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講演内容アブストラクト
1.双曲幾何からみた有理数の世界
 糸 健太郎



 1つの有理数に対してフォードの円 (Ford circle) と呼ばれる1つの円板を対応させることで,上半平面上に,有理数集合と1対1対応にある円板族が得られる。この円板族は有理数の連分数表示と馴染みが深く,有理数に関して幾何的な知見を与えてくれる。
 この講演では,上半平面を双曲空間(非ユークリッド幾何の空間)と見なしその空間の無限遠にある有理数が全て対等であるという立場で見たときに,上の円板族が自然に理解出来ることを説明したい。
 ここで非ユークリッド幾何とは,ユークリッド幾何の公理のうち平行線の公理を満たさずに矛盾なく展開される幾何学である.講演の前半において,双曲空間(非ユークリッド幾何の空間)を上半平面に実現する方法を説明する。
2.学校教員の数学リテラシーについて
−アジアにおける幼稚園カリキュラムから考える−
 黒木 哲徳


 日本では、幼児教育に関して、保育所(園)と幼稚園との連携、幼稚園と小学校との連携が叫ばれている。それは、小学校に入学した子どもたちが授業中にもかかわらず廊下に出たり、教室内をうろうろしたりして授業にならない状況(「小1プロブレム」)が起きているからである。家庭教育の問題であるとする議論もあるが、次のような傾聴すべき指摘もある。「90年代になって、幼児教育の分野では小学校のような総合的科学的なカリキュラム体系に基づく“計画保育”の実践スタイルを見直し、個に寄り添ってお遊びを豊かにふくらませる中で総合的な力と自立の力を育む方向へとシフトした。義務教育での「学力観の転換」に匹敵するほどの大きな変化であり、幼・小の接続という点から見て大きな断絶を生んだ」とする指摘である(日本教育新聞の連載から)。
 しかし、教科の問題に立ち入ると “幼稚園時代は遊ばせておけばよい、早期教育はいらないよ”と一斉に反発を食う。いま、それが早期教育という言葉でまるごと片付けられるのかということである。ここでは、地域的に近いアジア各国の幼稚園のカリキュラムを例示しながら、これからのカリキュラムの方向性と幼稚園教諭と小学校教諭にとってのリテラシについて考えてみたい。
 このような学校種による断絶の問題は、小学校と中学校、中学校と高校でも起きている。それは学校生活全般ではなく、個別教科ごとに起きている場合もある。数学ではそのことが顕著である。算数から数学へ、一つの数学から複数の数学への分化など、初学者にとってはその変化の激しさが断絶を生む。どうしたら数学を真に学ぶべき価値のあるものとして捉えることができるか、そのために教師のもつべきリテラシとは何か、そのような研究が求められている。生涯教育の今日、大学の果たすべき役割がここにある。