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講演内容アブストラクト
1.なぜ数学を学ぶのか?  ー学ぶべき数学的知識の本質から考え直す大学の数学教育ー

 川添 充


   統計学や数学の応用が様々な分野で重要になってきている現在、国際的にも数学を専門としない学生向けの数学教育の重要性がこれまで以上に強く認識されてきている。ここで主要な目標の1つとなるのが、数学を現実世界での課題解決に応用する力の育成である。この点に関して日本では、数学と現実世界との結びつきの認識がほとんどなく、数学外の文脈で数学を活用する能力が乏しいことが様々な調査から明らかにされており、大学での数学教育に数学的リテラシー教育の観点を取り入れることの重要性が指摘されている。
   講演者の所属する大学では、2012年度から文系学生に数学を必修化したが、このために新しく開発した数学の授業は、現実世界で数学を活用する能力の育成を中心的目標に据えたコースとして設計されている。講演者はこの授業の設計に携わる中で、なぜ数学を学ぶことが大事なのか、という根本的な問いに向き合うことになった。学生たちが進むであろう専門分野や卒業後の人生における数学との関わりも視野に入れて、彼らが学ぶべき数学は何か、どんな数学的能力を身につけるべきなのかを深く掘り下げて検討し、また、数列・ベクトル・行列・関数といった個々の数学的知識についても、それらは何のためにあるのか、それらの知識の本質は何か、本質を伝えるのにふさわしい具体的な題材は何かを1つ1つ詳しく検討して授業を作り上げた。
   講演では、大学数学教育の国内外の研究動向とともに、上記授業の開発も含めた講演者の大学数学教育に関する取り組みの具体例を紹介し、これからの大学での数学教育、とくに教養教育・基礎教育としての数学教育のあり方を皆さんといっしょに考えたい。
2.平行四辺形となるための条件に関する教材研究 ー高校での論証概念の深まりのための教材としてー
 濱中 裕明

   中学校では証明のしくみの理解や証明の書き方に重点をおいた論証指導がなされる.中等教育を一貫した論証指導を考えていくとき,その理解のうえに立って,さらに論証学習を漸進させていく必要がある.
   特に高校1年では,必要条件・十分条件や背理法・対偶といった論証そのものに関わる概念を学習するが,こうした概念は数学的対象の考察,というよりも「考察のための概念」というメタな概念であり,その存在理由が消失しがちである.また,背理法では高校で扱う題材が無理数性など中学校での論証の題材と不連続なものが多く,背理法は何か中学校の論証とは違う世界のものという印象を与えてしまいかねない.
   そこで本講演では,中等教育全体を通した論証指導の視点から,平行四辺形となるための条件に関する真偽判断を教材として検討する.そうした真偽判断の数学的活動において,言明が真であることを証明する,偽を示すべく反例を求める,という2つの思考の間を往還するような考察を促すことで,言明の全称性を意識させ,反例を論理的に構成したり,背理法を生み出したりする思考を引き出しうることを示した.こうした活動は,証明という思考活動に必要性を与えるものであると同時に,中等教育における論証学習の漸進性に沿うものであると考えられる.また,今回はそのような活動を取り入れた高校での実践についても,紹介したい.