「音律を作る」

注(2014 年 1 月):これは私が大昔(おそらく 2003 年)に書いたレポートを発掘したものです. せっかくなので公開してしまいます. いまさら内容についての突っ込みは受け付けませんのでご了承ください.


音律を作る

このレポートでは、いくつか音律を作り、その調和性を評価していく。

音律を作るにあたり、意識したのは以下の点である。

なお、以下において、音階とは、連続した3つ以上の音、和音とは、連続していない2つ以上の音、の意味で使う。

また、ある音律について、含まれる全ての音をなるべく簡単な整数比で表したときの、それらの数の素因数の集合をその音律の「基底」と呼ぶことにし、以下では基底によって音律を分類していく。

2、3を基底とする音律

基底が2だけではオクターブしか作れず、音律の作りようがない。まずは2と3だけで作ることができるか試みる。

完全5度を表す2:3の和音を使うよりない。

まず1と2を配置する。

1×(3/2)で3/2を配置する。

2×(3/2)-1で4/3を配置する。

(3/2)×(3/2)で9/4を配置する。9/4はオクターブからはみ出しているので9/8とする。

(4/3)×(3/2)-1で8/9を配置する。8/9はオクターブからはみ出しているので16/9とする。

(9/8)×(3/2)で27/16を配置する。

(27/16)×(3/2)で81/32を配置する。81/32はオクターブからはみ出しているので81/64とする。

以上より8音からなる次の音律を得る。これをJとおく(単なる記号であり、特別な意味はない)。

音律J
Cent
110
29/8204
381/64408
44/3498
53/2702
627/16906
716/9996
121200

5度重積をさらに繰り返していけばピタゴラス音律となる。参考のため、12音律において近い音名を(C durと仮定して)最右列に記しておく。

この音律の特徴は、{J1、J5}、{J5、J2}、{J2、J6}、{J6、J3}、{J7、J4}、{J4、J1}、が2:3の和音になっていること(定義より明らか)であるが、それ以外の和音は16:27や64:81といった不調和な和音となっている。歴史的には、この64:81を調和した和音にすべく音律の研究が進み、純正律(=音律K、後述)が生まれたという経緯がある。

2、3、5を基底とする音律

2と3だけでは実質的に2:3の和音しか作れないので、5を加えてやや複雑な音律が作れないだろうか。

I

完全5度を表す2:3は使いたい。これと5を組み合わせるには4:5:6となる3音を取るのがよい。そこでオクターブの中に4:5:6の和音をいくつか入れることを考える。

まず1と2を配置する。

1から始まる4:5:6の和音を作る。すなわち5/4と3/2を配置する。

2で終わる4:5:6の和音を作る。すなわち4/3と5/3を配置する。

3/2から始まる4:5:6の和音を作る。すなわち15/8と9/4を配置する。9/4はオクターブからはみ出しているので9/8とする。

以上より8音からなる次の音律を得る。

音律K
Cent
110
29/8204
35/4386
44/3498
53/2702
65/3884
715/81088
121200

この音律は一般に純正律といわれている。参考のため、12音律において近い音名を(C durと仮定して)最右列に記しておく。

この音律の特徴としては、{K1、K3、K5}、{K4、K6、K1}、{K5、K7、K2}が4:5:6の和音になっていること(定義より明らか)、また、{K1、K2、K3}、{K5、K6、K7}が8:9:10の音階になっていること、{K4、K5、K6}が10-1:9-1:8-1の音階になっていることが挙げられる。

II

完全5度を表す2:3はやはり使いたい。これと5を組み合わせるために、今度は6-1:5-1:4-1となる3音を取ることにする。そこでオクターブの中に6-1:5-1:4-1の和音をいくつか入れることを考える。

まず1と2を配置する。

1から始まる6-1:5-1:4-1の和音を作る。すなわち6/5と3/2を配置する。

2で終わる6-1:5-1:4-1の和音を作る。すなわち4/3と8/5を配置する。

3/2から始まる6-1:5-1:4-1の和音を作る。すなわち9/5と9/4を配置する。9/4はオクターブからはみ出しているので9/8とする。

以上より8音からなる次の音律を得る。

音律L
Cent
110
29/8204
36/5316Es
44/3498
53/2702
68/5814As
79/51018
121200

この音律は短音階といえる。やはり参考のため、12音律において近い音名を(C mollと仮定して)最右列に記しておく。

この音律の特徴としては、{L1、L3、L5}、{L4、L6、L1}、{L5、L7、L2}が6-1:5-1:4-1の和音になっていること(定義より明らか)、また、{L6、L7、L1}が8:9:10の音階になっていること、{L3、L4、L5}が10-1:9-1:8-1の音階になっていることが挙げられる。

ここでは1と2以外の全ての音を6-1:5-1:4-1の和音を使って定義したが、そのうちのいくつかに4:5:6の和音を使う別の定義(ゆえに別の値)を与えることにより、これとは若干違った音律をいくつか作ることができる。

また、ここでは{L1、L3、L5}、{L4、L6、L1}、{L5、L7、L2}の3組が調和した和音になるように定義したが、他の組が調和するように定義することもできる。次に述べるものがその一例である。


III

4/3と8/5を配置するまでは音律Lと同様にする。

4/3で終わる6-1:5-1:4-1の和音を作る。すなわち8/9と16/15を配置する。8/9はオクターブからはみ出しているので16/9とする。

以上より8音からなる次の音律を得る。

音律M
Cent
110
216/15204
36/5316Es
44/3498
53/2702
68/5814As
716/9996
121200

この音律も短音階といえる。同様に、12音律において近い音名を(C mollと仮定して)記しておく。

2、3、7を基底とする音律

2、3、5からは多彩な音律を作りうることがわかった。5の代わりに別の素数7を使うとどうなるか。

完全5度を表す2:3は使いたい。今度はこれと7を組み合わせるので、6:7:8となる音階をオクターブの中にいくつか入れることを考える。

まず1と2を配置する。

1から始まる6:7:8の音階を作る。すなわち7/6と4/3を配置する。

2で終わる6:7:8の音階を作る。すなわち3/2と7/4を配置する。

以上より6音からなる次の音律を得る。

音律N
Cent
110
27/6267
34/3498
43/2702
57/4969
121200

この音律の特徴としては、定義通り{N1、N2、N3}、{N4、N5、N1}が6:7:8の音階になっていること、また、{N1、N3}、{N4、N1}、{N5、N2}が3:4の和音になっていることが挙げられる。

ただ、音数が少ないので、使い方が難しい。

音律Nの定義において「6:7:8」を「8-1:7-1:6-1」と読み換えることにより、6音からなる次の音律を得る。

音律P
Cent
110
28/7231
34/3498
43/2702
512/7933
121200

この音律の特徴としては、定義通り{P1、P2、P3}、{P4、P5、P1}が8-1:7-1:6-1の音階になっていること、また、{P1、P3}、{P4、P1}、{P5、P2}がやはり3:4の和音になっていることが挙げられる。

この音律もNと同様に音数が少ないので、これを使って曲を書くのは難しいだろう。

ところで、音律Pにおいて、隣り合う2音の比を並べると、音律Nのそれの逆順に等しくなる。すなわち、(XaとXbのCent値の差をXa-Xbと書くことにすると) 任意のiについてN(i+1)-Ni = P(7-i)-P(7-(i+1))が成り立つ(Xi+5=Xiと定める)。つまり、音律Pは音律Nの「逆」であるといえる。

実は音律MとKにおいても同様のことがいえる。もちろん、美しい音律の「逆」音律が必ずしも美しいとはいえないが。

2、5、7を基底とする音律

あえて3を使わずに音律を作ってみよう。しかし、これはかなり難しい。今まで土台として使ってきた3/2と4/3が使えない。7/5と10/7で代用しようとすると、この2音が50/49=35Centと近すぎる。

辛うじて次のようなものが作れる。

音律Q
Cent
110
28/7231
35/4386
47/5583
510/7617
68/5814
77/4969
121200

7:8、4:5といった和音はあるものの、6:7:8のように連続した音階が存在しない(基底に3を含まないので当然なのだが)。そのためあまり美しくなさそうだ。

「オクターブ」の前提を破る

今までは1と2を固定して、その中にいくつかの音を配置して音律を作ってきたが、その前提を必ずしも守らなくてもいいのではないだろうか。

確かに我々にはある音とその1オクターブ上の音は同質に聞こえるが、その2音を同質とみなしている環境で育ってきたからかもしれないし、2倍音より3倍音の方が調和して聞こえる生命があってもおかしくない。

そこで3倍音を「擬オクターブ」として音律を作ってみる。また、Cent値の定義も変えて、比rのCent値を1200logr/log3とする。

いずれにしろ2:3は美しい和音なので、これを多く取り入れてみる。

まず1と3を配置する。

1×(3/2)で3/2を配置する。

3×(3/2)-1で2を配置する。

次に和音8-1:7-1:6-1の利用を考え、1を起点としたもの、(3/2)を起点としたもの、3を終点としたものを作る。すなわち、8/7、4/3、12/7、9/4、18/7を配置する。

以上より9音からなる次の音律を得る。

音律R
Cent
110
28/7146
34/3314
43/2443
512/7589
62757
79/4886
818/71032
131200

また、「8-1:7-1:6-1」を「6:7:8」と読み換えれば、次の音律を得る。これは同時にRの「逆」音律でもある。

音律S
Cent
110
27/6168
34/3314
43/2443
57/4611
62757
79/4886
821/81054
131200

Rは、{R1、R2、R3}が8-1:7-1:6-1、{R3、R4、R5、R6}及び{R6、R7、R8、R1}が9-1:8-1:7-1:6-1と調和した音階になっている。

Sも、{S1、S2、S3、S4}及び{S4、S5、S6、S7}が6:7:8:9、{S7、S8、S1}が6:7:8と調和した音階になっている。(逆音律であるから同等の調和性をもつのは当然)

また、i=7,8のときを除き、{Ri、Ri+3}も{Si、Si+3}も2:3という調和した和音になっている。このように、RもSも(理論上は)かなり調和した音律となっている。

結論

実際のところ、これらはあくまで机上論であり、実際に演奏してみなければ本当にいい音律かはわからないと思う。7を含んでいる和音なども聞いてみなければどんなものかわからない。3を擬オクターブとした音律を上下に拡張していくとどのような音になるのかも、未知数であり興味深い。


注(2014 年 1 月):上でも書きましたが,これは私が大昔(おそらく 2003 年)に書いたレポートを発掘したものです. いまさら内容についての突っ込みは受け付けませんのでご了承ください.


最終更新日: 2014/01/24
ページ管理者:松本雄也
(matsumoto.yuya AT math.nagoya-u.ac.jp)