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講演内容アブストラクト
1.素数とゼータ関数
−確率論の視点から−
 松本 耕二


 素数の分布を考えるとき、個々の素数を調べるだけではなかなか気づかない法則が、広い視野で平均的挙動を見つめることによって浮かび上がってくることはよくあります。それは、素数の分布を、確率論の視点から眺めている、と言い換えてもいいでしょう。素数分布論でもっとも基本的な素数定理自体、そうした確率論的な衣装をまとった法則と考えられます。
 また素数分布論の研究にとってもっとも基本的な道具と言えばやはりRiemann のゼータ関数ですが、Riemann のゼータ関数の性質の中にも、確率論の視点から眺めることではじめて見えてくるものがあります。たとえば種々の平均値定理はそういうものの一種で、Riemann のゼータ関数が各点で取る個々の値を調べることよりも、平均的な値を調べる方がずっと簡単であり、素数分布論への応用にはそれだけでしばしば十分な情報を与えることがあります。
 今日のお話では、またRiemann のゼータ関数の値分布論や普遍性についても触れたいと思います。ゼータ関数の振る舞いを確率論、ないしは力学系の視点で捉えるこれらの理論も、ゼータ関数の驚くべき一面を浮かび上がらせる、大変興味深いものです。
2.統計・確率教育を問い直す
 何森 仁



 数学教育で数学の抽象性・理論性を前面に出したやりかたは、決して子どもたちに良い結果を生みません。先人たちが地べたを這いずり回った数学の歴史を見れば、子どもたちに伝える数学教育は、具体・現象から抽象・理論へと進むのが自然というものです。ところが、悪しき「受験数学」は、理屈抜きの問題解き能力を養成するため、暗記力・我慢力にものをいわせガンバル子も出てくるのです。この形式的ゲーム感覚の数学は、表面上「抽象性・理論性」と見誤られたりするので始末が悪いものです。
 統計・確率教育については、より一層具体的現象から数学の対象になるものを取り出し、分析して総合し抽象理論化する必要があります。しかし、現在の統計・確率教育の現状を見ると、すっと形式的理論から入るため、その概念形成が子どもたちにできているとは思えません。その証拠に「サイコロを振って1の目が出る確率は1/6ですが、確率1/6とはどういうことですか。」の問いに、「6回試して1回起こること。」という趣旨を数学科の半数以上の学生が答えるのです。「あなたはそれを信じていますか」と聞いたら「信じていません。でも先生、数学の確率ではこれでいいのです。現実とは違うと思います。」と言われました。
 今回は、統計・確率教育をどう創ったり、建て直すかの私見を皆さんにお話したいと思っています。