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講演内容アブストラクト
1.「解伏題之法(天和三年重訂)」の行列式と「大成算経」の行列式について
 真島 秀行


 江戸時代の初めに日用計算やパズル的な要素の問題を含んだ『塵劫記』が出版され算術が普及した。その後,遺題12問を含んだものを刊行してから「遺題継承」が繰り返され,問題はより高度になり,多元高次連立方程式系を扱う必要のある沢口一之の「古今算法記」の遺題に至る。関(新助)孝和は,これを扱い,さらに一般的に,多元高次連立方程式系から未知数を一つずつ消去して最終的に1個の未知数の方程式に帰着する方法を得ている。そしてこの過程で,今日では行列式と呼ばれるものを導入している。
 それについて関(新助)孝和が関わって書かれているのは,「解伏題之法」(天和癸亥重陽日重訂書)と「大成算軽巻十七」である。両書を比較検討し,関孝和の行列式に関する講演者の見解を述べる。
 「解伏題之法」(天和癸亥重陽日重訂書)は行列式について世界的にみても最も早い論考で関孝和編とされている。一方,関孝和,建部賢弘,建部賢明が天和三年に編集を計画し,元禄時代の中年に「算法大成十二巻」として作られ,元禄十四年以降の10年間に建部賢明が詳しく註を付して一応の完成を見たのが「大成算経二十巻」である。その巻十七にある行列式は「解伏題之法」(天和癸亥重陽日重訂書)のとは異なる表現が与えられている。その違いの理由などに言及する。
2.日本数学会教育委員会「第一回大学生数学基本調査」について
 真島 秀行


 日本数学会教育委員会は昨年,2011年4月−7月に「大学生数学基本調査」を実施し,結果の概要を2012年3月の年会で行われたシンポジウムで公表した。講演者はその一連のことに教育担当理事として関係してきたので,調査表,結果,結果の分析等について手短に話す予定である。
 調査の背景としては次のようなことがある。1990年代から大学初年次教育において学力の低下が問題とされ,1996年の大学教員を対象として「大学基礎教育アンケート調査」を実施したところ,学生の,1.読解力や表現力など日本語の基本的な能力の低下,2.抽象的な思考力や論理的思考力の低下,3.意欲や根気・忍耐力の低下,等が浮かび上がっていた(浪川・西本氏の報告がある)。2000年以降も日本数学会の学術的会合に参加する大学教員から,「学生の答案に意味不明なものがしばしばみられるようになってきて対処が困難である」という声が多く聞かれるようになり,日本数学会教育委員会で検討する中で,大学教員の間では「学生が論理を理解する力,論理を構成し表現するという力を失ってきているのではないか」という危惧が高まっていることがわかった。これが今回の調査を行う動機となった。