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講演内容アブストラクト
1.市民的教養としての数学教育を目指して
 −高等学校新学習指導要領の精神−
 浪川 幸彦


 4月から高等学校の数学・理科で新学習指導要領が実施されました。来年からは全科目で,年次進行での実施となり,いよいよ学習指導要領改訂は仕上げの段階を迎えます。
 この学習指導要領改訂は,学力低下問題を受け,思考力・表現力・判断力の向上を真正面から目標に掲げました。そしてその方策が言語力の充実と主体的学習活動の重視です。このいずれもが数学に深く関わっており,数学教育自身の改革が求められています。
 その変化は高等学校数学で,統計的内容の必修化,課題学習の導入,科目「数学活用」の新設となって具体化しています。実施のこの時に当たり,これらの改訂の意味と必要性を改めて皆様と考えたいと思います。その改訂の趣旨は一口に言って,市民的教養としての数学(数学リテラシー)教育を主体に据えようというものです。それは専門数学を尊重しつつそれに偏らず,受験数学からの脱却を目指すものです。
 講演者からの話だけでなく,皆様からの率直なご意見も頂きたく存じます。
2.不確定性原理の反証と新しい定式化

 小澤 正直


 量子力学は、20世紀の初めに現れ、微視的世界の現象を説明し、予測する理論として大きな成功を収めました。1927年にハイゼンベルクによって提唱された不確定性原理は、微視的対象に関するわれわれの認識に大きな制約があることを明らかにし、ニュートン力学の描く決定論的な世界観を覆すという大きな社会的影響を与えました。この不確定性原理によれば、位置と運動量のような相補的な物理量を同時に測定すると、それらの測定誤差の積は、プランク定数で定まるある一定値を下回ることができないとされています。
 しかし、重力波検出装置の感度限界を巡る論争により、この公式を打ち破る測定が実現可能であるという理論的結果が導かれ、この公式の正当性を見直す必要性が明らかになってきました。本講演では、この不確定性原理の破れを世界で初めて実験的に観測した最近の実験の成果を紹介し、また、このハイゼンベルクの公式の不備を改め、あらゆる観測において普遍的に成立する新しい不確定性原理の関係式を解説します。この成果は、基礎科学の発展にとどまらず、これまで不可能とされた測定技術の可能性を大きく切り開き、ナノサイエンスでの新しい測定技術の開発の他,重力波の検出実験、量子暗号などの量子情報技術への応用が期待できます。
 また, 理論,実験両面にわたり,日本人研究者が先導した独創的研究によって基礎科学の基本原理を書き替えたことは,特筆すべきことです。