実況 大統領選挙 (11/7,8/2000) |
今年は4年に一度の大統領選挙が行われる年である。
一年にも及ぶ選挙戦の末に国の最高責任者が選ばれるこの
選挙はまさにアメリカのビッグイベントである。候補者は
現テキサス州知事ブッシュ氏と現副大統領ゴア氏の事実上
一騎打ちで、メディアも直前までその雌雄を決することが
できないという状況で接戦になっている。結果はこの文章を
書いている内に決まることかと思う。現在は19時。ABCに
よると現在の得票数は(ゴア173,ブッシュ212)となって
いる。ややブッシュさんがリードしている。しかし、まだ大票田の
カリフォルニアやフロリダの状況がわからないので、結果は
なんとも言えない。270の得票で当選が決まる。
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さて、次の開票速報がでるまでに、大統領選に関連して
いくつか面白かったことを書きたいと思う。まず、大統領
選挙というと、大統領の選挙だけをしているように思えるが
実はそうではない。もちろん最大の関心事は大統領の選挙であ
るが、その他にも様々な選挙が同時に行われている。国政レベル
では上院議員の選挙を実施している。現大統領クリントンさんの
奥さんであるヒラリーさんのNYの上院選挙も今日である。またDistrict
Attoneyという法廷弁護人を選ぶのも今日。それから、前に書いた
州ごとの各種Propositionの賛成反対票を投じるのも今日である。
「決めることは今日一回の投票で全部決めたらええやんけ!」という
思想である。それにしても、一日でこれだけのことに対して投票をしなければならないという
のは実に骨の折れる作業だと思う。Caflisch先生に今日のことを
聞いてみたが、やはり投票には時間がかかるらしく、長い列が
出来ていたと嘆いおられた。投票用紙もマークシートのようなものが
配られ、それに穴を開けてチェックするという方式である。一枚で
すべての投票が済むようになっているが、慣れていない人からみれば
たいへん煩雑なような気がする。機械で集計するのか日本のように
人手で開票するのかそれはわからない。州によるのだろうか。
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選挙の日は11月7日と決まっている。これは歴史的な理由があって
昔はこの時期にだいたい農作業が終わって一段落して選挙を
する時間がとれるようになっているかららしい。今はもちろん形骸化
しているが、大切にこの日を選挙の日と決めている。ところで、
今日は火曜日である。日曜日ではない。日曜日でないからと言って
棄権する人もないということだろう。そもそもニュースで投票率など
という言葉すら耳にはしない。選挙に行くのは当然であって、何人が
投票に行ったかなどということには関心がないものと思える。
日曜でも行楽を優先させる日本とは違う。国全体が選挙
の日という事で、別に会社に気を使って仕事優先で選挙に行けないという
こともない。(不在者投票制度はもちろん存在する。正確な数字は忘れたが、
かなりの人が不在者投票をしていたようである。)我々のUCLAはもちろん
開店していた。講義が行われていたのかどうかは不明である。なんとなく学生が
少なかったような気がするのは、気のせいか。いずれにせよ選挙だからといって、
休みになるということはないらしい。
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共和党は今回こそ政権奪回を狙っているようで、本来保守的な基盤の強い
この政党にあって、今回は「思いやりのある保守」という政策スローガンを
掲げ主要政策には中道路線を標榜している。これは民主党が本来の改革的な
思想を保守中道よりに転換したことで勝利した4年前のクリントンさんの時を
思い起こさせる。また、以前ブッシュさんは外交に関するインタビューで確か
イランかどこかの元首は誰かと言われて「知らん」と答えたことのある人で
その外交手段に疑問が投げかけられていたが、それに対しては外交政策と防衛
政策に長けたチェイニーさんを副大統領に指名して弱みを補完した。
その結果、歴史的にみてもたいへん珍しい大接戦となっているのである。
今のアメリカの繁栄を作ったのは紛れもないクリントン政権であり、その副
大統領のゴアさんが断然有利かとおもったがそうではないらしい。ゴアさんは
ゴアさんでブッシュさんが中道を打ち出した一方で今回はやや左よりの政策
を打ち出した事も影響していると思われる。同じ中道を標榜しては
ブッシュさんとの争点が見えないということだろう。また前政権のクリントン政権は
万全の政権であったかというと、そうではなくて、例の不倫問題などもあって、
経済繁栄という結果が出ているから「認めてやってもいいが、完全に是認はしない」
というのが本当の所だろう。これでは副大統領という肩書きもあまり意味がない。
クリントンさんもゴアさんと現政権の関係がないということをしきりに演説で訴えて
いた。
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19時30分。現在ブッシュ217、ゴア173。
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日本でも最近では2大政党による政権交代を目指す向きもあるが、だいたい選挙をすると
あまり代わり映えのない政策がずらりと並ぶだけだし、違いと言っても非常に
テクニカルな所に終始しがちで、選挙民にはなかなか見えにくい。しかし、それは
別に日本の政党が意見がないのではなくて、「国民の要望にきちんと答えたらだいたい
同じような政策になりました。」ということなので、それはむしろ政策実現の方法論
にもっと特色を出していくしかなさそうである。もともとオール自民党の人が
別政党を作っているだけだから、基本思想は、あまり変わらないと思える。どちらかと
いうと日本の現状では共産vs非共産の方が2大政党性といった構図がはっきりして
くるように思えるが、それはまた非現実的な選択でもある。あえて日本にアメリカの
ような構図を持ち込むなら、江戸・明治時代の日本の伝統回帰を訴える「大江戸党」
と新しい感性で次々と伝統を打ち破る「Neo Japan党」が、出来て、その基本思想に
基づいて現実の政策を議論すると、同じ問題でも異なる政策が出て来て面白いかも
しれない。それは、さておいて、とは言ってもアメリカでもそれほど過激な意見が
出ているわけでもないのに、ちゃんと2大政党制となっている。にもかかわらず、
いつも選挙の度に政策が議論される。それは結構不思議な気がしたので、調べてみた。
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まず政策の争点であるが、「外交」「防衛」「教育」「福祉」「貿易」「税金」という
点は日本と同じ。日本ではほとんど問題にならない争点として「人工中絶」「人種優遇
政策」「同性愛者の権利」「銃規制」などがある。この内いくつかについて取り上げて
みようと思う。まず争点がはっきりしそうな問題としては、人工中絶がある。共和党は
基本的に反対だが母胎に危険がある場合、近親相姦での妊娠に限り中絶を認める
(この辺りが中道政策というのだろう)とある。民主党は中絶は基本的な女性の権利として
認める方針である。あと、アメリカと言えば銃の問題がある。これに対しては、共和党は
現行の法律による取り締まりを支持し、銃の登録制には反対している。一方民主党は、
ピストルの購入者には写真付きのIDを義務化して、銃の規制を厳しくすると主張している。
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今回の政策の中での一番の争点はなんといっても、このクリントン政権のもとで黒字に
転換した財政をどのように使うかという点にある。まず税制は共和党は一律所得税の減税
を打ち出し、民主党は中流層のための教育や引退資金などに対する減税だけを訴えている。
黒字財政を安易に減税という形で国民に還元するのを嫌っているようである。では民主党は
どこにお金をつぎ込もうとしているかというと、教育や福祉政策につぎ込むとしている。教育に
関しては私立学校への助成金(これは以前述べたクーポンだが)に賛成しているのが共和党
反対しているのは民主党である。民主党はお金を公立学校の教師の数を確保しその質を
向上させるために使おうとしている。財源の問題については、ブッシュさんは非常にわかりやすいキャッシュ政策をとっているようである。アメリカ人にとっては、もちろんキャッシュ政策の方が支持されやすいだろう。財政面ではブッシュさんが支持され、銃、中絶など倫理や宗教の絡む問題
ではゴアさんが支持されているようである。
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20時現在 ブッシュ217 ゴア231 カリフォルニアの票が開きゴアさんに流れる。
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後、日本に関係のありそうな外交政策に対しては、共和党は孤立主義と保護貿易は国内の混乱
を招き同盟国との関係を損ねるので反対。民主党は正義と公正な世界を作るために米国の
立場を大きくするとやや抽象的な表現になっている。クリントン政権の元で様々な保護貿易法案
が通っており、事実多くの左派の多数はWTOやNAFTAには反対しており、今の経済繁栄の
元でますますアメリカの立場を強くするために対日そして、これからは対中国に対してますます
経済的圧力がかけられるものと予測されている。ゴアさんはそういう行き過ぎを押さえるために
平等貿易を訴えているが、中道路線を標榜するブッシュさんとの対抗軸を発揮するために、これら
左派の主張を無視するわけにもいかず、難しい所である。
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20時18分 ブッシュ225 ゴア231。接戦である。今ヒラリーさんの勝利講演が放映されている。クリントン大統領は今度は嫁さんに食わしてもらうようだ。
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今、面白いニュースを目にした。LAの北にあるバーバンク市での住民投票の様子である。
それによるとバーバンクの空港の建設に賛成か反対かという投票が行われているようだ。
現在開票中でその行方はわからないが、日本の神戸空港や琵琶湖空港は住民の大きな反対があるの
に実行され、吉野川可動堰は住民投票で否決されても未だ中止されていない。
やはり地域の事は地域が決めたい。自治省もそこへ踏み込まねば、いつまでも弱小省庁であろう。
(今年の省庁再編ではどうなるんだっけ?)
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20時39分 ブッシュ233 ゴア231。大票田を抱える都市部で強いゴアさんは、勝利した州
の数は少ない。一方で勝利した州の多いのがブッシュさん。しかし、田舎が多いのでこつこつと票を
稼いでいるという状況である。後、開いていないところで、大票田はフロリダの25,ワシントンの11である。残りの票は76。いろいろなアナリシスがテレビでなされているが、まだまだ勝利が
どちらに行くのかわからない状況である。フロリダを取ると、大きな前進であるが、他の票の行方も
誤差とは言えない。
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20時53分。
カリフォルニア州の住民投票、Prop 38の結果が出た。「反対」である。内容は私立学校への
4000ドルの助成金クーポンの支給の是非を問うものである。少数者の受益のために
大多数の財源削減になりかねないような政策には賛成できないということだろう。そもそもこの
Propositionは誰が提出するのだろうか。Caflisch先生に聞いてみると、基本的にはある程度の
署名を集めて提出すればいいらしい。もちろん草の根的に署名が集まることもあるが、だいたいは
ある種の団体が署名を集めて提案するらしい。この38もおそらくは私立学校が組織して作る団体
が提出した物だろうということ。Caflisch先生は反対したそうだ。
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21時。アラスカの票が開いた。ブッシュさんである。これでブッシュ236,ゴア231。
アラスカは広いので開票が遅れるかと予測していたが、それ以上に人口が少なかったらしい。
日本と同じように各テレビ局は総力取材(Team Coverage)でこの選挙のことを報じている。
これまた日本と同じように、出口調査の取材や、政治アナリストが登場し、画面の下にはブッシュ
何票、ゴア何票というキャプションが入っている。時折、ネタが切れるとブッシュさんやゴアさんの
選挙本部のようなところ(テキサスとテネシー)が映し出されて、そこに集まった支持者の興奮が
伝えられる。何もかもが日本とよく似ている。どっちがオリジナルかはわからないけが。
いや、読売の「選挙&ナイター」のような番組ないことを思うと日本の方が進んでいるのかも
しれない。逆に選挙の結果とナイターの結果を同列に扱うという日本の特徴なのかもしれない。
今の時点ではやはりフロリダの票がどちらへ流れるかが大きな問題で、それが頻繁に論じられている。現段階ではブッシュさんが一歩リードであるが、まだ都市部の票が空ききっていないのが予測を
難しくしているようである。おっと、アーカンソーが開いた。ブッシュさんである。これで242と
231。おお、ワシントンが開いたこっちはゴアさんだ。これで242と242タイである。
こつこつ票を稼いでいるブッシュさんだが大きな票を持つ州でゴアさんが獲得して、追いつくと言う
構図。票を獲得した州を色分けしてみると圧倒的にブッシュさんだが、票は同じである。残る州は
あと5つ。
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21時23分。しばらく票が開きそうにないので、選挙戦のことを少し。まず大統領選はいわゆる
大選挙区選挙である。であるからして、候補者はアメリカ国内をくまなく遊説しなければならない。
私の住むWestwoodにもゴアさんが来た。その次の日の朝はフロリダにゴアさんはいた。ゴアさんも
ブッシュさんも一日で全米の各州の各都市を時間刻みで回っている。実にタフな人々である。タフな上
にお金もかかっていることだろう。こんなことは2大政党にしかできない。他の候補者(もちろん他の
候補者もいる)は2人いるが、緑の党のネーダーさんやブキャナンさんはテレビCMだけ
での選挙戦という印象だった。もちろんゴア・ブッシュともにテレビCMをばんばん流しているし
その量に至っては、他の二人の追随を許さない。最近の選挙ではいわゆる「Negative Action」つまり
相手の欠点をがんがん宣伝するということが問題になっているが、今回もそういう宣伝はたくさん
見た。それどころか上院議員やDistrict Attoneyに至るまで相手の在期中の仕事がいかに悪いかと
いうことを必死に訴えていた。コマーシャルも相手の欠点だけを大々的に広告するものから、少し
相手のことを落としておいて、自分がテレビに登場して自分の主張をする広告まで様々である。
一人で何種類かの広告を持つのが普通である。数に規制があるのかどうかは知らない。とにかくなんでもなりふり構わないというところがある。ただ、それでも相手の仕事に対する非難はしても、相手の
プライベートには突っ込まないようで、選挙の数日前にブッシュさんの24年前の飲酒運転での
逮捕が明るみにでたが、ゴアさんはあまりそれを言及しなかった。ひねくれて見れば、ゴア陣営が
そのネタをリークしておいて、あえて寛容な態度を見せて有権者への印象をあげようという戦略かも
しれない。有権者もあまりそのことは気にしていないようだった。日本の某M総理大臣の買春疑惑が
問題になっているが、それが事実だとしたらどのような反応がでるのだろうか。そもそもMさんはその
自叙伝めいたものでも明らかにしているように、実にやくざな人生を送ってきた人なので、
それぐらいの犯罪歴はあっても当然であって、むしろそういう人を党首にしている自民党の方に
問題があると思うが、どうだろうか。
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22時。なにも起こらない。暇である。お茶でも飲もう。
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22時32分。ようやく票が動いた。ブッシュさんが4票を確保246。ゴア242。もしフロリダ
がブッシュさんなら勝利確定だが、まだしばらくは結果は出ないだろう。大統領選の票が開いた州
では今度は上院議員の票が開き始めている。
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23時22分。ブッシュ大統領の誕生である。どうやらフロリダの票を獲得したようである。271と242。長い長い選挙戦はこれで終了した。現在オースティンは大騒ぎである。共和党政権の久しぶり
の誕生だ。しかし、これほどまでの接戦も歴史的だと言えるだろう。私もようやく眠れる。おやすみ
なさい。みなさん。
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ZZZZZ........
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次の日朝7時。起きてテレビを見ると、ブッシュさんの勝利宣言はまだ行われていない
ことがわかる。フロリダ州の得票があまりに僅差であるためにゴア陣営が不在者
投票の得票も含めて数え直しを要求したらしい。日本でも誤報されたと思うが
当初フロリダは3台ネットワークそろって、開票一時間後にゴアさんの獲得を
予測していたが、その後、取り消されたという経緯がある。それほどフロリダ
が大接線だったということである。テレビでは現在、ゴア260、ブッシュ
246と出ている。ん?数が足らんな。フロリダだけではないようだ。
オレゴンもまだ確定していない。ここまで、接戦だとメディアの統計を駆使した
票予測も全く意味がなくなるのだろう。数え直す前に報告されているフロリダでの得票
数の差が、なんとたったの1785票である。また、全得票数ではゴアさんがブッシュ
さんを上回っている。フロリダの数え直しが終わらない限り結果は確定しないだろう
から、もうテレビもただその結果を待っているだけである。
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朝8時。これから準備をして妻を空港まで迎えに行かなければならない。
帰って来るまでには結果が出ていると思うが。実況HPはまだ続く。
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