電力危機 (1/18/2001) |
おそらく日本でも話題になっていると思うが、カリフォルニアの電気事情は現在
最悪の状況に向かいつつある。昨日、サンホゼやシリコンバレーを中心にした北
カリフォルニアの地域が約一時間半あまりにわたってrotating blackout(計画停電)が
実施された。この電力不足は今後半年は続くものとみられている。原因は要するに電力
を配送する民間会社が経営困難に陥って、安定に電力の供給が出来なくなったこと
による。これらの会社の破産は必至と見られている。昨日カリフォルニア州政府は
電力の一括購入を宣言し、安定な電力供給を約束したために、とりあえず危機的な
状況は脱した。が、街の雑貨屋では懐中電灯や自家発電気機などを買いに来る客が
増え、品薄になっているらしい。さながらかつての日本の石油危機のような状況を
呈している。 |
日本人である私には今回の事件の経緯がよくわからなかったので、調べて
みると、全てはクリントン政権のとった「自由化政策」に通じることがわかった。
クリントン政権は多くの産業分野に市場原理を導入し、それに基づいた民営化
などの政策をとった。その時に重点的に行われた分野が情報分野と電力分野である。
まず、情報分野はインターネット事業の急速的な普及にともなって、非常な発展を遂げ
アメリカ経済の牽引役となったことは言うまでもない。その中心がシリコンバレー
を中心とするカリフォルニア州である。その結果、カリフォルニア州における電力
需要は急速に伸び( その伸び率は全米平均の2倍以上、シリコンバレーだけに
限って見れば5倍の伸びとなっている)を記録しており、電力生産と供給のバランスに
齟齬が起こっている。この電力の慢性的な不足状態がここ数年続いたことが
今回の事件の背景にある。次に、電力分野だがこちらも電力の生産と配電などの
事業を分割して民営化し、新規参入を募ったわけであるが、こちらはそもそも
基幹産業でコンスタントな収益が望めるものの、設備投資が
莫大になるということも敬遠され、政府の思惑通りに自由化が進まなかった。
実際に電力不足であるにもかかわらず、発電所は他州に転売されたり、コスト
抑制のために新規発電所建設が進んでいなかったりしている。
それだけなら、何の問題もないのだが、今回の場合、民間会社が持つ電気の
小売価格の設定が自由化によって、むしろ自由化以前のレベルを大きく越える
ことが許されなくなったことが問題になったのである。しかし、石油の値段は
ここ数年急騰しており発電コストは大きくかかっているのに、小売価格が低く
制限されているという事態になり、結局その差額を会社の債券や設備投資費や
人件費の軽減によって賄う事となったのである。つまり、電気が売れれば売れ
る程損をするという構造が長年続いたのである。そして、とどめの一撃が、格付
け機関による債務不履行という判断であった。一気に債券による資金調達がで
きなくなり、そして不渡り倒産という形になっているわけである。 |
誰が今回の問題の責任を持つのだろうか。今回のケースがうまくいかなかった
理由を考えてみる。政府の誤算は企業の新規参入がなかったことになるだろうが、
それが今回の問題だろうか? それはちょっと無理な気もする。仮に新規参入が
なければ、それは一社独占状態になるので、却って儲かりそうな気もする。
それでは電力供給の不足だろうか?それも問題ではない。電力供給が不足すれば
電気代が上がって、それで利用が抑えられるからだ。やはり、
私が思うに、それは電力の仕入れ価格と小売価格に生じた逆鞘を解消できなかった
ところにあると思う。まず仕入れ価格が高騰したら電力小売価格が高騰するのは
当然である。その高騰の程度を適度に抑えるのが競争に基づく市場原理であって、
値段の価格設定に完全な自由がないのであれば、市場原理などを導入する必要など
ないと思う。だから、今回の問題の大きなポイントは電力価格の設定にあるはずで
ある。ではなぜ、価格設定が自由にできなかったのだろうか? 今回の場合、電力
配送会社は悪化する経営状態を改善するために最大30%、そして今後2年間で
76%の料金の値上げを考えた。しかし、そこでカリフォルニア公益事業委員会が
「個人向けで7%、企業向けで15%」の値上げを90日の間だけ認めるという措置を
出したのである。どうやら問題はここにありそうだ。本来価格の設定は市場原理に
基づくのが自由化なのであり、電力需要と電力供給のコストのバランスで
値段が変動しなければならない。それが、公益性の高い電気事業だからと
いって、価格の設定にこうした委員会のような政府機関が介入すれば、そりゃ企業は
やってはいけなくなる。「自由に値段があがったら、電気を使えない人が出て来る
ではないか? 」そう思うなら、そういう公益事業を自由化などすべきではない。
税金というコストの中から国民負担という形でその安定供給を目指すのが道理
であろう。結局、今回は州が電力を一括買い取りで安く卸すという措置をとり
そうである。(それなら自由化以前の状況と同じである) |
さて、日本の新聞のHPの記事を読んで見たが、どの新聞も今回の原因を
電力生産の不足や施設の老朽化などを原因と見ている論調が目立つ。あとは
いつもの現地リポートと称する、被害者の声を集めたものばかり。そして
日本の政府も「日本は電力が年間最大需要ピークより10%の余剰電力
を抱えているから大丈夫」などといったスカタンなコメントをしている。
日本も電力の自由化を進めているようだが、アメリカをモデルにしている
らしい。それなら、そのような余剰電力のことが問題なのではなく、公益
事業であると言う観点からくる「価格設定の自由性」の問題を議論する
べきであり、許認可制度についての日本のこれまでのやりかたを考えると、
きっと値段の設定には大きな「足枷」がつくはずで、それをいかに撤廃して
いくかを考えなければ日本でも同じような状況が起こりうるのである。 |
また、最近、日本でもいろいろな公共の事業を市場原理に基づく自由競争
を導入すべきだという話があちこちにある。そこには自由競争すれば値段や
コストは安くなるという考えが根底にある。しかし、市場原理で動かせば、
値段は下がる事も上がる事もあるということを覚えておかなければならない。
あたりまえのことだが、あたりまえを忘れた時、災難はおこるのである。
公益性の高い水道や電気などを自由化してはたして我々のためになるのか?
それは冷静に考えてみなければ、結局は国民がそのつけを負担することになる
かもしれない。私事ながら国立大学の独立行政法人化はやってしまえば
確実に授業料の値上げに繋がる。少なくとも現在の私立大学のレベルには
なるだろう。これは自由化による競争原理でコストが抑えられても、全体的
なコストは決まっているから、今より高くなるからだ。しかも、大学の「商品」は
学生であるわけだが、その学生に「値段」をつけられるはずなどないから、小売商品
の値段が0となれば、ますますコストは授業料に跳ね返る。世界に通用する
優れた研究者を集めようとすれば、当然コストが高くならざるをえない。
世界に通用する東大や京大の先生がこの現在のような低いコストで提供されてい
るのは、現在のように政府がつまり国民が大学に税金という形で負担している事
によることを忘れてはならない。
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ちなみに私の住むLAはDepartment of Water and Power
という市の部署が電気を生産配送しているらしいので、今回の事態に対しては
まだ余裕がある....らしいが、何が起こっても不思議ではない最低品質保証の
ない国のことである、いつ停電が起こってもおかしくはないと考えて準備は
している。 |