一方, で記述される系への測定は
上の正値な行列(作用素)による単位行列(単位作用素)の分解
で記述される.
(標準的な量子力学の教科書を読まれた方は,
ここでが射影に限られない点を留意していただきたい.)
このような単位行列(単位作用素)の分解を
POVM (Positive Operator Valued Measure, 正作用素値測度)
とよぶ.
量子系の状態が密度行列 で記述されるとき,
POVM に対応する測定を行うと
測定値 の従う確率分布
は
例えば古典的な確率分布 は Hilbert 空間 上の 対角成分が となる対角な密度行列 を考え, POVM ( は第 番目の基底への射影) を考えると, 上記の定式化は確率分布を含んだ記述になる. 逆にいうと,非対角項に成分を持つ 密度行列が出てくることが (同時対角化が不可能な複数の密度行列が現れることが) 量子系特有の難しさといえる.
そして推定問題では 確率分布を対象にする場合と同様に, 真の密度行列があるパラメトライズされた量子状態族 に含まれると仮定して議論することが普通である. なお,各密度行列 が互いに可換であるときは各対角成分への射影を POVM として採用すると 古典論の問題に帰着できる.
以下,本稿で用いる物理の慣習にならったベクトルに関する記法について
述べる.縦ベクトルを
,
その複素共役転置を
で表わす.
積
は
,すなわち,Hermite 内積
に等しい.特に,
である.
また,積
は