単純な概念と計算だけで量子らしさを考える 大平徹 最近の量子系の展開は目覚ましいものがあり、情報との関係などで多くの研究者が集って、内容もどんどん数学的にも高度になっています。私は卒業研究で、当時は量子観測論と呼ばれていたトッピックで書いたのが最初の研究論文となりました[1]。残念ながら上記の現状には全くついていけないです。しかし、学部恩師との仕事への郷愁もあり、過去数年ほど、「できるだけ単純な概念と計算だけで量子らしさを考える」趣旨でいくつか取り組んで見ました[2,3,4]。ここでは2スピン系などの2x2量子状態の最も単純な系で、これらについて概説します。数理としては高校での確率と、学部1年生の量子力学と線形代数だけで充分です。また、プリミティブな話ですが、最近より複雑な2粒子系に展開してくださったグループがありました[5]。数理的にはより複雑で、消化できていないのですが、未解決の問題とあわせて雰囲気だけでもお伝えできればと思います。 関連文献 1.「ある種の保存量の存在が、精密な観測を不可能にする」というWigner-Araki-Yanaseの定理のある条件を緩める(擾乱を許す)と、誤差境界をより精密にできるという内容。(後の「小澤の不等式」の簡易版で、小澤氏がこの論文の数少ない引用者。) https://aapt.scitation.org/doi/10.1119/1.15502 2.量子と古典の独立と相関の概念と性質の違いを2x2状態で考え、それにより量子と古典の境界を簡明に照らすことを目論む。 https://academic.oup.com/ptep/article/2018/8/083A02/5077439 3.より一般の2x2状態ベクトルで、エンタングルメントの有無にかかわらず、相関をゼロにするような観測量ペアの構築(ちょっと無理やりですが)がいつもできることを構成的に示した。 https://academic.oup.com/ptep/article/2020/1/013A01/5701546 4.これらを踏まえて、できるだけ少ないゼロ相関観測を用いてエンタングルメントの検出を行うことを目指しての純粋2x2状態での考察。 https://arxiv.org/abs/2007.10605 5.ルーマニアのグループによる、より一般の2粒子量子状態において単にエンタングルメントの有無だけでなく、量子状態の「次元」にあたるシュミット階数を同定するアルゴリズム(観測手続き)の開発に初めて成功したと主張している。 https://link.springer.com/article/10.1140/epjp/s13360-021-01468-y