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講演内容アブストラクト
1.数学リテラシーの観点から見た新学習指導要領
  ―高等学校数学を中心に―
 浪川 幸彦


 「リテラシー」は、近年教育内容を考える上で重要な概念になっている。
 この用語は、「読み書き能力」と「基本的素養」との二重の意味を持っているが、「数学リテラシー」はその双方の意味に関わる。すなわち「学問における(思惟およびコミュニケーションのための)基本言語(の一つ)としての数学を用いる能力」と「21世紀の市民として持つべき数学的素養」との二つが数学リテラシーの内容になる。
 今回の学習指導要領改訂では、「読解力の育成」と「理数教育の充実」が重視されたが、これらは数学にとってまさにこうした「数学リテラシー」の重視に当たる。
 そこでこの観点から数学の教科目標あるいは内容を捉え直すことで、今回の改訂の意味がより明確なものとなる。ここではそれを具体的に試みたい。中高数学の目標の中で「数学リテラシー」の考え方は「数学のよさ」という言葉に込められているが、この用語では曖昧である。特に高等学校数学では、数学Iが必修となったこと、数学IAで課題学習が取り入れられたこと、統計が必修内容として数学Iに加わったこと、「数学基礎」が「数学活用」に衣替えしたことなどの意味がこの観点から説明される。
 今年からいよいよ高等学校でも新学習指導要領実施に向けた態勢作りが始まる。本講演はその準備に資するものとしたい。
2.確率論の見方・考え方

 高橋 陽一郎


 哲学的な議論の歴史は古いが、数学としての確率論の歴史は「古典確率論」と「現代確率論」に大別される。古典確率論は組み合わせ的確率論ともいい、フェルマーとパスカルの往復書簡に始まり、ベルヌーイやド・モアヴルたちが発展させて、微分積分法の確立を踏まえて、19世紀初頭にラプラスにより集大成された。現代確率論は、ボレルの正規数定理を先駆けとしてコルモゴロフ、ウィーナー、P.レヴィ、そしてドゥーブたちにより確立され、関数論や偏微分方程式論などとの相互作用のもとに発展して来た。数理統計学もその確率論に依拠している。
 現在の確率論は、伊藤清の確率微分方程式の創始以来、「確率分布」から「見本路(sample path)」の解析へと、つまり「確率解析」へと発展している。これにより、より多様な応用を獲得するとともに、数学者に共通の常識となりつつある感がある。もちろん、日本の高校で扱われている内容は古典確率論の一部であり、単元としての比重のかなりの部分は、場合分けや組み合わせ論的な取扱いの習得にあるとみてよいであろう。さらに、新指導要領のもとで導入される「データ処理」ではさらに統計の実務的な側面に力点が置かれているようである。
 当日は、以上のようなことを踏まえつつ、『現代確率論の常識』(岩波書店「科学」78巻4号、398-405、2008年4月)に述べた題材の一部を取り上げて、確率を数学的に捉えることとその意味をお話ししたい。