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講演内容アブストラクト
1.教員は指導しやすいと思っているが
生徒には理解しにくい内容をどう教えるか?
 田中 紀子・武藤 利昌


 高等学校数学IABに関して、「教員は指導しやすいと思っているが生徒には理解しにくいと感じている内容」がどこなのかなど、「教員が指導しにくい内容」「生徒が理解しにくい内容」がどこか,どうずれているかを知るため、2009年度に県内40校の高等学校の生徒と教員にアンケート調査を実施した。調査結果を分析し、「指導上の留意点」としてまとめ、さらに具体的な指導法を提案する。
 例えば、絶対値に関する内容について『1)絶対値の意味、2)|a-3|などの場合分け、3)y=|x-2|などの関数』などの項目について調べたところ、1)2)は、教員は説明に気を配っているが、生徒はそれほど理解しにくいとは感じていない。一方3)の絶対値のグラフは、教員が感じている以上に生徒は理解しにくいようである。この結果からグラフを丁寧に指導しておくことにより、視覚的に捉えることができ、理解を深めることができると考える。さらに、絶対値の場合分けを分かりやすく説明する工夫や、絶対値が2つ入っている場合の外し方の指導などを提案する。この例を含め、数学IABの24項目について調査分析し、指導法の提案を行った。
 本研究は、愛知県総合教育センターの「教科指導の充実に関する研究(数学)」において、「当面する数学教育の諸課題についての調査研究」として、7名の研究委員とともに進めたものである。新学習指導要領実施を来年に控え、課題学習の提案についても紹介したい。
2.結晶格子の数理

 内藤 久資


 ダイアモンドなどに代表される結晶の構造を数学として考える場合には、従来は、結晶の原子配置の対称性をあらわす結晶群が用いられてきた。19世紀〜20世紀初頭には結晶群の分類が研究され、2次元結晶群は17種類、3次元結晶群は230種類に分類された。しかしながら、結晶群は原子配置の対称性のみを記述する言葉であり、現実の結晶構造に含まれるはずの原子の結合状態を記述しているわけではない。
 2000年に小谷元子と砂田利一は、局所有限グラフが結晶を表すと考えられるための条件を数学的に考察し、結晶格子の概念を定義した。さらに、結晶格子が高い対称性を持つための条件として、変分原理を経由して、標準実現の概念を提唱し、ダイアモンドなどの結晶の原子配置のみならず、原子間の結合の様子を書き下すことに成功した。この結晶格子の標準実現の概念を用いて、砂田利一は、ダイアモンドと同等の強い等方性を持つ3次元結晶格子が、ダイアモンド以外にも存在することを発見した。このように、局所有限グラフから出発した結晶格子とその標準実現の概念は、実際の結晶を記述するために十分な概念と考えられ、これを通じて発見された新しい結晶の形は、現実の世界でも存在しうる可能性がある。
 そこで、我々は、この新しく発見された結晶の形を実現する物質の存在の可能性を第一原理計算とよばれるシミュレーション手法によって計算し、新しい炭素結晶の存在の可能性を示唆することができた。
 今回は、結晶格子とその標準実現・強等方的結晶格子の概念から始めて、炭素結晶の電子状態のシミュレーション結果などを紹介したい。