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講演内容アブストラクト
1.数学における相対性と相補性
 大沢 健夫


 「相対性」と「相補性」は本来は理論物理における考え方です。前者は物理法則として座標系の取り方によらないものを要請するという考えで、後者は一面の真理を詳しく知るためには他面の真理を犠牲にしなければならないという、哲学的な、しかしハイゼンベルクの不確定性原理に代表される現実の物理学の原理です。
 数学でもこれらに似た考え方があります。例えばユークリッド幾何と非ユークリッド幾何が両立するといったとき、そこには三角形の概念が両方の幾何学に共通であることが暗に含まれていますし、一つの関数を周波数の異なる基本的な波の合成として正確に表すことと、各点における関数値のデータを正確に揃えることは、上の(哲学的な)意味で相補的な手続きといえます。  この2つの例は双曲幾何と関数論の話題ですが、今年没後100年を迎えたフランスの大数学者ポアンカレの研究は、双曲幾何と楕円関数に導かれたと言われます。この2つの「アリアドネの糸」に導かれ、ポアンカレは迷宮から抜け出して現代数学の基盤であるトポロジーの分野を基礎づけ、新たに力学系の分野を切り開いたのでした。
 講演ではまず「相対性」に関して、ポアンカレの名著「科学と方法」の数節、たとえば(物理的)空間が3次元である理由について論じた部分を紹介しながら、数学、とくに幾何学に対するポアンカレの思想を味わってみます。また、「相補性」に関しては関連する複素関数論の話題(特に補間理論)を紹介します。
2.『数学活用』という教科書
 根上 生也


 平成24年度から実施されている新学習指導要領の高校数学には「数学活用」という新しい科目が登場しました。かつての「数学基礎」と似ているところもありますが,カリキュラムにおける位置づけがかなり異なります。
 数学活用では,人類史の中でどのように数学が発展してきたのか,現代の人間社会の中でどのように役に立っているのか,そして,遊びの中の数学やいろいろな表現方法を活用した数学的な考え方など,従来の数学の勉強方法にはこだわらず,どのように個々人が数学と向き合えばよいのかなどを学ぶことになっています。今年の3月には検定が終わり,現在は教科書の見本本が世間に出回っていますが,マスコミでは「数学活用は需要がなく,教科書は2社しか出版しない」と報道されています。おそらく受験とは関係しないから,どの高校も履修をしないだろうということでしょう。
 しかし,本当に需要はないのでしょうか。実は,私はその2社のうちの1社である啓林館から出版される『数学活用』の編集委員長を務めました。その教科書はいったいどのようなものなのか,どのような精神で編集をしたのか,そして,その教科書に対してどのようなニーズがあるのか,高校でどのように利用するとよいのか,本当に大学入試と関係ないのかなど,現時点で明らかになっていることをお話したいと思います。