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講演内容アブストラクト
1.ユークリッド(エウクレイデス)『原論』の整数論
 斎藤 憲




   ユークリッド『原論』は,その一部が四百年前に中国語訳されたときに『幾何原本』という名前が与えられたように,主に幾何学を扱います.しかし第七巻から第九巻には約百個の整数論の命題があります.中でも「素数は無数にある」(IX.20)や,完全数に関する定理(pが素数なら2^( p - 1)×(2^ p - 1) は完全数)(IX.36)は有名です.しかし,これらの美しい定理に至る命題の積み重ねを検討していくと,これらの定理はむしろ追加的な部分です.その議論の組み立ては時として稚拙で,素因数分解という一般的概念を見いだすのは困難です.もしかしたら後世の追加かもしれません.
   『原論』の整数論で最も完成度が高い理論は「同じ比を持つ2数で最小のもの」に関するもので,それは音楽論における音程(オクターブ=1:2,5度=2:3,4度=3:4,全音=8:9など)の比を二等分することが不可能である,という定理の基礎をなしています.これこそが『原論』の整数論の本来の目的であったと思われます.
   『原論』の整数論の命題を素直に読めばこのような事態は明らかなのですが,読者や研究者は,現代の初等整数論を無意識に『原論』に読み込んで,それに対応する議論のみを重視してきました.後知恵を排して,『原論』の整数論の本来の姿を探っていきます.
2.数学の深い学びに繋がる授業や問題作り活動の在り方とその評価 ―数学III微分積分法における実践事例を通して―
 田中 紀子

   本発表における問題作り活動とは, 『学習した知識・技能を活用して生徒が問題を作りポスターにまとめて発表し, 互いに評価する協働学習活動』で, 4年前から取り組んでいる. 特に育成されるものは @数学の楽しみ A内容活用力 B評価の視点 と考え, 日常や自然と絡めた問題や創造性が感じられる問題をよい作品としており, 数学の求値問題や証明問題などとは評価の観点が異なる. また義務教育で事例の多い原問題の数値変更による問題づくりとの違いは自由性と評価(教員評価・生徒の自己評価・相互評価のルーブリックによる実施)にある.
   2017年7月に, 高等学校数学。の微分積分分野で「問題作り」を行った際, 日常と関連する多彩な問題が創り出された. 微分積分学は主に物理現象を表す数学として使われることが多いが, トマトの体積をカージオイドを回転させて求めたり, ポンデリングというドーナツの体積を近似してみたり, NASAの宇宙船の軌道を測定(架空)したりといった, 自由な発想による興味深い問題が多く含まれた. 生徒は「既習の数学を自然や日常に当てはめる(既習の数学を通して自然や日常を捉える)」ことで問題作りを行っていると考えられ通常の数学的モデル化とは逆の流れではないかと捉えている.
   筆者は問題作り活動を意識した授業展開と問題作り活動そのものが, 深い学びへ繋がると考えている. 最近の実践事例とともにSS科学部数学班の指導事例(ICME13における発表内容等)についてもご報告したい.