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講演内容アブストラクト
1.小学校教員の数学的リテラシーについて
 黒木 哲徳


 小学校教員は算数を教えればいいので数学は必要ないと思っている人が多い。確かに,小学校の算数の内容は大人にとっては特段に難しいとは思えないし,子どもたちの多くも小学校での算数は好きである。しかし,高学年になり,さらに中学校になると数学嫌いが増えていく。このことは何を意味するのであろうか。そこで,算数科というのはどのような教科であるのかを考えてみたい。
 当然のことであるが,子どもの発達とそこで学ぶべき教科の内容がかけ離れていれば,そこには大きなギャップが生じる。従って小学校の教科指導では,子どもの発達を踏まえる必要があるのはいうまでもないことだが,それは決して子どもの考えが幼稚であることを意味しない。例えば,子どもの概念形成においてはユークリッド的なことより位相的な概念が先にあるというピアジェの指摘があるが,ユークリッド的概念と位相的概念の違いがわかってないとその意味すら理解できない。つまり,教える内容もさることながら,子どもの発達に沿って算数の学習をつくるためにも数学の理解を必要とする例である。ここでは,そのような観点からではなく,算数そのものの内容を一つ,二つ取り上げて,その背景にある数学的な内容との関連から算数科って何かを考えてみたい。
2.数学教育における「思考指導」の系譜
 清水 美憲


 教育界においては,「思考力の育成」や「考えることの教育」が大切であると従来からいわれ,それはいかにして行われるべきかが,古くて新しい問題として常に問われ続けてきた。数学教育においても,子どもたちに「論理的思考」を身につけさせることが最も重要な目標の一つとして常に掲げられ,それはいかに可能であるかを問う研究・実践がこれまでに数多く行われてきた。今回は,このような「思考」の指導(「思考指導」)の前提についての原理的な考察を試みる。
 そのために,数学教育研究史上において高い評価の定まった研究を中心に,「思考指導」の思想的系譜を検討し,「思考指導」のいわば縦糸と横糸を探る。具体的に行うのは,主として以下の三つの作業である。第一は,数学の問題解決に関する研究の文脈でG. ポリアが構想した「発見学」の意義と限界,及びその後のメタ認知研究の展開の検討である。第二は,H.P.フォセットの古典的業績である『証明の本性』における「批判的・反省的思考」の育成の意味と方法の検討である。そして第三は,フォセットがその数学教育観において依拠していたとみられるJ.W.A.ヤングの著作における数学教育目的論の吟味である。