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講演内容アブストラクト
1.医学・薬学の実例に基づいた「資料の活用」と「データの分析」の考察
 吉村 功


   現在の数学の指導要領では,統計に関して,要約統計量の計算というような数式・数値計算,あるいは要約統計量の数学的性質の吟味・検討だけでなく,その結果を現実社会で活用すること,を教育目標としています.
   関数関係や図形の性質については,従来から現実での利用がわかりやすく例示されていました.ところが従来の数学教育での統計の扱い方は,議論が確率の計算に偏っていて,データに含まれている情報を要約して実際問題の解決に利用する,という視点が欠けていました.それは数学でなく社会や理科の問題だとしていたのです.これに対して現指導要領は,これを数学の問題としました.
   これについて数学の先生方が戸惑っているのは,活用とはどういうことか,なぜそれが重要なのか,なぜそれを数学で扱うのか,実感できていないことでしょう.
   そこで私は,近年深く関わってきた医学・薬学分野での実例(公表されているデータ)を用いて,データ解析(資料の活用,データの分析)ではどのようなことが重要か,それを数学で扱おうという方針はなぜ生まれたか,論じます.
   焦点は,データが同じでも,整理・要約の仕方によって見かけ上は違った結論が出るので,そのどれが現実問題の真の姿・情報を反映しているか見極めることです.そのためにどこに目をつけるべきか,なぜそれを数学の課題とするのか,実例に基づいて説明しようと思います.
   実例として取り上げるものは現在検討中ですが,一つとしては,2年ほど前に世間で話題になったディオバンという薬の効果を調べる臨床試験を考えています.時間があったら,子宮頸がんワクチンの調査データや特定保健用食品のヒト試験についても触れます.
2.数学史に学ぶ教材研究の視点

 上垣 渉

   初等中等教育における算数・数学の授業は確実なる数学の知識・技法等に支えられ,そして児童・生徒の発達段階や生活環境,学習形態など種々の観点を考慮しながら組み立てられなければならないが,その中心に位置するのは教材群であり,この教材群に関する綿密な研究すなわち教材研究によって授業の成否は大きく左右される。そして,実際の授業において第一に重要なことは「いかにして,わかりやすい説明ができるか」という側面である。これを児童・生徒の側から言えば「子どもはいかにしてより良く,より深く理解できるか」ということになる。
   この問題に対する1つの迫り方として数学史がある。つまり,人間は自然界の観察から数学的内容を抽出し,それを理解・咀嚼して,1つの文化形態として積み上げてきたのかを知ることによって,算数・数学授業における説明と理解に関する知見を得ることができると思う。また,数学的内容は素朴な段階から次第に高度な段階へと発展させられてきたが,それは歴史的に見てどのようになされたのかを知ることは算数・数学授業の組み立て方に示唆を与えてくれるものと考える。
   以上のような立場に立って,古代から中世にかけての数学の歴史的発展の中から現在の算数・数学授業に関わる教材研究の視点を探し求めたい。これに関連して取り上げる予定の内容はギリシアにおける証明概念,中国におけるモデル概念,和算における問題の発展などである。