので,読んでいて爽快感がある.
Riemann面の三種の神器など,適切なまとめがあり,頭が整理される.
文献解説も充実している.
修正可能なタイポが山のようにあるので勉強になる.褒め言葉.
ただし,肝心の調和関数の存在定理の証明は,幾何解析が好きな者には不満が残る.この教科書の手法を学んでも応用が効かないなど.
Raymond O. Wells, Differential Analysis on Complex Manifolds, GTM 65, 2008.
定番の教科書.小平埋込定理を目標とした無駄のない構成.
第三版になって,見た目がきれいになり,Hitchinの論文の解説の附録が加わったが,タイポも増えた.本文の内容は第二版も第三版も同じ.だから,本文は第二版で読んで,附録だけ第三版を使うのがよい.
ただ,擬微分作用素の説明が酷い.擬微分作用素は,結局,Kohn-NirenbergとHormanderを読むのが良いのではないか.
中島啓「非線形問題と複素幾何学」岩波書店 2008
これも名著だ.Kähler-Einstein計量の存在問題についての最良の教科書ではないか.
随所のコメントも参考になる.M渕先生の言葉は含蓄が深い.
$c_1 \le 0$のところは,Siuの教科書も一緒に読むとよいかもしれない.

位相幾何

Phillip Griffiths and John Morgan, Rational Homotopy Theory and Differential Forms, Springer Progress in Mathematics 16, 2013.
Sullivanの有理ホモトピー論の素晴らしい教科書.四年生のとき,M田先生とセミナーで読んで,M田先生に感化され,Sullivanの数学のファンになった.Sullivanの原論文のあまりの自由奔放さにもビビった.
スペクトル系列のまとめなど,前半も特筆すべきわかりやすさであり,ここだけでも読むべき価値がある.ただ,前半を読んだら,後半は読まずにはいられないだろう.
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Dover, 2007.
$h$-同境定理の証明と異種球面の分類を目標として,微分位相幾何の基本的なことは大体書いてある.
田村先生の教科書より,読みやすくて,きちんと書いてある.
$h$-同境定理の証明は,Milnorの教科書とは違って,Smaleと同じくハンドル体を用いて記述されている.
Smaleも全集第1巻のSome Retrospective Remarksで”For a fine detailed mathematical account close to my original spirit, I like the book Differential Manifolds by Antoni Kosinski, 1993, Academic Press.”と述べている.
Dover版では,いくつかの小さな修正が入り,附録にMorganによるPerelmanの仕事の解説が加わった.ただ,Morganの解説は別に要らなかったのではないか.

量子力学

並木美喜雄・位田正邦・豊田利幸・江沢洋・湯川秀樹「量子力学II」岩波書店 新装版 現代物理学の基礎 2011
江沢先生が書かれた「第VI部 量子力学の構造」が素晴らしい.
数学科で教育を受けた者が,量子力学を真面目に勉強しようと何冊も教科書を読んだのに,全然すっきりわかった気がしないとき,それがまさにこの本の第VI部を読むときだ.霧が晴れる.
Dirac先生の偉大さは十分承知しているが,正直言って,Dirac量子力学は全く私の趣味ではない.特に,ブラケット記法は数学者を混乱させると思う.だが,この江沢先生の解説の16.7.a節にあるGelfandの三つ組の解説を読めば,あとは自分で再構成できるようになるので,ちょっと溜飲が下がる.江沢先生による後書きではGelfandの三つ組については「まったく不十分な解説しかできなかった」とあるが,普通に緩増加超函数のことを知っていれば,これくらいのさらったした解説で十分だ.
経路積分の解説も今まで読んだ中で一番わかりやすいと思う.要するに何が困難なのかがよくわかる解説だ.無限次元空間の測度としてどこが困難なのか.
それにしても,もう21世紀なんだから,非有界自己共役作用素のスペクトル理論や超函数の理論は仮定して,完全に演繹的に書かれた有限自由度かつ非相対論的な量子力学の教科書があるべきと思う.
Albert Messiah, Quantum Mechanics, Dover, 2014.
いわゆる量子力学の教科書としてはこれが一番読みやすいのではないか.
原著はフランス語らしい.私は日本語版での第2巻までしか読んでいない.明倫館で第3巻が売っていなかったからだ.
朝永振一郎「量子力学I・量子力学II」みすず書房 1969・1997
私はこの本が大好きだ.
量子力学を学び始めたときにモヤモヤすることの答えが大体書かれている.理論の黎明期に徹底的にモヤモヤして考え抜いた人の本はスゴい.
普通の教科書の冒頭に書いてある量子力学の必要性みたいなものを読んで混乱するくらいなら,じっくり腰を据えて朝永先生の教科書を読む方が,結局は近道ではなかろうか.
もちろん「スピンはめぐる」もオススメだ.
Leon A. Takhtajan, Quantum Mechanics for Mathematicians, AMS Graduate Series in Mathematics 95, 2008.
数学者向けの量子力学と銘打つ本は多々あれど,結局,これが一番良いのではないか?
Faddeev-Yakubovskiiの続きを意識して書かれている.もちろんFaddeev-Yakubovskiiも名著だ.
正誤表も参照のこと.

統計力学

田崎晴明「統計力学」培風館 2008
これは名著だ.Perelmanの論文で統計力学に興味を抱いた数学者が,真面目に勉強しようとしたとき,最初に手に取る本としてふさわしい.
予備知識は多くない.量子力学については,普通のことを勉強したことがあれば,今は忘れていたとしても,この教科書の補足説明だけで足りる.熱力学を勉強したことがないと二巻は楽しめないかもしれない.
序文でのエルゴード仮説への批判が気になるかもしれないが,肝心のところの論理展開には関係ないことなので,全く気にしなくてよい.要するに,数学者としては,ミクロカノニカル分布を出発点とすればよいだけ.カノニカル分布の応用のところや熱力学的構造のところは本当におもしろい.つまり,ミクロカノニカル分布のところの4-1節まではさらっと読んで,カノニカル分布の導出の4-2節から本気を出して読む.この教科書についてはエルゴード仮説批判のところが一人歩きしているが,むしろ本当の特徴は普通の統計力学の内容が異常にわかりやすく書かれていることにある.
ただ,熱力学の教科書は定番のFermiか最近の清水明がよいのではないか.

場の理論

坂本眞人「場の量子論 不変性と自由場を中心にして」裳華房 2014
自由場の計算の細部が超丁寧に導出されている.
Peskin-Schroederを読み始めた数学者が,Fourier変換の濫用で,既に第2章の半ばくらいで心が折れそうになったとき,それがこの教科書を手に取るときだ.
この教科書では自由場だけを扱っていて,全てが数学的にきちんと正当化できるので,精神が安定する.そして,結局,何をどうやって計算しているのか,それがすごくよくわかるようになる.
言わずもがなの注だが,この教科書を読んだだけで場の量子論がわかったと思ってはいけない.
Reed-SimonかKazhdanでWightmanの公理系を勉強してから,この教科書を読んで,それからSrednickiやPeskin-Schroederを読み始めれば,数学者にも場の量子論がわか(った気になれ)る!

統計学

柳川堯「統計数学」近代科学社 1991
数学者が「統計学って最近流行ってるけどどんなことやってるのかなあ」と思ったとき,まずはこれを読めばよいのではないか.
世の中のほとんど全ての統計学の教科書は,たぶん,多くの数学者にはイライラして読みにくい.技術的には全然簡単なんだが,あまりに具体的に書かれすぎていて,結局何がやりたいのかの抽象的な枠組みが書かれていないからだ.そういうイライラした数学者は,統計的決定問題のWaldの定式化を見てみるとよい.そうすれば,なるほど,統計学がやりたいのはこういうことだったのかと合点がいって,統計学の本が読めるようになる.場の理論を勉強するときにWightmanの公理系を勉強して脳みそがスッキリするのと同じだ.
というわけで,まずはこの教科書の第7章の統計的決定問題のWaldの定式化を読むと良いだろう.特に7.2節.