だが, 上の 任意の POVM に対応する測定を実行するには 各系間の相互作用を可能な限り積極的に利用する必要があり, 極めて困難である. ここで,以下のような2つの合成系 の POVM の制限されたクラスを考えることにする.
一つ目のクラスでは 個の系を全く相互作用させずに順次測定する. このとき,全ての系に対して全く同じ POVM に対応する測定を行うこととする. こうして構成される推定を「量子相関を用いない非適応的な推定」とよぶ.
もう一つのクラスでは個の系を全く相互作用させずに順次測定するが,
番目までの測定値
に依存させて,
番目に行う測定
を選ぶことが可能とする.
言い換えると,前回までの測定で得られた情報を使って
次の測定の選択に役立てることを許すのである.
こうして構成される推定を「量子相関を用いない適応的な推定」とよぶが,
これは古典的な適応的な実験計画に通じる問題設定である[16].
ここで,Remark で述べるように,
としては
全ての 上の POVM を許すことにする.
このような測定は以下のような合成系上の POVM で
書けることが確認できる.
そのことを承知した上で, 本稿では全てのPOVMに対応する測定の実現可能性を 仮定して,種々の最適化問題を扱う. これは簡単の為の仮定であるが, もし最適解の POVM が実行可能であれば, この問題設定は十分意味を持つ. 実際, 後ので述べるように, boson coherent 状態族では最適解が簡単な実験系で実現できる. spin coherent 状態族でも,で述べるように, 後に述べる意味で最適に近い POVM が簡単な実験系で実現できる. また,本稿では述べないが,spin 系の混合状態からなる系での 「量子相関を用いない適応的な推定」 でも,最適解は簡単に実現できる[31][9]. その他,boson coherent 状態をガウス分布で重ね合わせてできる状態族 (量子 Gauss 状態族)の推定 でも漸近的に最適な推定が比較的容易に実現できる[17].
また,ここでは同一と見なせる状態が複数準備されていることを 仮定しているのであって,同じ状態の複製を作るわけではない. 状態の複製は一般には不可能である.