量子推定理論における漸近理論
レベル:入門・研究報告
第1回目
タイトル:量子推定理論の数学的定式化
日時:1999年2月18日(木)
16時30分から18時まで(Part I)(東大数理)
要約
量子系で測定を行うと,測定器の構造と測定対象である状態の双方に依存して
測定値が得られる.
しかし,一般にはその測定器の構造と準備された状態から,
測定値の値を予言することはできない.
両者からは個々の測定値が得られる確率だけが
予言できる.
本講演では測定対象である状態が未知で,
なおかつ十分たくさんにその未知状態が準備できるとの仮定の下で,
その状態を推定するにはどのような性質をもつ測定器を用いて
測定すればよいか考察することにある.
なお,ここで測定器と呼んでいるものは,
単にビームなどの測定対象を測定して,
データを与える測定装置だけではなく,
そのデータを変換する計算機と測定装置を組み合わせたものを
意味することもある.
第1回目の講演では量子系の記述に関する数学的な定式化
及び相対エントロピー,Affinity,Fisher 情報行列等の量子的対応物を紹介する.
以後の講演ではこれらの量子的対応物が推定論の枠組みで
どのような役割を果たすか考察する.
第2回目
タイトル:量子1パラメータ族の漸近理論
日時:1999年2月19日(金)
10時30分から12時まで(Part II)(統計数理研究所)
要約
2回目の講演では量子1パラメータ族の漸近理論を扱う.
ここでは,平均2乗誤差及び大偏差型双方の意味での漸近的な誤差評価を行う.
さらに,その際,推定量に対してどのような一致性を課すと
超有効な例がなくなるか考察する.
この際,一致性条件に関してかなり緻密な議論ができる.
特に,大偏差型の場合では推定量に課す一致性条件が2種考えられ,
一致性条件を変えることで異なった2種の下限が導出されることを示す.
第3回目
タイトル:量子マルチパラメータ族の漸近理論
日時:1999年2月19日(金)
13時30分から15時まで(Part III)(統計数理研究所)
要約
量子マルチパラメータ族の漸近理論では,
量子1パラメータ族の場合と異なり一致性条件に関する緻密な議論はなされていない.
しかし,量子マルチパラメータ族の場合には
量子1パラメータ族の場合では扱えないおもしろい問題がある.
量子マルチパラメータ族の場合では各パラメータに対応する推定量が
非可換になり,複数のパラメータを同時に推定することが問題になる.
例えば1つ目のパラメータの推定に最適な推定量が
2つ目のパラメータに対しては全く情報を与えないという事態が発生する.
この場合1つ目のパラメータの推定と2つ目のそれとは
trade-off の関係にあり,ある種の重み付けを行った上での最適化を考えることになる.
参考文献
-
長岡浩司,``量子状態推定の漸近理論について,''
- 数理研究所講究録 879, pp.155 (1994).
-
長岡浩司,``Kullbacl Divergence と Fisher 情報量について
-古典系から量子系へ- ,''
- 情報理論とその応用学会ジョイントミニワークショップ講演資料,
pp.63 (1992).
-
A. S. Holevo,
Probabilistic and Statistical Aspects of Quantum Theory,
- (North-Holland, Amsterdam, 1982).
-
林 正人,"量子推定論における漸近的大偏差型評価について"
[dvi,ps]
- シンポジウム「統計的推測理論とその情報論的側面」予稿集
- 1998年11月25日,26日,27日 pp.53-82
-
林 正人,"Spin 1/2 系 純粋状態ファミリーの漸近推定理論"
[dvi,ps]
- 第5回「非平衡系の統計物理」シンポジウム ,物性研究(1999年2月号)掲載予定