プロジェクト概要
1 構成メンバー
野原雄一(多元数理科学研究科博士後期課程3 年)(責任者)
藤井篤之(多元数理科学研究科博士後期課程1 年)
三鍋聡司(多元数理科学研究科博士後期課程1 年)
浜中真志(多元数理科学研究科助手)
2 プロジェクトの概要と位置付け
本プロジェクトは,超弦理論における双対性をテーマとする,大学院生主体の研究プロジェクトである.ミラー対称性, 及びゲージ理論における双対性に主に関心を持つ.テーマの持つ数学的内容の豊富さから,多くの研究グループと関わると思われるが,特に
菅野浩明教授の教育研究プロジェクト「弦理論の幾何学とその拡がり」と常に連携して研究を進める予定である.
3 プロジェクトの内容
3.1 背景
1.超弦理論における双対性.
重力を含めた素粒子の統一理論の試みである超弦理論は,豊富な構造を持つ数理的モデルであることが明らかにされている.超弦理論には様々な模型が提唱されており, IIA 型, IIB 型など5 種類のものが知られている. これら5 つの超弦理論は物理的には等価なものであり, 統一的な記述が求められてきた. 近年, 各理論の間の対称性, 弦理論の双対性, が発見され, 数学にも多大な影響を与えている. その一つに, T 双対性とよばれるものがある. T 双対性とは, IIA 型とIIB 型との間の双対性である. そこには多くの数学的内容が含まれている. 次に数学に現れるT双対性の例を挙げる.
2.ミラー対称性.
最初の例はミラー対称性である. そのおおまかな内容は,IIA 型とIIB型の超弦理論がそれぞれがM,W という異なる多様体上で実現されているとき,2つの多様体の一見異なる情報が一致してしまう,というものである.ミラー対称性からの帰結として,M 上の代数的な構造から定まる量が,W の超越的な構造から定まる量で表される,といった形の予想がなされる.このように,ミラー対称性(あるいはより大きな対称性である弦理論の双対性)は,一見遠く離れた二つの数学の分野の間に繋がりがあることを示唆する.ミラー対称性は,近年活発に研究されており,様々な数学的な定式化,及び一般化がなされつつある.
3. ゲージ理論における双対性.
次に, ゲージ理論においてT 双対性を最も端的に反映するものとして,Nahm 変換と呼ばれるものがある. これは, R4 上の平行移動に関して不変なインスタントンのモジュライ空間が, 別の空間上のある方程式の解空間と一対一に対応する, というものである. この対応によって, インスタントンという超越的な対象がある代数方程式系によって記述され, 代数幾何学との関係が明らかとなる. Nahm 変換は, 代数幾何学におけるFourier-Mukai 変換に対応し, その重要性は増してきている.
3.2 具体的目標
本プロジェクトの目的は,弦理論の双対性という視点から,既存の数学を見直すこと,並びに新たな理論を創り出すことである.本プロジェクトが取り組む研究課題と, 各構成メンバーの役割は以下の通りである. ミラー対称性に関わる問題としては, 野原がLagrangian ファイブレーションの存在問題や, Ricci 平坦計量の存在問題に取り組む. 三鍋はミラー対称性の圏論的定式化と, そこから新たな対称性の概念を見いだす問題に興味を持っている. 浜中, 藤井は弦理論の立場からこれをサポートする.
ゲージ理論におけるNahm 変換については, 多くの研究がなされているが,一般の平行移動で不変な場合には, やるべき問題が残されている. 特に解析的な基礎づけはまだ充分ではない. 藤井は主にこの問題に取り組む. 三鍋は代数幾何の立場から, 野原は微分幾何の立場から, 浜中はゲージ理論の立場からこれをサポートする. また, これは非線型解析と関わる問題であるので, 将来的には解析のグループとの連携も考えられる.
当面の目標は,参加者が各自の問題意識を明確にし,問題をより具体的に設定し,解決の糸口をつかむことである.
3.3 研究計画
以下のプロセスに沿って,研究を進行させたい.
1. 基礎的な事項の理解.
2. 問題意識の明確化.
3. 研究課題の発見.
4. 課題の解決.
現在, 上記1 にあたる活動として, ミラー対称性の勉強会, ゲージ理論における双対性に関する勉強会をそれぞれ定期的に行っている.
また, 上記2 にあたる活動として, 教育研究プロジェクトやCOE レクチャーシリーズにおける菅野教授の連続講義, 中島啓氏(京都大学) の集中講義等の講義録の作成を考えている.
これらの活動をふまえて, 上記3 にあたる活動として, 8月30日〜9月3日の日程で、以下のミニワークショップを開催する。