電子投票 (5/20/2001) |
先日UCLAの学部学生自治会の会長と役員を選ぶ選挙が行われた。
私のような外部者にとっては、その結果を評価する材料はないが、一つだけ
目を惹いたことがあった。それはこの選挙をインターネットによる電子
選挙で実施しようという運動が選挙前に起こったことである。結論から先に
言うと、推進派と慎重派の間にいろいろと政治闘争があった末に、今回の選
挙は例年通り投票所に行って紙に記名する投票方式が採用された。今回はその一連
の動きについて書くことにする。 |
そもそも電子選挙を導入しようと言う機運が高まるきっかけとなって
いるのは、なんのことはない、単に最近の自治会選挙の投票率の低下が深刻
になっていることよる。個人的には、平和な時代はどこもよく似た問題を抱える
ものだという印象を受けるのだが、UCLAでも過去5年で平均して20%程
の投票しかなく、有権者の大学自治への無関心が問題になっていたわけである。
そこで、低下した投票率を少しでも上げる為に、在宅しながらネットを通して投
票をするという方策が提案されたという訳である。選挙に手軽に参加できるので
高投票率が期待できるということと、一つは目新しさもあって、魅力的な解決
方法の一つとして浮上してきたのだ。しかし、一般にそういった提案は日の目
を見ない事が多い。理由は選挙の公正さを維持する上での安全性の問題がある
からである。したがって、ここでも旧自治会の中でこの案件に関して賛成派と
慎重派が構成され活発な議論が行われたものの、全般的な雰囲気としては、この
手の新しい方法の提案は安全性と機密性を理由に却下されるかに思われた。 |
しかし、そこは優秀な頭脳を要する大学のこと、推進派の学生もその問題
をクリアするための方策を打ち出した。電子投票をHPの上から行おうという
ものである...とだけ書けば陳腐なアイデアに過ぎないようだが、彼らの
計画はUCLAの特徴を活かして巧みに練られたものであった。前にも少し
書いたが、UCLAはすべての教員学生、関係者にBruin Cardと呼ばれる顔写真
つきのIDカードを発行する。そのカードには所有者固有の番号が振られており、
大学で個人の識別を行う時はその番号が利用されている。これを使って、HPか
ら投票す際の有権者認証を行えば、他人になりすまして複数の投票を行うことを
防ぐことが出来るというわけである。一方、UCLAでは学部学生のために
MyUCLA.comというサーバーを管理している。このHPを使って、学生は普段から
今の自分の成績確認や授業の情報、それから宿題の提出などの学務の多くをこな
している。推進派はこのHPに目をつけたのである。なぜかというと、このHP
には多くの個人情報が含まれており、そのログイン認証は個人の責任の下で厳重
に行われている、そのログイン認証と同じステップで選挙の認証も行う事にした
のである。自分の成績を見られるかも知れないと思えば安易に自分のIDの
番号やパスワードを他人に教えたりはしないだろうし、普段から利用している
HPであるから、選挙をHP利用のついでに行う事も可能になるというわけである。
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結構うまく考えた物であるが、それでも慎重派から誰かがサーバーに無断ア
クセスして選挙のデータそのものを書き換えたらどうするという反論があったため
に、電子選挙はこの時点でもまだ実効性に疑問がなげかけられていた。しかし、
その効果が示される機会が去年にやってきたのである。それは自治会のある役員
が事情により自治会を抜ける事になり、その補欠選挙が行われた時のことである。
自治会は山積する仕事を中断して選挙の為の準備をすることが出来ないとの理由で
この選挙に限り電子選挙での選挙の実施を暫定的に認めたのである。その結果は、
特に大きなトラブルもなく終了し、そして投票率もぐっとアップして推進派の思
惑通りの効果を生んだ。 |
この結果は少なからずUCLAの他の団体にも影響を与えた。学生自治会より
もっと深刻な投票率の低下のために、選挙で選ばれ何らかの政策を施しても信任に
必要な得票すら獲得できてず、もはや何の存在価値を失い欠けていた大学院学生自
治会がこれに目をつけたのである。彼らは今年の自治会選挙を電子選挙で実施した。
そして結果は例年にない得票率を獲得(といっても8%の投票率が20%近くになっ
たというだけだが)することになり、自治会としての活動を機能的に再開できるメド
を立たせることに成功したのである。この結果を受けて推進派は俄然自信を深め、
今回の自治会選挙は電子投票による投票も認め得られる物と予測したのだが、
結局最終的には否決されることになった。その裏にはあまりよろしくない多数派工作
なんかもあったりしたらしいが今回は慎重派の意見が採用されたのである。 |
回りを見舞わして見ると、現在UCのいくつかの大学では電子選挙が行われ
ているが、まだLAとBerkeleyの二大校では実施されていない。しかし、推進派
と反対派ではなく推進派と慎重派に分かれての議論であるから、電子選挙そのも
のを否定することはない。だから、いずれ時期が来れば電子選挙が実施される日も
近いだろう。私は電子選挙が行われる事については、十分議論がつくされてるので
あれば、コスト減や集計の簡便性の面から悪くない方法だと思う。しかし、投票率
がそれで上がったとしてもそれは目新しさから来る一時の現象にすぎないのではな
いかとも思っている。本質的な問題は選挙の投票方法ではなく、選挙への無関心を
生んでいる他の要因にあると考えられ、それをどう特定し、どう解決して行くかと
いうことが大切だと思う。 |