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講演内容アブストラクト
1.幾何化予想とその解決への道

 小林 亮一


 19世紀末にポアンカレは、図形のトポロジーが代数的不変量で区別できる可能性を示し「基本群が自明な3 次元閉多様体は3 次元球面とトポロジーが異なり得るか?」という問題を提起した。これに対する否定的答がポアンカレ予想で「基本群はどれだけ3 次元閉多様体のトポロジーを決定するか?」という問題に姿を変えて20 世紀のトポロジーとくに手術理論を牽引した。1970 年代半ばまでに「連結和分解定理」と「トーラス分解定理」により「3 次元閉多様体は基本ピースから成る」ことが示された。
 1970 年代後半にサーストンはリーマン面の一意化の3 次元類似である「幾何化」という概念を導入し,ハーケン多様体の場合にはトーラス分解の各ピースが幾何化されることを示した。「すべての3 次元閉多様体は幾何化されるピースに標準的に分解する」というのがサーストンの幾何化予想(1980 年)であり,ポアンカレ予想を含む。
 1980 年代前半にハミルトンは幾何化予想をリッチフローとよばれるリーマン計量の発展方程式の時間大域挙動の問題として定式化,手術を人間でなく時間発展するリーマン計量が行う「手術つきリッチフロー」を導入して予想解決のプログラムを描いた。
 一方1980 年代にさかんになったグロモフに起源を持つリーマン多様体の崩壊理論も多様体のトポロジー研究に新しい方向性を示していたが,21 世紀になってその流れから突然ペレルマンが登場し,2 編の論文でリッチフローのきわめて斬新な解析を展開してリーマン多様体の崩壊とリッチフローを合流させ,ハミルトンプログラムに沿った形で幾何化予想を解決した。
今回はサーストン,ハミルトン,ペレルマンによる幾何化予想解決の流れを概観し,今後への問題提起などを含めてお話したい。
2.大学初年次数学教育の再構築
−大学生の学びの実態と大阪府立大学の取組−
 川添 充


 大学生の学力低下・学習意欲の低下がさかんに言われるようになって久しい。高校までの履修内容縮減が原因であるとか、大学のユニバーサル化が原因であるとか、理由はいろいろ言われてはいるが、とにもかくにも、大学の教育現場ではこれらの問題に対して現実的に対処しなくてはならない。
 大阪府立大学でも、基礎学力の低下や、授業時間外に勉強しない学生の学習実態、演習問題のプリントを配布すれば「解答はないのですか」と解答の配布を要求する学生の学習姿勢が問題となっていた。大阪府立大学総合教育研究機構数学グループでは、これらの問題の改善を目指して、学生が気軽に数学の質問に訪れることのできる質問受付室の開設や、自主学習を支援するWeb数学学習システムの構築といった授業時間外の学習支援を中心に、入学時の数学基礎学力調査試験の実施、再履修クラスの設置などの取組を組織的に行ってきた。これらの取組は平成17年度に始まり、文部科学省特色GP採択期間(「大学初年次数学教育の再構築」平成19年度〜21年度)を経て、現在に至っている。取組においては、一貫して、学生たちに「自ら考え学ぶ」姿勢を身につけさせることを目的とし、質問受付室やWeb数学学習システムでは「解答を教えない」ことを基本方針としている。
 大学初年次における教育現場の悩みは高校までの教育のあり方ともつながる話である。本講演では、現在の大学生の学びの実態、学生の学習姿勢の転換を目指した大阪府立大学の取組の経緯と現状など、大学の教育現場の実情をお伝えし、今後の数学教育のあり方を考えてみたい。